第52話



扉がノックされて、セルヴァンとドリトスが部屋に入ってきた。


「セルヴァン様・・・」


ヒナリがセルヴァンに抱きつく。

セルヴァンは無言でヒナリを抱き止めて頭を撫でているが、目線はさくらの方を見ている。


「ヨルクもおいで」


部屋の中を見回していたドリトスに促されて、ヨルクは渋々部屋を出た。







「セルヴァン様。私たち、さくらに付いていたいです」


泣き落ち着いたヒナリはセルヴァンに訴える。

今いるのはさくらの寝室の隣。

不思議な空気をまとう部屋だった。

ヨルクは黙って俯いているだけ。


「ワシらは責めてはおらんよ」


ドリトスにそう言われても、2人は自分たちを責めていた。


「ヒナリ。ヨルク」


セルヴァンに呼ばれて、2人は身体をピクリと震わせる。

その様子にセルヴァンは苦笑する。

2人が小さい頃から、隠し事・・・特に叱られる事をしたときはこの状態になる。


「さくらはお前たちの『雛』だろう?」


セルヴァンの言葉に2人は何度も頷く。


「『親鳥』なら雛を信じろ」


トントントンと横から音がして全員の目がそちらへ向く。

ハンドくんがホワイトボードに『日射病』と書いて見せていた。


「へ?どこの言葉?」


「日本語。さくらの国の言葉だ」


「私は『平仮名』と簡単な『漢字』ならわかるけど・・・」


勉強はしたが初めて目にする言葉に、ヨルクとヒナリは困惑する。

それに気付いたハンドくんが『日射病』の下に『にっしゃびょう』と平仮名で書く。

そして『したながあいだいると こる病気びょうき』とルビ付きの説明文も書き記す。


「さくら、すごく高い熱を出してるの。汗も酷くて!」


「さくらは大丈夫なのか?」


大丈夫だいじょうぶ

いま神様かみさまてる』

普通ふつう病気びょうきならすぐになおる』


「良かった・・・さくら」


ヒナリは安心して泣き出す。

ヨルクはそんなヒナリを抱きしめて「良かった」と繰り返す。


「寝込んだ時は?」


『あれは普通ふつう病気びょうきではない』

精神せいしん消耗しょうもうつかれ、悪意あくいにあてられた場合ばあいなどは、神様かみさまでもなおせない』


「今の弱った身体は?」


ハンドくんは逡巡したあと『なおせない』とひと言書いただけだった。








「イヤアァァァ!」


さくらの悲鳴が聞こえて、ヨルクが真っ先に寝室へ飛び込んだ。

後を追ってヒナリも飛び込む。

続けてセルヴァンとドリトスも寝室に入る。

彼らの前にいたのはベッドを囲むように立っているたくさんの『金色に輝く人形ひとがた』だった。


「さくら!」


「・・・ヨルク」


ヨルクが駆け寄ると、さくらを覆っていた人形ひとがたが離れる。

ヨルクがさくらを抱きしめて「もう大丈夫だから」と繰り返す。


「ヒナリ。『神々』だ」


セルヴァンに説明されてヒナリは慌てて頭を下げる。


「さくら。少し休みなさい」


男性の声がして、イヤイヤと左右に振るさくらの頭に腕が伸ばされる。

すぐにさくらのチカラが抜けてヨルクにもたれ掛かった。


「さくら?!おい!」


慌てるヨルクに『大丈夫ですから寝かせてあげて下さい』と女性の声がする。

しかし、ヨルクは抱きしめているさくらを離そうとしない。


「ヨルク。さくらを寝かせてあげなさい」


セルヴァンに促されるが、ヨルクにはさくらを離すと二度と戻らないのではないかという、言い知れぬ恐怖と不安が湧いてきていた。


「若く賢き翼族の青年よ。今はさくらを休ませてあげなさい。その上で好きなだけ付き添っていればいい」


この声に聞き覚えがある。

飛空船に攻撃を受けたときに聞こえた『声』だ。


「さくらは大丈夫なんだよな!」


「ヨルク!この方々は神様だよ!」


「そんなもん!オレたちにさくらより大事なもんはない!」


ヨルクが一番強い光に向けて叫ぶ。

ヒナリがヨルクを止めようとするがヨルクは聞かない。


『彼女は疲れているだけだ』


『熱はもう下がってるわ』


そう言われて改めてさくらの額に手を当てる。

確かにあの高かった熱がいくらか下がっていて、呼吸もだいぶ落ち着いてきている。

安心して深く息を吐くヨルク。

ヒナリも横からさくらの頬を撫でている。


「ヨルク。今はさくらを休ませてあげましょう」


ヒナリに促されてさくらを寝かせる。

さくらの左手を自身の右手に乗せると、さくらの手の甲側からヒナリが手を重ねる。


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