第70話




ハンドくんたちに礼を言って、さくらのことを頼んでから扉を開ける。

同時に女性2人が倒れ込んできた。

1時間前に召喚されたばかりの『聖なる乙女』たちだ。

2人はさくらよりは年上で共に24歳らしい。


「あ、あの・・・『さくらさん』は」


廊下に座り込みキョロキョロ見回してからセルヴァンとドリトスに目を向ける。


「さくら殿なら部屋に戻った」


セルヴァンが答えると「えー」「会いたかったのにー」と残念そうな声を出す。


「話なら此処ここではなく中でしようかね」


ドリトスに促されて慌てて立ち上がる2人。

その姿を見てさくらを思い出して心配するセルヴァン。

この2人とは今は会わせられない。

さくらがこの2人に振り回されるだろう。



彼の背を軽く叩き「早く『仕事』を片付けてさくらのもとへ帰るぞ」とドリトスが先に部屋へ入る。

そう。早く帰ろう。

寂しくて身体から抜け出して泣きながら探すくらい自分たちを『必要』としてくれている。

早く顔を見せて安心させたい。



・・・何より自分自身が早くさくらの顔を見て安心したかった。






「さくら!」


目を開けたら、心配そうに覗き込むヒナリとヨルクの顔が目の前にあった。


「大丈夫か?」


「突然意識を無くしたのよ」


「具合はどうだ?熱はないか?」


額に手をあてたり頬を撫でたりして心配する2人に「『先にご飯を食べてなさい』って言ってたー」と言うさくら。


「え?誰が?」


「セルヴァン」


「・・・そっか。じゃあ先にご飯を食べような」



抱き抱えているさくらの頭を撫でながら向かい側のヒナリに目で合図する。

ヒナリはさくらの言葉に困惑していたが、こういう時はセルヴァンに聞いた方が早いと分かっているヨルクに促されて話を聞くのは止めた。


さくらを座椅子に座らせて横に座ったヨルクだったが「ヨルクはあっち」とヒナリに引き摺り出された。

「反対側に座ればイイだろ」とヨルクは言ったが「朝だってさくらの隣に座ってたじゃない!」とさくらを抱きしめて「今度は私!」と譲らない。


「あー。ハイハイ。分かった。分かった」


ヨルクはさくらの頭を撫でてから向かい側の席に移る。


今日きょっおのおっひるはなんだろな〜♪」


身体を左右に揺らしながら楽しそうに歌うさくら。

目の前に出されたのは太い麺の入ったどんぶりだった。


「わーい!今日のお昼はひっさしぶりのおっうど〜ん♪」


パチパチ〜と手を叩いて喜ぶさくら。

フーフーと息を吹きかけて食べるさくらをマネて食べ始めるヒナリとヨルク。

ちゅるんと麺を口に吸い込む度に笑顔になるさくら。


「美味しい?」


「うん!」


ヒナリが聞くと笑顔で返すさくら。

さくらの笑顔に「もう!さくらったらカワイイんだから!」とメロメロになってさくらを抱きしめるヒナリ。


「ヒナリ。火傷するから食べてからにしろよ」


「なによ。イイじゃない。ねぇ。さくら」


「・・・ヒナリ。おうどんが熱いから火傷しちゃうよ?」


「あら。じゃあ先にご飯を食べちゃいましょ」



自分が言うと反発するのに、さくらの言葉には素直に聞くヒナリに一気に脱力感を味わったヨルク。


さくらの『箸さばき』を見ていると、決してチカラが戻った訳では無いが上手に使っている。

1回食べると箸を置いているのは手が疲れるからだろう。

特に無理なく1人で食べきったさくらは手を合わせて「ごちそうさまでした」と満足げ。

ハンドくんに『おしぼり』で手や口の周りを拭かれていたのは『ご愛嬌』だ。


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