第53話



「神よ。先ほどの悲鳴は一体・・・」


ドリトスの言葉で4人の脳裏に飛空船が浮かび上がる。

ヨルクとヒナリの背中が見えて、さくらが笑顔で下へ手を振る姿もハッキリと見えるようになった。

そして飛空船が光りだして、ヒナリがヨルクとさくらに体当たりして攻撃をかわす。

直後に放たれた雷撃。

同時に飛空船に赤い光が集結しだす。

放たれた火球に気付いたさくらが悲鳴をあげる。


・・・・・・さくらが悲鳴をあげたのは、この時の恐怖を思い出したからだろう。


ヨルクとヒナリがさくらを守ろうとした直後に、さくらから『白くて柔らかい光』が放たれる。

光は3人を中心に、守るように覆う。


同時に3人と火球の間に男性2人が立ちふさがり、1人が手を軽くふるう。

すると火球は弾かれたように『元の場所』へと戻っていく。

もう1人が腕を振り上げると、火球が徐々に大きくなっていった。

火球は飛空船を飲み込み墜落させる。

それでも乗員が誰一人死んではいなかったのは『神の御業みわざ』だったからだろう。



・・・ただし全員に天罰が下ったようで、地面でのた打ち回っていた。








「さくら。泣かないで。もう大丈夫よ」


ヒナリがさくらを抱きしめて慰める。

さくらが悲鳴をあげながら目を覚ましたのだ。

抱きしめるヒナリにしがみついて泣きじゃくるさくらの頭をヨルクが撫でていると少しずつ落ち着いていく。


「ほら。オレたちをよく見ろ。どこもケガしてないだろ」


「一緒に寝てるから大丈夫よ」



そう。『好きなだけ付き添っていればいい』と言われたのだから、オレたちは『添い寝』をする事にしたのだ。

さくらを真ん中に、オレたちが挟んで横になっている。


眠りに落ちたさくらだったが、何度も悲鳴をあげては目を覚ます。

オレたちはそんなさくらを寝ずに付き添っていた。



「雛。ゴメンな」


「私たちのせいで、こんなに苦しめちゃって」


「ちが・・・もん。ヒック。2人は、守って、くれたもん」


必死で『違う』と繰り返すさくら。

さくらはあの時の『光』を知らないようだ。

神が見せた映像の『あの光』を見ていないのだろう。


「雛。助けられたのはオレたちの方だ」


「あの時ね。さくらの中から光が溢れ出したの」


「その光がオレたちを守ってくれたんだ」


「だからね、雛。私たちを守ったのは、さくら、貴女なのよ」



「ありがとう。さくら。私たちの雛」と言って、さくらを抱きしめるヒナリ。

そのヒナリごとさくらを背後から抱きしめる。



「必ずさくらを守る」と心に誓って。








「大丈夫よ。ヨルクはすぐに帰ってくるわ」


起きたら、ヨルクがいなくなっていた。

ヒナリにも心当たりはないらしい。

ヨルクを生まれた時から知っているセルヴァンにも、ヨルクが今どこで何をしているかは分からないらしい。


「雛を泣かせるとは困った親鳥パパじゃのう」


ドリトスがそう笑ってアタマを撫でてくれた。


いま私はベッドの上だった。

前日の体調不良と『悪夢』で泣いて。

そして今朝。

ヨルクがいないのに気付いて心細くて泣いていたら、見事に熱を出していた。

原因は『泣きすぎ』による精神疲労泣き疲れ



・・・ではなく、飛空船の一件から積み重なった精神疲労が原因。



飛空船の『悪夢』は、何度も繰り返し襲ってきた。

必ず自分が悲鳴をあげた場面で、現実でも悲鳴をあげて目を覚ます。

そのたびにヒナリもヨルクも抱きしめて慰めてくれた。


ヒナリに抱きしめられてウトウトしてるときにまた『あの場面』をみたけど、ヒナリに抱きしめられてヨルクが頭を撫でてくれる感触を感じていたから悲鳴をあげずに済んだ。

そして飛空船が燃え落ちたのに、乗員全員がほぼ無傷だったのは『神だから』なのだろう。

「神は人を傷つけない」んだっけ。

以前、創造神が起こした『天罰騒動』でそう自慢してたもんねー。




『悪夢』を乗り越えて、ぐっすり眠って目覚めたらヨルクが消えていた。

神様の話だと『さくらがぐっすり眠ったのを確認して出て行った』らしい。

ドリトスにアタマを撫でられていたら、だんだん眠たくなって目を閉じた。


ねぇ。『パパ』は・・・


「私がキライになったからいなくなったのかなぁ?」


そうだったら寂しいな・・・




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