Phase04 愛情

「もう、お小遣いを使い切っちゃったの?」


 お姉ちゃんの勤めている娼館へ行くと、お姉ちゃんはちょうど仕事を終えたところのようで、ローブに身を包んでいた。

 お姉ちゃんはとても綺麗で、娼館でも一、二を争う人気を誇っているそうだ。でも、だからこそ、仕事は過酷で、このところ酷く疲れているようだった。布の隙間から見える肌は青白い。体も日に日に痩せていっている気がする。胸の辺りは分からないけど、首元は骨が透けて見えている。


 ミチルが「少しでいいからお金が欲しい」と言うと、お姉ちゃんは驚いたように目を見開いた。


「今回はちょっと失敗してさ」

「失敗って、まさか!」

 お姉ちゃんが厳しい顔つきになった。

「まだ殺し屋になるとか言ってるんじゃないでしょうね!」


「だってさ、ボクが稼ごうと思ったら、それくらいしかないだろ」

 ミチルはまだまだ子どもで、普通の仕事をしても満足な給金をもらえない。そもそも裏の世界にある仕事なんてろくな仕事じゃないんだから、どうせなら実入りのいい仕事がいい。

「この傷はそのときに?」

 お姉ちゃんが悲しそうに、ミチルのほほにある傷を触った。

「痛かったでしょう……」

「これくらい平気だよ。いつか、でかい仕事をして、ボクがお姉ちゃんをここから出すからさ。それまで元気でいてよね!」

「ミチルはそんなことしなくていいの。お金だったら、私があげるから。ね、お願いだから危ないことはしないで」

「お姉ちゃんにばっかり頼れないよ」

「いいの。私が勝手にあなたの世話をしてるんだから。気にすることないの」

「次こそ成功させるから心配しないで。でも、ごめん。弾を買うお金も無くなっちゃってさ。だから、今回だけお金を借りたいんだよ」

「もちろん、お金はあげる」

 お姉ちゃんは数枚のお札をミチルに渡して、

「でもね、銃弾なんかにしないで、食べ物を買うのに使ってね。ミチル、なのよ。人を殺して稼ぐなんて無理に決まってるでしょ」

「ボクは……」

 女だから、非力で。それが悔しかった。


 お金を握り締めたまま、ミチルは泣いてしまった。抑えていた涙が一粒こぼれると、それをきっかけにポロポロと涙があふれてきた。拭いても拭いても、涙はなかなか止まってくれなかった。

 お姉ちゃんは、そんなミチルを抱きしめて、涙が止まるまで何度も優しくなでてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る