第五話 昔の村にて

 ブンブンがやってきてからずいぶんと時間が過ぎた。今はもうプロペラが回る音は聞こえない。どこかへ行ってくれたようだ。


「よし! そろそろ出発しよう」


 私は立ち上がると、お尻についた砂を払う。他のみんなもそれに続いた。


「ようやく外の空気が吸えるな」


 コジローがあくびを一つした。


 おびえていたマサも今はずいぶん落ち着いている。ブンブンがやってきたときはずっと帰りたがっていたが、もう大丈夫らしい。


 私たちは建物の外に出た。温かい空気が肌に触れる。


「それにしても長かったな。これだとゴミ山天国に着く頃には、本当に日が暮れてるぞ」


 タケ兄が空を見上げながらそう告げる。


 私も同じようにして空を見上げれば、雲一つない快晴が広がり、らんらんと輝く太陽はずいぶんと高く昇っていた。ここにきてから少なくとも二時間はたっているだろうか。


 だからと言って今さら帰りたくはない。


「食料は十分にあるし、水も途中の井戸で補給できるから、野宿することになっても大丈夫だよ、きっと」


 私は胸を張って答えた。


 するとコジローもそれに続く。


「せっかく朝っぱらから出てきたんだしな。今さら帰るなんてあり得ないぜ」


 コジローがそう言うとマサも続いて、「せっかくだしね」と頷いた。


「……まあ、野宿も仕方ないか」


 みんなの意見が一致したことを知り、タケ兄も合わせて頷く。


 私たちはリュックを背負い直すと歩き出した。




######




 それから一時間ほど砂が吹き荒れる荒野を歩き続けると、一つの村が見えてきた。薄い板を張り合わせただけの家が建ち並ぶが、誰も住んではいないことを私たちは知っている。


「井戸はちゃんと残ってるな」


 タケ兄が一早く井戸がある小屋を見つけた。


 木材でできた不格好ぶかっこうな小屋は、私たちの村の住民が建てたものだ。


 昔はこの井戸の周りに私たちは暮らしていた。

 この井戸から水を汲み、この近くの地下シェルターにある食料の備蓄を食べて生活をしていたが、四年前にその食料が尽きてしまった。そのために現在の村がある場所へ移住したのである。


「ここも、今のところとあんまり変わらないな」


 タケ兄が昔の村を眺めながら呟いた。

 振り返れば私たちが住んでいた家が目に入る。周りの家と同じように薄い板で壁と天井を作ってビニールシートをかぶせてあるだけだ。


 懐かしさと切なさが心を包み込む。


 井戸はまだ使えるようだった。

 石で組んだ井戸の穴からロープをたぐって水を汲む。

 私はリュックから細長いプラスチックのケースを取り出し、水筒の代わりとしてそのケースに水を入れた。


 これで水分には困らないはずだ。


「これで一安心だね」


 私は井戸の隣に腰をおろすと一息ついた。


「これからクレーター越えが残ってるけどな」


 コジローも隣に座った。タケ兄とマサも腰をおろす。


「ブンブンがまた来なければいいけど。ここからは隠れようがないから」


「そうだな」


 マサが遠くを見つめながら小さく呟くと、タケ兄も頷く。


 私たちが見つめるその先には果てしなく大きい穴があった。直径20キロメートルに及ぶクレーターである。戦争で使用された兵器によってできたとされている。


 クレーターの向こう側に行くには、円周をたどっていかなければならず、どのくらいの時間がかかるか分からない。すでに時刻は昼前。急がなければ夜になってしまう。


「ちょっと休んだら、すぐ出発ね」






## 続く



 

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