第73話



「なあ。アンタらって『ナニサマ』?寝ている病人さくらを『殺しにきた』のか?」


「50日も高熱を出し続けて、平熱になったのはごく最近の事だ。今でも1日の大半を寝て過ごしている。その事は下で話したはずだが?そんな『さくら殿』に会って何をする気だ?」


セルヴァンは怒りの冷気を漂わせている。

2人が青褪めて身体を大きく震わせたが、それはセルヴァンの冷気に『あてられた』からだろう。


・・・最低でも5日間は『寒気』がするだろうな。

別に『自業自得』で間違っても『可哀想』とは思わないが。





「セルヴァン・・・だからソレ、さくらにはヤバいって」


・・・仕方がない。

リビングに顔だけ出してハンドくんに寝室に結界を張ってくれるように頼むと合図を出してくれた。

寝室側の壁が白く輝いて、すぐに光は消えた。


「ハンドくんが寝室に結界を張ってくれた」


セルヴァンに言うと「ああ。よくやった」と肩に手を置かれた。

同時にドリトス様も怒りを隠そうとしなくなった。




この2人。同族からは『マジで怒らせたらヤバい』って言われているんだよな。

気の荒いドワーフ族の『部族長』と、気性の激しい獣人族の『族長』の肩書きは伊達ではない。


・・・さくらの前ではただの『さくらバカ』なんだけどな。

オレも含めて。



2人の抑えるつもりのない『怒りの気』で『聖なる乙女』たちは顔面が白くなって恐怖から身体を震わせ続けている。


「なあ。さくらは何度も『生命を狙われた』んだよ。それも聞いたんだよな。それを『聖なる乙女』というだけでホイホイと会わせてもらえると思っているのかよ?」


ヨルクの怒りが2人を遠慮なく叩きのめす。



『羽根を隠してると、『背の高い人』にしか見えないね』


先日さくらが言った言葉だ。

彼女たちは羽根を仕舞ったヨルクを『背の高い人』と勘違いしていたのかもしれない。

しかしヨルクも『さくらバカ』の一人だ。

守るべき雛さくらが絡めば『親バカ』を自覚する父親ヨルクの怒りはセルヴァンたち以上だ。



「わ、私たちはただ『同じ世界』から来たって聞いたから・・・ただ会ってみたかっただけなんです」


「ごめんなさい。自分たちのことしか考えていなかったです」


頭を下げられるが、さくらとヒナリが寝ている時で良かったとつくづく思う。

逆に、さくらが起きている時だったら、セルヴァンたちは手を出せないだろうから、オレとハンドくんたちが遠慮なく叩きのめしていただろう。


「『悪い』と本気で思うなら、二度とここへは・・・最上階へは上がるな。『さくら殿』に会おうと思うな」


さくらが『会いたい』と願うならそうする。

しかし、本人が『会いたい』と言っていない今、会わせる気は無い。

会わせるにしても、それはさくらが『問題なく自分で動ける』ようになってからだ。


セルヴァンの言葉に、彼女たちは小声で「でも」といい出す。

それほど、さくらに会いたいのか。

会ってどうしたいのか。


「お主らは明日から『この世界の事』を教わるはずじゃったな」


「「はい」」


「だったら知るがいい。前任までの『聖なる乙女』たちが受けてきた事を。さくら殿がお主らのために『何をしてきた』のか。そして他国から『何をされてきた』のか。その上でまださくら殿より『自分たちの方が立場が上』だと思うなら、もうワシらはお主らに何も言うことはない。・・・今でもワシはお主らには何も望むことはないのじゃからな」



ドリトス様の静かな怒りは彼女たちに反論の余地を与えない。

ドリトス様が閉めた扉が彼女たちに対しての『完全なる拒絶』の意思表示のように思えた。




応接室で各々の高ぶった気持ちを落ち着かせてからリビングに戻った3人。

ヨルクが寝室に向かうと結界は解除されていた。

寝室を覗くとさくらとヒナリは何も知らずに眠っていた。

2人の頭を撫でてからさくらの頬にキスをする。

ふにゃりと笑顔になるさくらに目尻が下がる。

もう一度さくらの頭を撫でてから寝室を出た。



「2人ともよく寝てた」


「そしてさくらを『襲ってきた』と」


「違う!」


「頬にキスしてきただろう?」


「何で・・・」


「何でって」


「顔がな」


誰でも、さくらの頬にキスをするとシアワセな気分になり目尻が下がる。

さくらの頬にキスをした事があるのはヨルクとヒナリだけではない。

ここにいる2人もだが、神々も親愛のキスを贈って目尻を下げている。

ちなみに一番最初に『さくらの頬にキス』をしたのはアリスティアラだった。



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