言の葉による死
I田㊙/あいだまるひ
愛しい言葉たちよ
この世界には、言葉が
伝えたいと願ったことを、伝える方法があった。
「私と一緒にあの男を殺しに行きましょう」
「殺すなどと言う言葉を安易に使ってはいけません。その言葉は刃になり、自分に牙を剥く言葉ですから」
「先生、私は黙っていられないのです。あの男は先生を侮辱し、あまつさえ
言葉は刃となり、彼女に牙を剥いた。
「ああ、また言葉が小説を殺してしまった」
この世界には言葉が在った。
彼は言葉を紡ぐ。
言葉は、力を持つ。
小説は魂を持つ。
彼は、小さな小さな小部屋で、一人黙々と言葉を書き連ねていく。
彼の小説には、優しい言葉しか出てこない。
人を傷つける言葉はどこにもなく、優しく包み込むような安堵感だけが余韻として残る。
しかし、そうして生まれた彼の
結果として
彼は書く。彼の
どうして、どうして。
そんなことは望んでいないのに、僕の
葛藤は言葉を生み、昇華され、また美しい作品が生まれる。
しかし美しい作品たちは、また彼を愛しすぎて死んでしまう。
どうすれば、彼らは死なない?
どうすれば、どうすれば。
人は言葉を紡ぐ。
その言葉にどんな意味が込められ、そしてどんな魂が宿るのかを識っているから。
人は葛藤する。
葛藤しなければ、言葉を生み出せないと識っているから。
言葉は力を持つ。
鋭く美しい戒めと、それを解く鍵両方を持って、真っ白な世界へそれを突き立てることを、人がやめられない限り。
好い言葉だけで綴られた世界は、真逆の性質を内包する。
彼は本当は識っていたのだ。
識っていて見ないふりをしていた。
彼は、好い言葉に食い殺されるのだ。
排除し続けたことは間違なのだと。
彼は死ぬことにした。
彼の四畳ほどの部屋には、千切られた本の残骸がまるで海の様に散らばっている。
言葉の海の中で、彼は静かに言葉と一つになっていく。
穏やかに、緩やかに、言葉の求めるままに――。
愛しい言葉たちよ、私は君たちを憎悪する。
言の葉による死 I田㊙/あいだまるひ @aidamaruhi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます