第47話
そんなときだった。
飛空船から光が放たれた。
「「さくら!」」
さくらたちのいる方角を見ると、3人は無事のようだ。
・・・いや。
今度は赤い光が飛空船から放たれようとしている。
間に合わないと判断したヨルクたちは、さくらを真ん中に挟んで守るように抱き合う。
「あれは『
ドリトスは驚きの声をあげる。
『鎧』とは、親が雛を命懸けで守る『最強で最悪』な姿だ。
親が生命を
・・・ただし、親は共に魂ごと消滅すると言われている。
そして残された雛も大半は心を病んでしまう。
ヒナリとヨルクは、さくらの為にその『鎧』を展開しようとしていた。
『鎧』は攻撃を受けた瞬間に展開される。
ドリトスもセルヴァンも、ただ遠くから見ている事しか出来なかった。
しかし、3人に迫っていた赤い光が突然遠ざかっていくのが屋上庭園からでも分かった。
赤い光は飛空船が見えなくなるほど大きくなり、火柱が上がって数秒後に爆発音が、十数秒後には爆風が王城まで届いた。
王城の結界ですら破られそうなほど圧の強い爆風は、神の守護が働いた最上階を除くすべての窓ガラスにヒビを走らせた。
・・・王城からでも飛空船が墜落したことは十分分かった。
そんな中、3人は白い光に包まれて身動きひとつしない。
光の中は爆発音が届いていないのか。
それ以前に、爆風からも守られていたのか・・・
「あれは・・・『乙女の魔石』の光、か?」
ドリトスの言うとおり、以前さくらが出した『乙女の魔石』にマクニカが真偽を疑って魔力を流したことがある。
さくらが出したのは従来の『乙女の魔石』と違い、あまりにも大きかったのだ。
あの時発した、清浄で柔らかい・・・さくらに似た優しい光に似ていた。
さくらたちを覆っていた光がだんだん弱まり、まずヒナリが辺りを見回す。
続いてヨルクも顔を上げ、2人は火柱に顔を向ける。
そこでようやくさくらの様子が分かった。
両目を
2人はさくらを見て、ヒナリが下へ何か合図をしてから戻ってきた。
「セルヴァン様。申し訳ございません」
ヒナリが頭を下げる。
ヨルクは唇を噛みしめている。
「謝ることはない。2人はさくらを命懸けて守ろうとした。それは俺もドリトスも分かっている。2人共、よくさくらを守って連れ帰ってくれた」
2人に労いの言葉を掛けてやる。
実際、2人は命懸けでさくらを守ろうとしたのだ。
堅くなっていた身体が少し解れてきている。
「どうした?」
「ヒナリとヨルクを・・・怒る?」
「いや。2人がさくらを守ろうとしたのは、ここからも見えていた」
俺の言葉に『ほうっ』と息を吐くさくら。
それと同時に、身体のチカラがさらに緩む。
きっと2人のことが心配だったのだろう。
「あのエルフたち、私を狙ったの?」
「それは分からない。さくらが狙われる理由はないからな」
「あるよ。・・・『神の加護』」
「・・・さくら」
「それと『天罰騒動』の『仕返し』。あれを『私のせい』って逆恨みしてたら」
「あれは『さくらのせい』ではない」
さくらを強く抱きしめる。
そう。あれはアストラム本人が責められるべき問題であって、さくらが自身を責める必要は無い。
「・・・・・・・・・やっぱり瘴気が」
「ン?」
さくらの小さな声が聞こえたが、聞き返したら首を左右に振った。
「それより、初めて空をとんでどうだった?」
頭を撫でながら、あえて別の話を聞く。
少しでも楽しい話を。
「あのね!私が怖くないようにって、注意してとんでくれたの!」
さくらは目を輝かせて話をしだした。
「雛・・・オレたちが怖いか?」
ドリトスに背を押されて近づいたヨルクがさくらに聞く。
やはり2人はさくらを『雛』に選んでいたか。
ドリトスを見ると黙って頷いてきた。
「・・・もう、とんでくれないの?」
さくらが悲しそうに呟くとヨルクが目を丸くした。
「オレたちのせいで、あんなに怖い思いをしただろう?」
ヨルクの言葉に「でもヨルクとヒナリは守ってくれたもん」と小さく呟く。
「ヨルク」
セルヴァンに名を呼ばれて顔を上げる。
「さくらは初めて空をとんで『楽しかった』そうだぞ」
セルヴァンの言葉にさくらは何度も頷く。
「よかったのう」
ドリトスはヨルクたちに声をかけさくらのもとへいく。
「そうか。空は楽しかったかね」
「うん!」
満面の笑みでドリトスにとんでいた時に遠くの山が銀色に輝いていてキレイだった、など話をするさくら。
ドリトスは笑顔で頷きながら、さくらの頭を撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。