第一章

第13話





シャララーという涼やかな音が止むと、私は閉じていた目を開けた。

そこは今までいたマンションではなく、異国の宮殿のようだった。


「ここが『エルハイゼン』か~」


私は周りを見回す。

三方が石壁に覆われた無機質な10畳ほどの部屋。

特にみる物はない。

部屋の扉を開けたら誰もいない。


「アリスティアラ。王様どっち?」


私の問いにアリスティアラはチャットで『右に進んで丁字路を左に。突き当たりの部屋に、他国の代表たちといますよ。扉の前に兵士がいます』と返事をしてくれた。


「分かった。見下してきたら遠慮なくぶっ潰す」


『ほどほどにして下さいね』と返されたのは私の『言葉の意味』を理解したからだろう。


それにしても廊下に誰もいないよ。

不用心だよなー。

そう呟きながら、大理石みたいな床をスニーカーで歩く。

今の私はポロシャツとジーンズというラフな姿。

もちろん着替えはアイテムボックスの中。

ドアをくぐって自室に戻って着替えてもいいし。


手ぶらなのは、「武器を隠し持ってる」と誤解されないためだ。

メニュー画面からアイテムボックスを開いて取り出すことも可能なんだけど、人は『見た目重視』だからね。

元の世界の異国では、身分証を内ポケットから取り出そうとしたら『拳銃を出そうとした』と誤解されて射殺された人もいたくらいだ。


勝手に誤解しといて殺されるなんてイヤじゃん。


そんなこと考えながら丁字路で左折する。

廊下の奥の部屋の大きな両開き扉に、牛頭馬頭ごずめずよろしくこちらにキツい視線を送って立っている兵士2人。


こういう威圧的なヤツが嫌いなんだよなー。


だいたいこの国は『聖なる乙女』を招く国だろ。

『異世界の服』を着てる私を『不審者』に位置付けて睨みつける前に、『召喚された』とか考えが及ばないのか?


『ごめんなさい』


いや。アリスティアラに怒ってるんじゃないからね。


そんなやりとりをしていたら、若い方が剣を抜きこちらに向けて「止まれ!曲者!ここをどこだと思ってる!」と怒鳴りつけやがった。


「剣を抜いたという事は殺されても文句はないんだよな。『ハンドくん』!」


私の声に反応した白手袋の『右手のハンドくん』が、剣を持った兵士の手首を掴んで後ろへ捻り剣を落としたあと、同じ白手袋の『左手のハンドくん』が兵士の頭を床に叩きつける。

鼻の軟骨と歯が折れた音が、静かな廊下に大きく響いた。

回復魔法があるんだから、痛い目にあわせても問題ないだろう。


隣の兵士は目の前で起きたことが理解出来ないらしく、茫然自失で固まっていた。

突然現れた一対の白い手袋が、若い兵士を一瞬で床に叩きつけたのだから。


ハンドくんたちはお互いでハイタッチしたあと、私の元へ戻って私ともハイタッチしてからバイバイして『魔法世界』へ戻っていった。



アリスティアラの話だと、ハンドくんは私がつくった『召喚生物』のようなものらしい。

映画からイメージしたため『魔法で創られた』のではなく『魔法で生まれた』存在らしい。

「じゃあネコとかイメージして魔法を使ったら『召喚生物』になる?」と聞いたら首肯された。


召喚生物を含む召喚獣たちは『魔法世界』に住んでおり、ハンドくんもそこにいて、仲間を増やしつつあるらしい。

『右手のハンドくん』が『左手のハンドくん』と一緒に現れて、『筆記』で説明されたときは本当に驚いた。

ハンドくんが書いたのは『日本語』だったから。

私が創ったため、私の母国語でやりとり出来るそうだ。

日本語でのやりとりが出来ることが嬉しかった。



え?驚く所が違うって?

だって魔法の存在しない世界に生まれ育った私にしてみれば、ここは『摩訶不思議』がまかり通る世界だよ?

何が起きても「そういう世界なんだな」って納得しちゃったんだ。


それに『私の部屋』でアリスティアラと話してるときに現れたんだよ。

「アリステイドの存在って、このマンションに入れないんじゃなかったっけ?」って言ったらアリスティアラも驚いていたけど、メニューからハンドくんたちを確認したら『召喚生物』となってたのを知って「創造主の貴女がいる場所ならどこでも現れる事が出来る」と教えてくれた。



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