Phase03 希望

 綺麗に整えられた表の町を駆け抜け、路地に入る。

 だんだんと、空気が腐敗してゆく。


 裏の町への入り口だ。ここは治安委員の手も届かないこの国の暗部。様々な国の言語が飛び交い、電子麻薬エレクトドラッグや、違法改造された生体チップタグや、若い女たち、果てはまだ幼い子どもまでが売り買いされている。


 いつか、まとまったお金ができたら……。


 ミチルは偽造チップ屋のショーケースをのぞいた。

 ストローの切れ端のような小さな電子部品が、所狭しと並べられている。

 お金さえあれば、日本国籍の登録された生体チップタグを買える。そうしたら、表の町でも生活できる。学校にだって行けるし、綺麗な家に住んで、美味しいものをお腹一杯食べられる。


 いっぱい殺して名を上げて、大きな仕事をして、いつかきっと……。

 そのときには、お姉ちゃんを店から買い取って、二人で生活するんだ。


 淡い希望を抱きながらショーケースに顔を貼り付けていると、偽造チップ屋の主人が出てきた。

「おらっ、ここはガキのおもちゃ屋じゃねぇんだ。ウィンドウが汚れるからさわるんじゃねぇよ」

 主人は、ハエを避けようとするみたいに手を払った。

 でも殴らないだけ、ここの主人は優しい人だと、ミチルは思った。

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