第72話
「ゴメンね。さくら。『1人』は心細いよね」
さくらの背を撫でながらヒナリは謝る。
自分も昔はそうだった。
『族長の娘』として、過度な期待を持たれて。
無言で『期待以上』をいつも要求されて。
でも、自分にはいつもヨルクがそばにいた。
ヨルクは一度も『期待』を押しつけてこなかった。
『そのままの
そうだ。さくらが寝る時は自分たちも一緒だったけど、ドリトス様やセルヴァン様は寝付くまで必ずそばにいる。
1人で寝かせることは絶対にしなかった。
だって・・・さくらはこの世界で『ひとりぼっち』なのだから。
「ママぁ・・・」
「ここにいるわ」
さくらの寝言に返事をしたヒナリは優しく少し強めに抱きしめて頭を撫でる。
さくらは甘えるようにヒナリの胸に顔をすり寄せる。
「マぁマ〜」
「なあに」
「だあいすきぃ〜」
語尾にすうっと寝息が続いて寝言だってすぐに分かった。
それでも・・・分かっているのに涙が出るほど嬉しかった。
「私も。さくらのこと大好きよ」
「で?『さくら』は?」
ヨルクはリビングでセルヴァンとドリトスに問う。
「なにがだ?」
「さくらがセルヴァンたちがいないって不安がって・・・急に意識を無くしたんだよ。目を覚ましたら『セルヴァンが先にご飯を食べてなさいって言った』って言い出すし・・・」
ドリトスとセルヴァンは顔を見合わせて苦笑する。
「なんだよ」
「確かに『さくら』は俺たちを探し回っていたぞ」
「『聖なる乙女』が来たから
「・・・そんなことあるはずないのに」
それはさくらにも分かっていた。
だが、『思い込み』ってこともある。
彼らはイレギュラーな自分を『必要とは思っていない』のかも知れない。
『ジャマと思っている』のかも知れない。
あの時いた5人のうち3人は『絶賛天罰続行中』だ。
・・・残ってる2人が『仕方がない』から。
『天罰を受けたくない』から。
だからそばにいるだけかも知れない。
『見張り』のためにいるだけかも知れない。
さくらはちゃんと『2人の口から』直接聞きたかった。
「そんなことはない」と。
「ん・・・?」
今セルヴァンはなんて言った?
「『探し回ってた』?今のさくらは『1人で身体を支えられない』くらい弱っているのに?」
「・・・ああ。ワシらが見た時は泣きながら『歩いておった』。だから『実体』ではないことに気付いたんじゃ」
「『魔石の光』に包まれていたから、他の者には姿が見えていなかったらしい」
「ちょうどワシらに神々の姿が見えぬようにな」
そんな時、ハンドくんたちが一斉に応接室側の扉を指差した。
「誰か来たのか?」
ハンドくんたちの様子では、ジタンではないだろう。
この王城で働く者達は、この最上階には必要がなければ来ない。
・・・それでは『誰』か。
そんなの『聖なる乙女』しかいないだろう。
「仕方がない」と腰を上げるセルヴァンとドリトス。
「オレも行く」とヨルクもついて応接室に向かった。
廊下に通じる扉を開けると、そこに居たのは『聖なる乙女』たちだった。
「あ・・・さっきの」
頭半分低い
「言わなかったかな?『さくら殿は寝込んでいて会わせられない』と」
珍しくドリトス様が怒っている。
「あ、あの・・・だから『見舞い』に」
「それは断ったはずじゃが」
「ですが!」
「私たちは『同じ世界』から来たんですよ!」
「そうです!さくらさんだって『同じ世界から来た』って知ったら『私たちに会いたい』って思うはずです!」
・・・ヤバイな。セルヴァンがブチ切れそうだ。
ブチ切れた獣人族は加減を知らない。
この程度の女どもなら一発で絶命だ。
流石に『聖なる乙女』を手にかけたらアウトだろう。
「アンタら、一体ナニ?」
オレが前に出ると女たちは口を
セルヴァンに小声で「ここでコイツら相手にキレたら『さくらが泣く』」と伝えたら、少しは冷静を取り戻したようだ。
さすが『さくらバカ』の1人だ。
「私たちは・・・」
「名前とか肩書きとかどーでもいい。寝ているさくらに一体何しに来た?」
「あの、『見舞い』に・・・」
「アンタらの世界では寝込んでいる相手の部屋に押しかけて叩き起して相手をさせるのが『見舞い』というのか?」
歳の近いヨルクの言葉が効いたのか、さすがに2人の女は無言で俯いた。
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