第15話







ちょっと『覗き』たいな、とワクワクしてたら魔法を発動してたようで、部屋の壁が透明になった。

大きな長円型の机に色んな人たちが椅子に大人しく座ってる。

アレ?こちらを背に立っている大きな人がいる。

2メートルあるかな?

立ち方から壁にもたれ掛かっているっぽい。

犬に似た耳や尻尾が見えるから、この人が『獣人族』なんだな。


種族:獣人族(犬種)

職種:獣人族 族長

名前:セルヴァン

年齢:151

レベル:31


『(犬種)』とある事は他にも色んな種類がいるんだな。なんか楽しみだ。





テーブルを囲んで座ってる連中も鑑定で表示されているけど、なんか『つまらん連中』だ。

つまり『お偉方』なのに性格は『お子ちゃま』。


さっきの『会わせろ』も『珍しいモノみたさ』の子供。

ちょうど『学校に転入生が来た?一目みたい!』って職員室に集まるガキ同様。

そんなのが『各々の種族のトップ』?


「滅びに向かってるんか?」と呟いたらアリスティアラから『申し訳御座いません』ってチャットがきた。

オイオイ。女神様に謝らせるなよ。


ハンドくんたちが変わらず私を守ってそばにいる。

床に座ってる私の両脇に控えて、上下に『屈伸運動』してる。

ちなみに私はそれを見ながら両手を合わせている。

うん。魔石精製中。

メニュー画面で確認したら1万超えていた。

これ全部渡したらエルハイゼン国が滅ぶよね。


『半分でも十分、間違いなく、確実に滅びますね』


滅ぼしちゃダメだよね。


『国民が『難民化』します』


国民に恨まれるのはお断りだわ。

じゃあ他国に『売りつける』のは?


『元々『乙女の魔石』はエルハイゼンが一手に担っています。他国に売れば『値崩れ』で暴落しますね』


・・・とりあえず常時100個だけ残して、残りはレベルアップにつぎ込むか。



部屋の中ではドリトスが主体となって話を進めている。

どうやら女神様の神託がきてすぐ、私の部屋をこの城の中にある一等の貴賓室に用意はしてるらしい。


部屋なんかいらんのに。不自由な生活するくらいならマンションに戻るし。

私のボヤキにアリスティアラが苦笑した気配を感じた。


『いつでもマンションに戻って頂いても構いませんが、ひと言残してから戻って下さいね。騒ぎになりますから』


よし。『日本語』で置き手紙してやろう。


『日本語ならある程度は分かると思いますよ』


じゃあカタカナで『アイル ビー バックまた戻ってくる』にしようか?『I’ll be back』でも良いけど?


『さすがにそれでは分かりませんよ』


『聖なる乙女』が来ていたら分かるよ。笑うかもだけど。



歴代の『聖なる乙女』は日本人だったから日本語の研究はされていたらしい。

「それって、日記を使ったとか?」と聞いたら『日記などは乙女が亡くなった時に私たちが責任もって焼却しています』と教えてくれた。

何より昔の乙女は会話のみで書く事が出来なかったらしい。

そういえば寺子屋で『読み書き算盤そろばん』を教えだしたから、幕末期には識字率が高くなったと習ったっけ。


「先代の乙女っていつの時代の人?」と聞いたらチャットに当時の写真が表示された。

一目見て分かる姿。防空頭巾を被った戦時中の女性だった。それも沖縄戦の映画でよく見た姿。

彼女は『聖なる乙女の館』からいっさい出ず、すべての人々に怯えて生きてきたそうだ。

そりゃそうだろう。『異人は敵』という状況下で生きてきたのだ。

この世界の人々で『黒髪黒目』は存在しない。

特に沖縄戦の生存者なら『日本国軍も敵』だ。

『気付いたら敵の中』状態に置かれた女性の心は苦しかっただろう。


でも沢山の仲間の死を見届けてきただろう彼女は、自決を選ばなかった。

自決用の毒も手榴弾も持ち合わせてなかった事と、館の中には歴代の乙女たちが作った日本の小物が多くあったからだ。

館の前には田畑もあり、ジャガイモなど見慣れたものも植わってたり

そして、この世界の人々は彼女を思って必要以上の接触をしない。姿を見せないなど気を遣ってたそうだ。


彼女はこの世界に埋葬されているらしいから、落ち着いたらお墓参りに行ってこよう。



魔石精製が2万個を超えた所で、ドリトスがこちらへ向かってきた。

話が決まったようだ。

扉の前でセルヴァンと何やら話をしてる。


どうやら『怖がられるんじゃないか』と気にしている様子で、ピンと立ってた耳が下がっている。

確かに『見た目が人間』な他種族と違い、人とは程遠い見た目の獣人族は今までの乙女たちから「バケモノ」と呼ばれて怖がられたらしい。


先代には全員が嫌われて怖がられたけど・・・


ドリトスが「大丈夫じゃ」と言ってるが、その自信はどこから来てるんだ?



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