Phase07 救済

 それから、何ヶ月経ったのか。あるいは、数日だったのかもしれない。

 しかし、ミチルにとって、その期間は何十、何百年にも感じられた。

 永遠に続くような陵辱。体も心ももてあそばれ続けた。

 そして、気づいた頃には、痛みの錠剤ペインタブレット漬けにされたお姉ちゃんよりも酷い状態になっていた。

 泣き叫び、もだえ苦しみ、涙も悲鳴も枯れ果てた。

 心にあるのは深い絶望のみだった。一日でも早く体が破壊し尽くされて、命が尽きてしまうことだけを心から祈っていた。

 

 ぎいぃぃぃぃ。

 ミチルが閉じ込められている地下室のドアが、軋みながら開いた。


 これから、長い責めの時間が始まる。あの男の嫌らしく長い指で、全身をくまなくいじられて、傷つけられて、心の深くまで犯されるのだ。

 ミチルは目をつぶり、身を硬くした。


「こんなところにも、肉人形マリオネットか?」

 あの男じゃない、誰かが近づいてくる。

 声は少年のように澄んでいて、場違いなほど明るい調子だった。

 肉人形マリオネットは、体の中に機械の骨格を組み込まれて、操り人形にされた人間のことだ。裏の世界でも製造を禁止されていて、最近は少なくなったけど、今でもこっそりと作っている職人がいるそうだ。


 誰かがミチルの腕に触れた。

「違うな。機械は入れられてない。でも、まあ、似たようなものか」

 目を開くと、可愛らしい顔をした少年が経っていた。

「あんたは?」

 悲鳴を上げすぎて、すっかり擦り切れてしまった老婆の声で、ミチルはたずねる。


「殺し屋だよ。思い人を殺されたってんで、ここの主人の殺害依頼があってね」

「そう、じゃあ、あいつを?」

「ああ、殺したよ」

「ボクを助けてくれるの?」

「いいや、俺はただ殺すだけだ」

「そう……」

「どうせもう助からない。その体で外に出れば、すぐにショック死するだろうさ」

 少年は傷だらけになったミチルの体を見てつぶやいた。


「安心しろ、楽にはしてやる。痛いのはほんの一瞬だ」

 少年はミチルの首筋にナイフを突きつけた。

「ねえ、最期に一つだけお願いがあるの」

「お願いだと?」

「それか、仕事の依頼と言ったほうがいいのかな」

「報酬は?」

「ボクの命。先払いであげる」

 交渉にもなっていない。けれど、少年は面白がるように静かに笑った。


「まあいい、言ってみろ」

 ナイフの冷たい感触が首にそっと触れている。

「殺し屋なんだよね? 腕は良いの?」

「ああ、失敗知らずだからな」

「なら、殺してよ」

「誰をだよ。ここの主人ならもう……」

「みんな。こんな酷い世界を作っている人たちを、皆殺しにして!」

 しわがれた声で、ミチルは叫んだ。


「なんだ、そんなことか。楽勝だな、引き受けてやろう」

「嘘ばっかり」

 ふふ、ミチルはずいぶん久しぶりに笑った。


「嘘じゃないさ。なんたって、俺はKiller SS最高の殺し屋だからな。どんな奴だって殺してみせる」

 ナイフがミチルの首をスッと切った。

 痛みはほとんどなくて、生温かい血の感触だけ妙にはっきりと感じた。


「約束するよ。いつか状況が整ったら、こんなクソみたいな世界は俺が殺してやる」

 少年は、あどけなさの残る顔に、優しくも、悲しそうな表情を浮かべた。

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