第50話
3人の目線は、何も知らずに芝生の上で眠るさくらたちに向けられる。
『神の加護』がなければ、この子たちは今ここにいなかったかもしれない。
・・・永遠に喪われてしまったかもしれないのだ。
3人はその事実に背筋が寒くなった。
神々は決してコーティリーン国をお
そう断言出来るくらい、さくら様は神々から愛されている。
そばにいる我々もさくら様を愛でているのだから。
「改めて誓います」
エルハイゼン国は『聖なる乙女』やさくら様を敬い、全力でお守りすると。
そのためなら他国との外交停止や国交断絶も
「大変だぞ」
「わかっています。ですが今回のことで、さくら様を永遠に喪っていたかもしれない。あの時の恐怖を思えば、その程度の苦労など問題ありません」
あの時『何も出来ず見てるしかない』悔しさを味わった。
誰にもあの思いをさせたくない。
だったら『自分が出来ることなら何でもする』。
さくらにまっすぐな目を向けてそう断言するこの若き後継者は、この国を良い方向へと導けるだろう。
「ん?さくら?」
どうした?と聞きながら芝生の上で目を開けたまま動かないさくらに近付く。
セルヴァンの声で目を覚ましたのか、両隣で寝てたヒナリとヨルクが飛び起きてさくらを見る。
「さくら?どうしたの?」
「どうした?具合でも悪いんか?」
ヨルクはさくらの額に手を乗せるが特に熱いとは思わない。
虚ろな目のまま、さくらが嬉しそうに両手を空へと伸ばす。
「え?・・・空が!」
ヒナリが振り仰いだ空は、風が雲を流して薄日が幾筋もさしていた。
ヒナリの言葉で全員が空を見上げ、久しぶりの陽の光に神々しさを感じる。
「・・・『天使のはしご』」
「さくら?」
ヒナリが目をさくらに戻した時には、再び目を閉じて眠っていた。
・・・そして目を覚ましたさくらは何も覚えていなかった。
「さくら。具合は?」
「いっぱい寝たから元気だよ」
ヒナリの心配をよそに、嬉しそうに空へ手を伸ばすさくら。
先ほどの『虚ろな目』ではない。
「だから身を乗り出すな!落ちるだろーが!」
ヨルクは文句を言いながらでも、さくらを抱えてとぶことに慣れた様子で、余裕な表情を見せている。
さくらの目には『小さな光の妖精たち』が見えているらしい。
『彼ら』に手を伸ばしたり、楽しそうに遊んでいるのだ。
・・・周りの者には、さくらの周りに飛び
さくらが初めて
あの時に降臨された女神も『光の
しかし、さくらには『人の姿』として見えていると言っていた。
「やはり、さくらは『女神に愛されし娘』なのじゃな」
セルヴァン同様、いすに腰掛けて飛び回って遊んでいるさくらたちを見守っていたドリトスが呟く。
ジタンはこの場にいない。
雲が切れて、久しぶりにみる日射しに驚いていたが、すぐにガラスにかけられている『陽光熱除け』の魔法を『
ガラスに覆われた屋上庭園内が暑くならないようにするためだ。
続けて王城内全体に掛けられている『温度安定』の魔法も『
そして神への感謝と改めて謝罪を伝えるため、神殿へ向かった。
「さくら。ヨルクとヒナリも降りておいで」
ドリトスに呼ばれてウッドテーブルまで降りる。
テーブルにはチャーハンやサラダ、サンドウィッチなど所狭しと乗っていた。
「ハンドくんたち、ありがとう!」
ヨルクが肘掛け椅子にさくらを座らせる。
ハンドくんたちは順番にさくらとハイタッチをしてからポンッと音を立てて消えていく。
その光景を、目を丸くしてみていたヨルクとヒナリに「あれがさくらの『魔法生物』だ」とセルヴァンが説明する。
「元は『召喚生物』でしょうか?」
「そのようじゃな」
ヒナリの質問にドリトスが返す。
『召喚生物』が数と経験が一定数を越えると『魔法生物』として認識される。
魔法世界に住んでいるのは変わらないが。
いわば召喚生物が『お客様』の立ち位置なら、魔法生物は『住人』として魔法世界で存在を認められたことになる。
『ハンドくん』の場合は、魔法世界だけでなく神々からも認められた数少ない存在なのだが。
「でもさくらが来てからそんなに時間は経っていないのでしょう?」
それなのにどうやって『経験』を積んだのでしょう?というヒナリの言葉に「見たとおりじゃ」とドリトスは笑う。
「彼らはさくらの『世話係』で経験を積んでおる。さくらだけでなく、一緒にいるワシらや神々の世話もしておる」
その言葉に驚くヒナリやヨルクに「さて。ワシらも頂くとしようかの」と声をかけてさくらの隣に腰掛ける。
反対隣には先にセルヴァンが座っており、さくらの両手に『
完全に出遅れた2人はさくらの対面に座った。
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