第67話



「さくら。ほら」


「わぁー。『日の出』だ。キレイ!」


少しずつのぼる陽。

空もだんだん明るくなっていく。

口の周りをハンドくんに拭かれてキレイにされているが、目は陽を見ている。

ヒナリもさくらの反対隣に座っている。

ただし見てるのはさくらだ。

目線をチラリとオレに向ける。

オレが自分の口の前に人差し指を当てるとヒナリは黙って頷いた。

しばらく見ていると陽が完全に地平に姿を現した。


「さあ。お散歩は終わりだ」


さくらを抱き上げて地上に降り立つ。

ドリトスと『人型ヒトガタ』に戻ったセルヴァンが笑顔で出迎える。


「『おひさま』キレイだったよ」


「よかったな」


「うん!」


セルヴァンの腕の中で目を輝かせて話すさくら。

ヘタをすればさくらの生命を奪いかねない『陽の光』。

それを『キレイ』と喜ぶ姿に、みんなは笑顔になる。


「ねぇねぇ。また『獣化』してね。そしてまたみんなで一緒に寝ようね!」


さくらの『お願い』に誰も反論はなかった。







「なあ。『おくすり』ってなんだ?」


ヨルクの言葉にドリトスとセルヴァンが眉間に皺を寄せる。


「病気になった時に飲むんでしょ?」


それがどうしたの?

不思議そうに聞いてくるヒナリに「朝、さくらがプリンを食ってただろ?」と聞けば頷く。


「あの前にな。さくらが『小さいもの』を無理矢理飲まされていたんだよ。ハンドくんたちにな」


セルヴァンが慌ててさくらの額に手をあてる。

発熱は感じられなかった。

さくらはいまセルヴァンの『ひざまくら』で眠っている。

掘りごたつに落ちないようにセルヴァンは身体を座卓から出して胡座になり、その足を枕にしたさくらは座卓を頭にTの形になっている。

身体にはハンドくんにタオルケットを掛けられている。


そのハンドくんがリビングに置かれているホワイトボードに『あれは『解熱剤げねつざい』』『ねつときくすり』と書いた。

それに慌てた4人。


「さくらは熱が出てたの?」


「少し身体が熱いと思ったけど寝起きだからかと・・・」


大丈夫だいじょうぶ

今朝けさ予防よぼうのためにませただけ』


ハンドくんの『言葉』に安心する4人。

しかし・・・ヨルクは説明に含まれていた単語に気付いた。


「『予防』ということは『熱が出る可能性はあった』ということか?」


そう聞くと『『なつかしいゆめ』をときとくに』と返ってきた。

『懐かしい夢』・・・それは『元の世界』の頃だろう。


「今朝・・・さくらは泣きながら目を覚ましたんだ」


「だから樹の上にいたのね」


ヒナリの言葉にヨルクは無言で頷く。


「さくらが『こなこな』さんと言ってたがあれはなんだ?」


今朝けさませたのは『錠剤じょうざい』』

ほかに『液体えきたい』と『顆粒かりゅう』がある』

『『こなこな』は顆粒かりゅうのこと』


「『苦い』と言っていた」


顆粒かりゅうほかくすりちがってにがいのがおおい』

『さくらは上手じょうずめず、一部いちぶくちノドのどのこってしまう』

顆粒かりゅうはすぐにけてしまうため『苦味にがみ』をかんじてしまう』


それを聞いた全員が思った。

『・・・それは自分でもイヤだな』と。



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