第153話 褐色のルナ
いつの間にか辺りが薄暗くなって、リーフがそろそろ宿屋へ戻ろうと思っていた時、
「あのう、すみません」
と、後ろから声を掛けられた。
「はい?」
振り向くと、女の人が一人立っている。女の人、というよりは、まだ少女のような感じだった。
背丈はリーフより大きいのだが、しなやかにしまった浅黒い体をしている。原色を使った幾何学模様のワンピース。くっきりしたアイラインの大きな瞳。黒い髪の毛は細かくカールしていた。南国風で、見るからにすばしっこい感じだ。
「この辺りに、果物屋さんを見ませんでしたか?」
「果物屋さん?」
リーフはちょっと考えた。
(宿屋からここに来る間の路地に、リンゴの絵が描かれている看板を見たような・・・。)
「もしかしたらあそこかも・・・。どうせ帰り道なので案内します」
「助かります!」
リーフは褐色の肌の少女と路地に向かった。
「お名前はなんていうの?私はルナ。よろしくね」
もじもじするばかりのリーフに変わって、ルナがちょっと親し気に尋ねる。
「ぼ、ボクはリーフです。こちらこそよろしく・・・。同じ年頃の女の子と話すのって久しぶりで、ちょっと緊張しちゃった・・・。ルナさんは一人でこの村に?」
「ええ。近くの村までは仲間と一緒だったのだけど、ここでは一人。リーフさんは?」
「うん、もう一人、男の人と一緒だよ。ツルギの国へ行く途中なんだ。」
「ツルギの国へ?何をしに?」
「え?う・・・ん、見学かな?」
などど、その後は他愛もないおしゃべりをする二人。
ルナはリーフに興味を持ったらしく色々な質問をし、リーフも女の子と話せて喜んだ。
そうこうするうちに看板が見える路地に着く。
(路地と言えば)
リーフは一人で思いだし苦笑いをする。
(微妙な思い出ばかりだなぁ・・・。スカーレットさんに脅されたり、ジャックさんにキスされたり・・・。)
「なに笑ったの?」
そんなリーフに気付いたルナ。
「あ、ごめん、路地には複雑な思い出しかなくてさ。」
「そう。じゃあ、今日もう一個その思い出が増えるかもね。」
「え?」
路地に入った次の瞬間、リーフは気を失っていた。
無表情で見下ろすルナ。
ルナは灰色のマントを頭からかぶってリーフとともに夕闇に消える。
「リーフが帰らない・・・」
酒場で散々飲んだロザロッソが夜も更けてから宿屋に戻ったら、リーフがいなかった。
宿屋の主人は、ずっと見ていないと言う。
「まったくもう、どこまで世話が焼ける子かしらね!」
ブツブツ言いながら探しに出るロザロッソ。
とはいえ、辺りは真っ暗闇で、もう消えかかっている家々の明かりと半分の月明かりを頼りにするしかない。
夜の道を、リーフを探しながら歩くロザロッソは、自分の不思議な感情について考えていた。
さっきまでいた酒場で、いつものように可愛い男の子を物色しようとしていたのだが、どんな子を見ても全然ときめかなかった。
それどころか黒髪の子がみんなリーフに見えたりする。
頭に浮かんでくるのはリーフのことばかりで、あのフワフワと暖かい肉体に触れたくて仕方なくなるのだ。
(冗談じゃないわ!アタシはホモなんだから!よりによってあんなチンチクリンの女、興味ないっつーのっ!!)
しかしこの、リーフで心が覆われたような感情はなんと説明したらいいのだろう。
あの香油の効果が残っているのだろうか?
ロザロッソが悶々として歩いていると、一台のほろ馬車とすれ違った。
「こんな真夜中にどこにいくのかしら・・・あいたっ」
その瞬間、ロザロッソの右足がズキッと痛む。
ほろ馬車の騎手がチラリとこちらを見たが、そのまま走り去ってしまった。
灰色のマントをなびかせながら。
数分後にロザロッソが気づいて追いかけた時には、そのほろ馬車は跡形もなく遠く過ぎ去っていた。
リーフは夢の中にいる。
とても暖かいと思ったら、ジャックの腕の中にいた。
その大きな体に安心して、そっと抱きしめる。
顔をあげると、ジャックがクロードに変わっていた。
リーフは戸惑うが、クロードは優しくキスする。
クロードが唇を離した時、その顔はサスケに変わっていた。
暗転、暖かい世界が黒い冷たい世界に変わる。
崖の上の町から、ジャックの背に乗って落ちるリーフ、向こうに弓矢を構える人影。
その姿は、
ロック。
そばにサスケが控えていた。
そして、ベッドに縛り付けられてクロードに乱暴されるリーフ、椅子に座って眺めるアベル。
クロードはリーフの中に入るとサスケになり、アベルは笑いながら紅い髪のロックになった。
「この世は全て計算で出来ているんだよ、リーフ」
とロックが言ったところでリーフは目覚めた。
「ボク・・・大事なことを忘れていた・・・!あの時崖から矢を放ったのはロックだ・・・!ボクは見ていた・・・。そして・・・クロードはサスケで、アベルが・・・ロック!!」
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