第51話



正直な話、同族以外ではセルヴァンたち数人の獣人以外とは食事を共にしたことはない。

そのため、さくらやドリトスとの同席での食事に少し緊張していた。

白い手袋のハンドくんたちから、チャーハンをよそってもらったり飲み物も出してもらったりと世話をしてもらい、見たことのない料理も美味しくていつの間にか緊張も解れていた。




「どうしたの?不思議そうな顔をして」


コテンと首を傾げて見てくるさくらに気付いたヒナリが問いかける。


「背中の羽根は~?」


「ん?ああ。座るときにジャマだから仕舞った」


「ずっと出しっぱなしじゃないの?」


「・・・寝るときジャマだろ?」


「さっきは出てたよ?」


「あれは『さくらの布団』代わりよ」


そういえば『天使や悪魔の出てくるマンガ』でも羽根が出し入れ出来てたっけ。


「羽根を隠してると、『背の高い人』にしか見えないね」


「・・・・・・それ、誉めてるのか?」


「うん!」


さくらに笑顔で肯定されて、ヒナリとヨルクは複雑な表情で顔を見合わせた。

ドリトスとセルヴァンはさくらに見えないように顔を逸らせて笑いを堪えている。

さくらの言葉に深い意味はない。

ただ「そう思った」だけなのだ。

それに気付いているドリトスとセルヴァンは、翼族の2人が真剣に悩んでいる姿がおかしかった。






「さくら!」


「オイ!さくら!しっかりしろ!」



それは突然の出来事だった。

食後もヨルクに抱えてもらって空をとんでいたさくらが、突然意識をなくしたのだ。

大粒の脂汗を流し、体温も一気に上がっている。

タオルを持ってパッと現れたハンドくんが、タオルでさくらの脂汗を押さえて吸い取る。

そして別のハンドくんが下を指差して降りるようにジェスチャーする。

ハンドくんの指示通りに下へ降りると、今度はそのまま廊下へ出るように指を差す。



今この場にドリトスもセルヴァンも不在だ。

彼らはジタンの頼みで自分たちの国へ通信に行っているからだ。


ヨルクもヒナリも病気とは縁がない。

いや。人族以外は病気にかかりにくいのだ。

だから、拭いても溢れ出す汗と高い熱のさくらに対して、何の病気でどうしたらいいのか分からなかった。


食事の時に「ハンドくんはさくらの世話係」と聞いていた。

今はハンドくんの指示に従った方がいい。

2人は顔を見合わせて頷くと、そのまま扉前で待っているハンドくんのもとへ飛んで行った。


ハンドくんの誘導通りに廊下を進み、部屋の前に辿り着いた。


「ここが『さくらの部屋』?」


誘導してきたハンドくんに確認すると、扉が開けられる。


「失礼します」


恐る恐る室内に入ると、目の前にはソファとテーブルがある『応接間』だった。

「え?」と2人は顔を見合わせる。

『トントントン』という音がしてそちらを向くと、入ってきた扉の左側の壁に扉があって、ハンドくんがそこを叩いていた。


スッと飛んで近寄ると扉が開けられる。

そこは見たことのない物が多く置かれた部屋だった。

何より、部屋の外と空気が違っていた。

さっきまで焦っていた気持ちがスゥッと落ち着いていった。

そのまま前に見える扉へ進むと、2人はその不思議な部屋に向かい頭を下げた。


次の部屋も先ほどと同じ空気が漂った寝室だった。

ただ室温がかなり低くなっており、温度に敏感な2人には寒すぎるように感じたが、高熱を出しているさくらにはちょうど良い温度なのかもしれない。


ヨルクは大きなベッドにさくらを寝かせる。

ヒナリはベッド脇のサイドテーブルに置いてあったタオルでさくらの汗を拭うと、ハンドくんに手を掴まれて『汗を押さえて吸い取る』やり方を教えられる。

手を離されて、タオルで汗を押さえて吸い取るとパチパチと拍手された。

ヨルクは何も出来ず、チカラなくダラリとなっているさくらの手をただ握りしめていた。







「ん・・・ヒナ、リ?」


どれくらい経ったのか。

長く感じたが、実際にはそれほど時間が経っていないのかもしれない。

さくらのかすれた声が、ベッドの端に座って汗を取っていたヒナリの名を呼んだ。

「さくら!」とヒナリが声をかけると、さくらの目が薄く開いていた。


「あー。ヨルクもいるぅ」


顔を横に向けてヨルクの姿を確認したさくらが弱々しい笑顔を見せる。


「ハンドくん。おみず~」


さくらの視線の先には、ハンドくんがコップを持っていた。

「飲むのか?」と聞いたら「のむー」と言うので身体を起こしてやる。

背中が熱くて思わずギョッとした。

背中を支えていると、ハンドくんがさくらに水を飲ませる。

さくらの手はチカラなくベッドの上にあった。



「ヨルク。さくらを寝かせて」


さくらの汗を押し取っていたヒナリに小声で言われて、さくらが目を閉じているのに気付く。

「ヒナリ」と声をかけてさくらの背にアゴで指し示す。

ヒナリがさくらの背に触って、すぐベッドにも触る。

「こんなに」と呟く声が聞こえた。


清浄クリーン』魔法を掛けて、篭もった熱をとりのぞいてからさくらを静かに寝かせる。

支えていた背中から、自分にまで熱が移ったかのように身体が熱くなった気分だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る