それは人
「佐藤さん死んじゃったんだって」
クラスメイトの感慨もない世間話を思い出して、僕は久しぶりに一人の夜を味わっていた。
みんな知っていたらしい。彼女が病気であったこと。あんなに元気に動き回っていたくせに、動けば動くほど死に近づく心臓の病。
「あんなの気付けないな」
別に寂しくはない。悲しくもない。彼女ってわけじゃないし、そもそも友達ですらない。
なのに、あの透明な笑顔が頭から離れない。
硝子なのは、心じゃなくて体の方だったのか。
「あれ……」
視界が滲む。全身から力が抜けて膝をつく頃には、どうしようもなく瞼が熱くなっていた。
本当に脆い。彼女も、僕も。
人は、透明な部分が割れるまでその存在に気付かないのだ。
「硝子は、彼女だけじゃないね」
声を抑える。歪んだ視界に映る水中の星は透き通るように揺れて、彼女がその星の一つになってしまったと思うと堪らなく壊したくなった。
硝子の殻 琴野 音 @siru69
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