第74話




「グスン・・・パパぁ」


目を覚ましたら隣でヒナリが眠っていた。

そしてベッドの中だった。

セルヴァンたちが帰ってきたと思ったのに。

あれは『夢』で、2人は帰って来なかったのか。

でも、夢だったのなら後ろから抱きしめてくれるヨルクがいない。


「ママぁ・・・パパが『また』いないよぉ」


「あ!さくら起きてたか?」


ヨルクの声がして顔をドアに向けるとヨルクが近付いてきた。


「どうした?泣いてたのか?」


ベッドの縁に腰掛けたヨルクが私を抱き上げて膝だっこをしてくれる。

その状態で目の端を親指でぬぐわれた。


「・・・ヨルクがいなかった」


「ああ。そうか」と言いながら抱きしめて「まだ昼だったからなー」と頭を撫でてくれる。


「セルヴァンたちが待ってるから行くか?」


「セルヴァンとドリトス、帰って来た?」


「ああ。帰って来てるぞ」


ヨルクは心配そうに見てくるさくらを抱きしめて安心させる。

2人が帰ってきてすぐに眠ってしまったから『夢ではないか』と心配していたのだろう。






さくらを抱き上げると「ヒナリまだ寝てるよー」とベッドを指差す。


「お寝坊さんにはコショコショコショ」


「コチョコチョコチョ」


「きゃあ!」


寝ているヒナリをヨルクとさくらが一緒にくすぐるとヒナリが飛び起きた。


「あ!ヒナリ起きた」


「行くぞ。さくら」


ヨルクが慌ててさくらを抱き抱えて寝室から飛び出す。

リビングを出たところにセルヴァンがいて、そのままさくらを抱き上げる。

それと同時にヒナリがヨルクに追いついて後ろから捕まえた。


「何で『余計な事』をさくらに教えるのよ!」


「何で『オレが教えた』って言えるんだよ!」


「さくら1人で『顔と足の裏』の両方をくすぐれないでしょ!」


ヒナリの怒りに怯えたさくらが、セルヴァンにしがみついて身体を小さくしていた。

セルヴァンは寝室側にいるヒナリたちに背を向ける形で座卓近くの畳に座る。

ドリトスもセルヴァンの向かい側へ移動して小さくなっているさくらの頭を撫でる。


「ヒナリに一体何をしたんだね?」


「ヨルクが『お寝坊さん』にコショコショコショ・・・」


「さくらも?」


「コチョコチョコチョ・・・」


「おやおや」


ドリトスは面白そうに笑う。

ふとドリトス、セルヴァン、ヨルクの順に見ていったさくらは「何かあったの?」と不思議そうな表情でドリトスの顔を見る。

「どうしたの?」とセルヴァンを見上げる。


「何かおかしいかね?」


ドリトスから逆に質問されて首を傾げる。


「・・・よく分かんない。けどみんなどうしたの?気持ちが『トゲトゲ』してて怖い、よ?」


言いながらポロポロと涙が止まらなくなるさくら。

セルヴァンは「大丈夫だ」と繰り返しながらさくらを抱きしめてなだめる。

ドリトスは急いでヒナリたちの元へ向かい、いさかいを止める。

2人はセルヴァンがどんなに宥めてもさくらの涙が止まらない様子を見て慌ててさくらに駆け寄る。


「さくら!」


「どうしたの?」


プルプルと首を左右に振るものの涙が止まることはない。

そのうちに、ガクガクと身体が震えだした。

脂汗も出て止まらない。

自分の身体を強く抱きしめる。

それでも震えが止まらなかった。



「さくら!しっかりして!」


頬に触れるヒナリの手が優しい。


でもダメ。

・・・怖い怖い怖い怖い。

なんか分からないけど、怖い。

みんなの『トゲトゲ』した気持ちが・・・・・・痛くて怖い。

涙が止まらない。

怖くて目を開けられない。


・・・助けて。


涙が止まらない・・・止められない・・・



『さくら!早く部屋マンションへ!』


ムリだよ・・・動けないもん。

・・・ハンドくん。

ハンドくんたちはドコ?



『『ドア』を開けなさい。『風』が部屋に運ぶから』


創造神に言われて『メニュー』と思う。

目を閉じているのに脳内イメージとして普通にメニュー画面が目の前に開く。

そこから久しぶりに『ドア』を選んだ。

マンションの防火扉が現れたんだと思う。

『風の女神』の気配を纏った風が吹いてきた。


『私の『名前』を呼んで』


エアリィ。・・・『エアリエル』。お願い。助けて。怖い。なんか分からないけど怖いよぉ。


『もう大丈夫よ。よく頑張ったわね』


心の中で風の女神の『真名まな』を呼んで助けを求める。

目を閉じているけど身体の周りに風が集まっているのが分かる。

まるで優しく抱きしめられた気がしてから、フワリと身体が浮かび上がった感覚がした。

セルヴァンたちが『お姫様抱っこ』してくれる時に似てる。



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