第69話



「っくしゃん」


さくらがクシャミと共に目を覚ました。

それと同時に、ハンドくんたちが水の入ったコップと袋に入った『何か』を持ってきた。


「それイヤー!そのまんま飲むのはイヤ!絶・対・ヤ!」


両手で口を塞いで断固拒否をするさくら。

あれがさくらのいう『こなこな』さんなんだろう。

そんなさくらの前に、丸い入れ物を持ったハンドくんが現れた。

それを見て「むぅー」と唸り出す。

でも口を塞いでいるため「ヴー」としか聞こえない。

ハンドくんたちが丸い入れ物から薄いペラペラしたものを出して、袋の中をのせて包んで端を水で濡らしてとめる。

それをじっと見てたさくらが「お口直しはー?」と聞くとアイスが出てきた。


「ほら。さくら。起きましょ」


ヒナリに促されて膨れっ面のさくらをヨルクが抱き起こす。


「アイスにキャラメルぅ」


さくらが最後の『抵抗』を見せるが、アイスにトロリとした何かをかけられて『ひと口目』を口に入れてもらい笑みを浮かべる。


さくらがコップの水を口に入れた状態で上向きになり、口を開けるとさっき包んだ『クスリ』をハンドくんが入れる。

ゴクンッと飲み込むと、両手で抱えていたコップの水を一気に飲み干す。

アイスが近付くと口を開けて待っている姿は『鳥類の雛』の餌付けに近いだろう。

ヒナリが代わりたそうにしていたが、ハンドくんが最後まで食べさせていた。

最後のひと口が終わるとスプーンを皿に乗せてハンドくんが頭を撫でてからポンッと消えた。


「よく頑張ったな」


頭を撫でてやると嬉しそうに笑顔になる。

向かい側からもヒナリが「エラいわ〜」と誉めていた。






「・・・セルぅ・・・ドリぃ・・・どーこー?」


いつも真っ先に誉めてくれるドリトスとセルヴァンの2人がいないことに気付いて不安になったのか、さくらが心細い表情でキョロキョロと見回す。


「大丈夫よ。お2人ならジタンの所よ。すぐに戻るわ」


「・・・もどってこない、よ」


「さくら?」


ヒナリが心配して手を伸ばすのと、さくらが意識を無くしてヨルクに倒れ込むのが同じだった。






ちょうどその頃。

さくらが何度も招かれた応接室のソファーに『聖なる乙女』が座っていた。

それも2人。

さすがに世界の瘴気が濃くなり過ぎたため、1人では対応しきれないと判断されたのだろうか。

それ以外に理由があるのだとしても、神々が説明してくれるとは思えない。

神々には『さくらに瘴気の浄化をさせる』気は毛頭ない事だけは分かるが・・・

話から2人は幼馴染みで親友同士という関係らしい。


『聖なる乙女』や『乙女の魔石』の簡単な説明を終えた所で、部屋の外から「セルぅ。ドリぃ。どこぉ・・・」という小さな声が聞こえてきた。

「え!さくら様?」とジタンが慌てて立ち上がる。

セルヴァンとドリトスは声が聞こえると同時に慌てて廊下に飛び出していた。


「さくら!」


「どうしたんじゃ。何があった・・・」


廊下にいたのは『白い影』。

しかし2人には泣きながら『歩いて』近付いてくる『さくら』の姿が見えていた。

すぐに『実体』ではないことに気付いたが、セルヴァンは目線を合わせるため片膝をつく。


「どうした?さくら」


「何を泣いておる?」


ドリトスがさくらの頭を撫でる。

驚いたことに、さくらに触る事が出来た。


「『聖なる乙女』が来たんでしょ?・・・もう『戻ってこない』の?」


「おやおや。ヨルクかヒナリがそう言ったのかね?」


ドリトスの言葉に首を横に振る。


「ヒナリは『すぐ戻る』って。でも・・・だって・・・」


涙が溢れ出して言葉が続かなくなった。

セルヴァンがさくらを抱きしめる。


「大丈夫だ。もう少しで『仕事』が終わる。そうしたら、さくらの部屋に戻るからな」


「・・・ホント?」


「ああ。だからヨルクたちと先にご飯を食べてなさい」


さくらはドリトスに顔を向ける。


「ドリぃは?」


「ちゃんとセルヴァンと一緒に『帰る』からな。それまでは部屋から一歩も出るんじゃないぞ」


「・・・うん」


ドリトスが頭を撫でて言い含める。

安心したのか、納得出来たのか。

さくらの姿がすうっと消えた。




「心細くさせてしまったな・・・」


「ワシらもヨルクの事を言えぬな」


「ええ。まったくです」




セルヴァンが立ち上がると、「あの・・・」と部屋の前に立っている兵士が恐る恐る声をかけてきた。


「今のお方が『さくら様』でしょうか?」


「・・・そうだ」


実体ではないが『さくら』であることは間違いない。

しかし、兵士は「『神々しく』輝いていらっしゃって、お姿が拝見出来ませんでした!」と興奮している。

その言葉にドリトスと2人で顔を見合わせる。

それは『神々』の姿を見た自分たちと同じ感想だったからだ。


その横の扉がドンドンと叩かれているが、興奮気味の兵士の耳には聞こえていないらしい。

どちらにしろ、扉はハンドくんたちが押さえて開かないようにしていたが。

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