第91話 ベラ湖のほとりで

「うわあ、綺麗な湖だな~!」

リーフたちが休憩場所に止まったのは、美しい湖、ベラ湖。

限りなく透明なブルーで、光の反射で水面がキラキラ光る。


つい習慣で、魚はいないかと水の中を覗き込む。凄くきれいな水だけど、生物の姿は確認できなかった。

「う~ん残念・・・。」

「そんなに身を乗り出しちゃ、危ないよ。ここは見かけより深いんだ。」

心配そうにクルトが側にやって来た。


てへへ、と笑うリーフ。二人は、とても仲良しに見える。


「ほら、ご覧になって。あの二人が昨夜お話しした、馬小屋でキスをしていた者たちですのよ。

やはり場所もわきまえず、卑しいふるまいですこと。」

エリーはさげすむように言う。

ブルーはチラリとも見なかった。エリーは、その反応に満足だった。王は、あのような下賤の者に関心などないほうがいい。


(見てしまえば、私は自分を止められないだろう)

ブルーは王として、取り乱すわけにはいかないのだ。


エリーの召使たちは、王と姫のためにお茶を入れる。

お茶は二種類用意されていた。

「あれ、エリー姫とブルー王、違うお茶飲むの?」

一応エリーを観察しているリーフがクルトに聞いた。


「そう。昔からなんだよ。エリー様は、エリー様だけの特別な食事、特別なお茶・・・、何もかも、エリー様の母君でいらっしゃるリンゼイ女王様がご用意なさるものをお使いなんだ。」


「ふーん・・・。」


よくよく見ると、お茶を飲むエリー姫はあまり美味しくなさそうな顔をしている。

リーフ的にそれがすごく引っかかった。

「ねえクルト、姫様だけの特別なお食事って見たことある?」

「え?うん、台所で姫様の侍女が作ってるの見たよ。なんだか変わった香りがしてたなぁ・・・。

ここだけの話、あまりおいしくなさそうだった。」


(ますます引っかかるぞ!)

リーフが腕組をして考えていると、クルトがほっぺにキスしてきた。

「えええええっ!」

「考えてるリーフが可愛くて」

クルトはいたずらっぽく笑う。


(こんなとこブルーに見られたら・・・)

恐る恐るブルーの方を見ると、無表情な青い瞳と目が合った。

パッと目をそらす。


(大丈夫、大丈夫、見てない見てない・・・。見てたとしても、いいじゃんよく考えれば。

結婚はどうととか言ってたけど、そんなの無理だし。あ、でもボクが他の人と愛し合わなくてもいい方法教えてくれなくなると困るなぁ。いやでもクルクルも知ってそうだし、まあいいか。)

心の中でブツブツ考える。



「きゃーっ!」

突然、侍女のいる方から声が上がった。

ヒヒーン

同時に馬の鳴き声も。


「あっちへ行きなさい!こら!」

黒い仔馬のクロちゃんが、侍女たちに追い払われていた。

パニックになったクロちゃんは、森の奥の方へ向かって走り出す。


「ああっ!待ってクロちゃん!!」焦るリーフ。


「何事ですか!」エリー姫が立ち上がる。

「エリー姫様申し訳ありません・・・!あの仔馬が、エリー様のお食事を食べてしまったので、追い払おうとして・・・。」

「なんということを!お前たちがちゃんと管理していないのが悪いのであろう!あの仔馬はブルー様の愛馬、オリオンの子ぞ!お前たち全員の命で贖っても足りぬわ!」

エリーは兵士が持っていた剣を抜いて、おびえる侍女の一人を切りつけようとした。


「ま、まってください姫様!ボクが必ずクロちゃんは見つけてきますので、その人たちは許してあげてください!クロちゃんはまだ子供で、躾ができてないのはボクのせいなんです!」

リーフがたまらず飛び出した。


「おまえは・・・。直接私に話しかけるとは、卑しい身分で無礼であろう。」

「ごめんなさいごめんなさい!すぐっ!探してきます!」

リーフはクロちゃんが走っていった森の中へ追いかけて行った。


「姫様、わたくしも行ってまいります!」

クルトも走る。


エリーが振り向くと、ブルーもそこにいなかった。

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