第48話



「もう一度、とんでみるか?」


セルヴァンに言われて「でも・・・」と外を見て言い淀むさくら。

昼前にもかかわらず、厚い雲に覆われた空が赤くなっている。

『飛空船だったモノ』が、まだ燃え上がっているのだろう。

さくらは『何が起きたか』は知らない。

それでも『空の色』で「大変な事が起きている」ことと『飛空船に攻撃を受けた』ことが結び付いているのだろう。



「そうじゃのう。外はダメじゃが、この屋上庭園の中ならどうかね?」


ドリトスが私の頭を撫でながら提案してくれる。

ドリトスの言うとおり、確かにこの中は広くて高い。

日本の田舎にある『二階建ての一軒家』が入ってもまだ高さに余裕があり、広さもかなりある。

外だと、いつまた狙われるかわからないし・・・

ヨルクを見上げるとまだ戸惑っている表情だった。


「・・・だっこぉ」


私が手を伸ばすと、ヨルクは逡巡した後に私を抱きかかえる。


「怖くなったら言えよ」


そう言ってまた注意深く、天井近くまで舞い上がる。

ヒナリもそばについていてくれる。

2人はわざと私から外が見えないようにとんでくれていた。


「あ!お花が咲いてる!」


背の高い、見た目がサボテンに似てる植物の上に白い花を見つけて手を伸ばす。


「乗り出すな!落っこちるぞ!」


とげが刺さったら痛いわよ」


ヨルクが体勢を起こして、慌ててさくらを引き寄せる。

ヒナリも手を出してさくらを庇う。

さくらは「きいろの花みっけ!」と手を伸ばす。


「手を出したら危ないわ」


「だから落ちるって・・・」


賑やかな子供たち3人は、さっきまで落ち込んでいたことも覚えていないだろう。


「まったくアイツらは・・・」


「『親鳥』たちは過保護すぎるのう」


下では年長者の2人が3人を見守っている。

『雛』のさくらは18歳。

そして『親鳥』は、まだ共に23歳。

しかし、成人が80歳の翼族の中では、『親鳥』の彼らもまた守られるべき幼い『雛鳥』だった。







「ところで『さくらの足』は?」


「いえ。足だけではなく『身体も』です」


「・・・そうか」



ドリトスとセルヴァンは楽しそうなさくらたちを目で追いながら声を低くする。

セルヴァンの言うとおり、さくらの両足はチカラなく、身体もヨルクに支えられている状態だ。


「ヨルクはさくらの身体の状態に気付いているようです」


「さくらに負担を掛けないように注意しておるな。・・・当の本人はまったく気にしておらぬが」


「・・・逆にヨルクたちをからかっているようですね」



さくらは何かを見つける度に楽しそうに身体を乗り出し、その度にヨルクやヒナリが慌てて身体を支えている。

さくらは『もし落ちてもハンドくんたちが助けてくれる』って安心しているのだろう。

もちろん『いざという時』のために下で見守っている2人も十分に助けられる状態で構えていた。






「ン・・・むぅ・・・」


眠気を払うように目をこするさくら。

それに気付いたドリトスに手招きされたヨルクとヒナリは大人しく芝生に降りる。


「うー。まだあそぶぅ・・・」


「無理すんなって」


ヨルクがさくらを芝生に座らせる。

さくらの背中に回り、さり気なく身体が倒れないように支えている。


「少し休んだら、また一緒にとびましょ?」


「今はおやすみ。さくら」


近付いたドリトスに頭を撫でられていると、さくらの目は何の抵抗もなく閉じられていく。

そしてそのままヨルクにもたれかかった時には寝息が聞こえてきた。


「このまま少し休ませてあげなさい」


セルヴァンに言われた通り芝生の上にさくらを寝かせると、ヨルクは固い表情でセルヴァンに近付く。


「なあ、セルヴァン。さくらの身体って・・・」


「だから言っただろう?『長くせっていた』と」


ドリトス様から確かにそう聞いた。

しかし、自分の身体を支える事すら出来ないほど弱ってるとは思わなかった。


「だから『無理はさせるなよ』」


セルヴァンに釘を刺されて、ヨルクは黙って頷いた。


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