後輩は言った「恋じゃありませーん」
「セーーフっ!」
「ギリギリ、ね」
危ないところでした。
チャイムが鳴る2分前に到着です。
まさか電車内に放置されるとは思ってもみませんでしたよ……。
幸い、次の駅で降りられたのですが、信号や荷物運びの大変そうなご老人に引っかかってしまい、ギリギリになってしまいました。
「はぁ〜〜〜、せっかく話しかけられたのに……幸先悪いなぁ」
「会長のこと? 有栖、ずっと目で追ってたもんね? 恋かしら?」
「恋じゃありませーん! そもそもお友達にもなれなかったよ……」
机にぐったりしながら同じクラスの友達に愚痴ります。
名前は山手 雫といい、基本的に定期テストでいつもトップ10を取っている才女です。
「さっ、チャイム鳴るし、授業の準備しないと間に合わないよ」
「はーい」
少しふてくされながらも私が答えると、雫は自分の席に帰って行きました。
といっても前の席ですけど……。
教科書を机に広げると同時にチャイムが鳴り響き、授業開始の号令がかけられます。
「――――起立」
◆
「――――礼」
授業終了のチャイムが鳴ると同時に委員長が号令をかけ、先生が教室を出ると、徐々にみんなの話し声が聞こえ始めます。
「いや〜〜、よく寝たなぁ〜〜」
「有栖、今日はテスト2日前だよ? よく寝てられるね……」
「私は平均点あればいいと思ってるしっ! ねぇ、愛香っ」
私が声をかけたのは、私の席にやってきたもう一人の友達、佐藤 愛香です。
相変わらず大きな胸ですね……羨ま――げふんげふん――邪魔そうですね。
「いやいや、私は真剣に聞いてるけど取れないんだよぉ〜! なんでぇ〜」
「……なんか、ごめんね?」
「しずくぅ〜、ありすがいぢめてぐるぅ〜」
「う〜ん……ごめん、私もなんであんなに真面目に勉強してる愛香が点数取れないのか分からないわ」
「う゛わぁーーーーー!!」
廊下に向かって走っていく愛香ちゃん。
一瞬瞳に光るものが見えた気がしたけど、気のせいだと思いたいです。
その後、廊下で「ゴラァーーッ!!」と先生の怒鳴り声が聞こえ、愛香が完璧に涙目で帰ってきました。
「廊下走るなって怒られたぁ……」
「「「「・・・・」」」」
出来事一連を見ていたクラスメイト全員がなんとも言えない顔で愛香を見ていました。
悲しい事故です。
「まあ、私は家で猛勉強してるんだけどね……」
私の呟きをキャッチした雫は「でしょうね」と、分かっていたように返しました。
やはり親友の目は誤魔化せないと思い知らされました。
愛香?
なんのことでしょう?
ちょっと理解出来ませんね。
午前の授業が終わり、超超待ちに待った昼休みを迎えました。
「ありす〜、どこで食べる〜?」
「ここでよくない?」
「私もここでいい。愛香はどこか行きたいの?」
「いや〜、特には。じゃあ食べよっか」
雫の弁当は相変わらず美味しそうで、いいお嫁さんになりそうですね……くっ、負けてられねぇです!
愛香のお昼はいつもコンビニパンで、本人の母親曰く「弁当は毎日作ってたら飽きられるでしょっ!」だそうです。
「有栖、今日も手作り?」
「へっへーんっ! 雫には負けられませんっ!」
そんなこんなでお昼満喫する私たちでした。
お昼を食べ終わり、三人で談笑している途中、最近私が夢中の先輩の話になりました。
「会長ねぇ……噂が本当なら、おとすのは難しいと思うよ」
何故おとすこと前提なんでしょうか?
いえ、それよりも大事なことがありますね。
「噂?」
「あー、私もそれ聞いたことある! なんかでもぉ、雰囲気が禁句! っていうかぁ、暗い話だからあんまり言いふらしたりはしたくない内容だけどね〜」
先輩に関する暗い噂……とても気になります。
けれど、私と先輩との間にある距離を縮めるのではなく、かえって離してしまうのではないでしょうか? とも思ってしまい、聞くのを躊躇いもしました。
一世一代と言っては大袈裟かもしれませんが、私にとっての大きな決心をします。
「その噂、どんなのか教えてくださいっ!」
稀に見る真剣な私を見て、敬語になったことに対しては二人とも何も言いませんでした。
「この学校ってね、六月十日が休日になってるんだけど、なんでか知ってる?」
「えぇとぉ……知らない、かな」
既に一度体験したことのはずなのに、興味が無かったせいか、分かりません。
「六月十日はこの学校の生徒の一人の命日なのよ。それも……去年のね」
「――え?」
雫の言葉の意味を、しばらくの間理解出来ませんでした。
隣でさっきまで元気いっぱいだった愛香も、辛そうに窓の外を眺めています。
「名前は天道 天音。一つ上の先輩で……」
――――生徒会長の幼馴染よ。
「…………へ?」
私は自分がなんて言葉を返したのかも分からず、雫の同じ言葉が頭の中を繰り返していました。
しかし、何度繰り返しても、他の言葉に置き換わるはずもなく、次第に意味を理解してしまいます。
「噂自体はね、元々二人は熱愛のカップルだったっていうものと、事件以降の生徒会長の性格が激変したっていうものなんだけどね……」
愛香がそう締めくくりましたが、私の心の中では絶え間なく先輩の顔が浮かび続けていました。
どうしても、思ってしまうことがあったのです。
昼休みが終わり、四時間目の現代文の授業中、いつものように私は眠ることができませんでした。
「先輩は……私との会話を……」
ぶっきらぼうでも話を聞いてくれる先輩。
愛想がなくても返事をしてくれる先輩。
私を――救ってくれた先輩。
――――どう思っていたのでしょうか?
◆
チャイムが鳴ると同時に、クラスメイトの殆どが愚痴をこぼしながらテスト範囲表を確認する。
英語のテスト範囲が急に増えたのだ。
「ヤベェよ。俺、今回まじでやばいんだけど……」
やばいやばい連呼されてもこまるんだが……。
まあ、アホの隼人くんなら仕方ないか。
そもそも定期テスト以前に大学入試対策もそろそろしなければいけない時期のはずだ。
つまり何が言いたいかというと、「グチャグチャ言ってねぇで勉強しろ」だ。
「そうよねっ! アホの隼人なら仕方ないよねっ!」
後ろから声をかけてきたのはテニス部女子の日向だった。
心の声を読むなし。
「ってことでぇ、今日勉強会しねえ?」
「いいね、それっ!」
アホの隼人くんに賛同するアホの日向さん。
アホたちが俺の勉強を邪魔しに来るだけで、メリットが皆無なんだが。
「ついでに昼休みにお前が愚痴ってた後輩も呼んどくかっ! 生徒会長に勉強教えてもらえるなんて幸運滅多にないし、喜ぶだろ」
勝手に決めるな、地面に埋めんぞコラ。
くっそ、昼休みにコイツに愚痴ったのはやはり早計な判断だったか……。
「やめろ、アイツ呼ぶのはまじでメンドイ……」
「誰のこと?」
未だ状況を把握できず、キョトンとしている日向に隼人が教える。
日向は一瞬驚いた様子を見せ、ポケットからスマホを取り出して言った。
「その子なら私、ラインアカウント持ってるよっ!」
……なんでだよ。
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