第154話 コッペルト

リーフが目覚めると、白い宮殿のようなところにいた。白い部屋、真っ白なベッドの上。


「ここ・・・どこ?」

起きてすぐには記憶が追い付かない。


ただ、さっき見た夢のことを思い出すと心臓がバクバクした。


「どうして・・・どうしてロックはあんなことをしたんだろう・・・?すごく・・・すごく大事なことだよね・・胸がドキドキする・・・。早く誰かに知らせなきゃ・・。」


真っ先に浮かんだのはアーサーの顔。しかしアーサーはリーフの前から消えてしまった。


「・・・てか、本当にここはどこなんだろう?えっと・・ルナって女の子と果物屋を探していて、それから・・・覚えてないなぁ・・」


リーフが上半身を起こしてきょろきょろしていると、白いドアから女の人が入ってきた。



全身白い服を着ている、金髪の美しい女性。リーフは一瞬、天国に来たのかと思った。


「お目覚めですか。」


「あのっ!ここはどこですか?!ボクはどうしてここにいるんですか?!」


「・・・詳しいことは、のちほど主様からお話があります。まずはお着替えをなさって、お食事を召し上がってください。」



リーフは女の人が着ている、ギリシア神話の挿絵で見たような白い服を着せられた。



女の人が無表情で淡々と事を進めるので、リーフはあれこれ聞けなかった。

ただ、出されたパンケーキとサラダみたいな朝食が美味しくて、そのまま素直に

「すごく美味しいです・・・」

と言ったら、女の人は少し微笑んだ。


白い廊下を渡り、白い大広間へ通されるリーフ。

「うわぁ・・・!」

そこには、あちこちに色とりどりの花が飾ってあった。どこもかしこも白一色の建物だと思っていただけにもの凄いインパクトがある。

花に囲まれるように、案内してくれた女の人と同じ格好をした人が数十人整列していた。


広間の奥の少し高くなった場所に、ひときわ美しく威厳のある、60代くらいの女の人が座っていた。その頭上には金色の王冠をいただいている。

女の人は音もなく優雅に立ち上がり、リーフの前までに歩いてきて、跪いた。

それに合わせて一斉に、広間にいたほかの女の人たちもリーフに向かって跪く。


「えっえっ??」大混乱するリーフ。


跪く女たちを上から見ると、白い花が自分の周りに咲いているように幻想的な光景だった。


「ようこそおいでくださいました。青のドラゴンを宿し、赤のドラゴンを蘇らせしお方。」


「あの・・・え・・あなたは・・・?」


「申し遅れました。わたくしはコッペルトの主、クレアでございます。そしてここに並びいますのは、コッペルトの巫女たちでございます。」


「コッペルト・・・!」

どこかで聞いたことがある、とリーフは驚きながらも思い出そうとする。





「コッペルトぉ~?!」

「こら、しーっ!!!声が大きい!!」


ロザロッソは思わず口を手でふさぐ。「そ、そうね、声が大きかったわね・・・。ごめんなさいロバート。でもびっくりしちゃって・・・。」


ここはリーフが消えた村の酒場。

ロザロッソは、リーフを探しているときに偶然、昔なじみのロバートに会ったのだった。

そのちょっと小太りの、人とがよさそうな顔をしている彼は旅の商人で、ロザロッソが父について各国を巡っていた時に一緒に旅をしたことがあった。


ロバートは旅こそ我が家と公言している通り、家を持たず、あちこちを周り続けているのでこの大陸のあらゆる事情に詳しい。


「これは絶対に口外してはいけないと念を押されているんだが・・・。まあ、お前なら大丈夫だろう。

オレは数年前から極秘でコッペルトに武器を運んでいるんだ。」


「なんですって!コッペルトに武器・・・。あそこは、巫女しかおらず、神事だけを執り行う不可侵の秘境のはずよ。武器なんて何に使うの?」


「そう、コッペルトはか弱き巫女さんが集う場所だと思うだろ?ところがどっこい、あそこは最強の女兵士を作り出す場所なんだ。赤ん坊の時から連れてきて、日々行うのは肉体の鍛錬。そして男より強靭にして無慈悲な戦士が出来上がるのさ。」


「で、でも、巫女たちは一生宮殿から出られないんでしょ?何のためにそんな・・・。」


「一つは、外から来る敵に立ち向かうため、もう一つは・・・」


「もう一つは?」


「黒のドラゴンが復活した時のため、だ。」


「黒のドラゴン・・・!」


「ロザロッソ、静かに…静かに・・・。」とロバートは周りを気にして一層声を潜める。


「そもそも、あの場所は黒のドラゴンの復活を予言した森の大賢者が300年前に作ったんだ。さて・・・お前の話を聞くと、そのリーフという子はコッペルトに連れて行かれた可能性が高いと思う。

コッペルトの巫女が何人か宮殿の外に出たという噂を聞いたし、なにより、コッペルトはこの近くにあるんだよ。」

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