第66話




・・・懐かしい。

『元の世界』の夢を見た。


農家だった親戚の家で過ごした夏の日。

家族や親戚たちと行った海。

新鮮な野菜を食べて、果物も食べて・・・

そのおかげで、子供には多い『好き嫌い』はなかった。

たわいない『日常生活』も夢でみた。


・・・そして目覚めた時に『現実』を思い知らされる。

目を覚ました時にはみていた夢を覚えていないのに、『懐かしい』という感情だけは残っている。

涙を流しながら目を覚ますと、ハンドくんが汗とともに拭いとってくれていた。


そのうち、熱を出す時は『元の世界』の夢を見ることに気付いた。

『元の世界』の夢を見るから熱を出すのか、『熱を出す』から元の世界の夢を見るのか・・・


まるで『胡蝶の夢』だ。




「さくら・・・」


目を覚ますとヨルクが心配そうに覗きこんでいた。

周りを見回すとここは屋上庭園の芝生の上で、獣化したセルヴァンのモフモフに凭れて眠っていたようだ。

横ではヒナリがセルヴァンに凭れて寝てるし、ドリトスも一緒に寝ている。



「・・・ヨルク?」



ハッキリしない頭でヨルクを見ると、目の端を親指で擦られた。

寝ながら泣いていたからヨルクが心配したのだとやっと理解出来た。




「ちょっと『散歩』しようぜ」


さくらを抱き上げて部屋の高さ7割まで育った大きな木の太い枝まで飛ぶ。

地平に近い空が白くなり始めていた。

「わぁー!あそこではもう『朝』なんだね〜!」と目を輝かせて喜ぶさくらの身体を支えながらヨルクは枝に座る。


突然目の前にポンッと音を立てて現れたハンドくんたちが、水の入ったコップと何か小さいものを持って現れた。


「お水は飲むけど『おくすり』いらない」


大人しくコクンコクンと水を飲みだしたさくらに、ハンドくんたちが少し強引に小さいものを口に入れてコップの水をすべて飲ませる。

ハンドくんたちがさくらにチカラずくで『実行』するのを初めて見たヨルクは驚くが、彼らは『さくらのため』にならないことは決してしない。


「えーん。ハンドくんたちがイジメるー」


さくらがヨルクに泣きつくが、「ハンドくんたちは『さくらのこと』を思ってやってるんだろ?」と頭を撫でながら言うとプクーッと頬を膨らませる。


「『おくすり』キライだもん。『こなこな』さんは苦いし・・・」


さくらの言っていることは分からないが、『おくすり』とは先程の『小さいもの』のことだろう。

目の前にお皿を持ったハンドくんたちが現れて「プリン〜♪」と喜ぶさくらだったが、必死に伸ばすさくらの手は届かない。

さっきの『さくらの泣き言』が聞こえていたのだろう。


「さくらにプリンを食べさせてやってくれないかな?ちゃんと『おくすり』は飲んだのだから」


手を伸ばすさくらが落ちないように支えながらハンドくんたちにお願いする。

ハンドくんがスプーンでプリンをひと口分掬い、「あーん」と大きく開いたさくらの口に入れる。

パクンと口を閉じたさくらは「おくちなおし〜」と笑顔になる。

プリンが近付けられると口を開けるさくらが可愛くて仕方がない。

それをみていたら、ハンドくんにスプーンを渡された。

プリンの皿を近付けられて、プリンを掬ってさくらの口に入れる。

パクンと口に入れる度に笑顔になるさくら。

思わずオレまで笑顔になっていた。




「2人で何してるの?」


ヒナリがさくらの前に飛んで来た。


「おはよう。ヒナリ」


「おはよう。さくら〜」


さくらを笑顔で抱きしめるヒナリ。

そのままオレにはキッと睨みつける。


「さくら」


オレに呼ばれるとすぐに顔を向けて口を開くさくら。

その口にプリンを入れるとまた満面の笑みを見せる。


「えー!何それ!カワイイ!!」


私もやるっとヒナリがスプーンをもぎ取ると、ハンドくんの持つプリンを掬ってさくらに与える。

さくらの笑顔につられて笑顔になるヒナリ。

さくらの笑顔が見たくてヒナリはプリンをあげ続ける。

もちろんプリンはいつまでもある訳ではない。

もともとヒナリがくる前にプリンは半分以上あげていたし。


「もうおしまい」


2人にそう告げると揃って口を尖らせて膨れっ面になる。



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