第65話




ドリトスの腕に抱かれてセルヴァンの獣化を見ていたさくら。

どこかの世紀末の人みたいに服を破ることもなく、全身が金色に光って輪郭がぼやけ、光が収束した時には体長2メートルほどの大きな茶色の犬が身を伏せていた。

伏せているのは大きな身体でさくらを怖がらせないためだ。


ドリトスが目を輝かせて見ているさくらを、セルヴァンの横に座らせる。


「わぁーい!セルヴァンすっごーい!!」


大喜びして抱きつくさくらの身体を、セルヴァンは大きなシッポで覆う。


「これがさくらの見たがってた『獣化』だ」


「うん!すっごいねー!ありがとうセルヴァン!」


わーい!モフモフだ〜!

さくらはセルヴァンのお腹に抱きついて喜んでいる。

そんなさくらだったが、しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。

セルヴァンがシッポを離すと、セルヴァンの毛にしがみついて笑顔で眠るさくらがいた。


「やっぱり寝たのう」


「ええ。思った通りですね」


ドリトスとセルヴァンの言葉に驚きの声をあげようとしたヒナリとヨルクだったが、前もって現れたハンドくんに口を塞がれていて声が出せなかった。


「どういう事かって?」


セルヴァンの小声に何度も頷く2人。

小声なのは、さくらが起きないようにという配慮からだ。


「簡単じゃよ。さくらはセルヴァン(のモフモフ)が一番好きじゃからな。初日は抱きついて離れなかった位じゃ」


ドリトスの言葉に目を丸くする2人。

しかし目の前には、さっきまで頑なに「寝ない」宣言していたさくらがセルヴァンにもたれて眠っている。


「ングー!ムグムグー!」


口を塞がれているから『声』にはなっていないが、ヨルクは文句を言っているようだ。


「ウ・・・ン・・・ふみぃー」


さくらが身動みじろぎしてグズり出す。

セルヴァンがシッポでさくらの身体をさすると、すぐに固くしていた身体からチカラが抜ける。

腕を伸ばす形で身体を起こしていたさくらだったが、セルヴァンにポフンとうずもれるように凭れたがグスグスと泣き続けている。


「大丈夫だ。さくら」


「ん・・・モフモフ〜ぅ・・・」


しばらくシッポでさくらの顔を擦っていると泣き止んで、ふたたび穏やかな表情で眠りだした。




ドリトスがさくらの額に手をあてて「熱は出ておらぬ」とセルヴァンに告げると、2人は安心して大きく息を吐く。


「ドリトス様?セルヴァン様?」


ハンドくんに塞がれていた口を開放されたヒナリが2人に何かあるのかと問う。

2人は何度もさくらの熱を気にして、確認しては安堵する。


「さくらは元々熱を出しやすい。さくら本人は『小さい頃から』と言っておったんじゃ」


「それでも『寝てればそのうち治る』から『大したことではない』らしい」


「・・・・・・呼吸が乱れた時は酷い苦しみ方じゃった。無意識に握りしめたセルヴァンの手が『内出血』するくらいにな」


「あの時は寝たと言うより『気絶』に近かった」


「そんな・・・」


ヒナリはショックで言葉が出ない。

ヨルクも後頭部の痛みを忘れて呆然としている。

・・・ヨルクはハンドくんにハリセンを2発受けていたのだ。

ハリセンの前に『さくらの魔石』を使ってヨルクの周りに結界を張ったため、ハリセンの音は外にもれることもなかったが、うめく声をもらさないために今まで口を塞がれていたのだ。

そのため、セルヴァンの『モフモフ』に夢中なっていたさくらに気付かれることはなかった。


2人は眠っているさくらを凝視する。

身体にはハンドくんが『タオルケット』をかけていた。

今日はこのままここで寝るようだ。



「ドリトス様。セルヴァン様。・・・私もさくらを守りたい!」


「オレも」


「ヒナリもヨルクも『今のまま』で良い」


「でも・・・」


「『今のまま』・・・それはさくらが『さくららしく』過ごせるようにつとめることだ」


「それはそれで『難しい』が・・・2人にはそれが出来るかね?」


ヒナリとヨルクはお互いを見遣り、ドリトスとセルヴァンにまっすぐ向き直ると「「はい!」」と声を揃えた。



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