第90話 嫉妬

翌朝、寒いけど風がなくてまずまずの遠出日和。


朝っぱらから反省しているリーフ。

(う~ん・・・。どうしてクルトのキスを拒まなかったんだろう・・・。)

どうにも頭を抱えたくなる。

(男の人とのキスになれちゃったのかなぁ。自分がどんどん女の子になっていくみたいで怖いぞ・・・。)


「まあとにかくだ、今日はエリー姫に会うチャンスなんだから、頑張らないと!!」

気合を入れてみる。


「はりきってるね、リーフ。」

クルトがニコニコッと笑って後ろに立っていた。固まるリーフの頭をナデナデする。


「おおお おはよう、クルト!」

「姫様たちは朝のうちにおいでになるから、簡単に朝食を済ませたら馬たちの世話をしてやろう。

ほら、これ調理場から貰って来たんだ。」

クルトは焼きたてのパンとハムの薄切り、カップに入れたスープを見せた。


「ありがと~。お腹がすいてたからうれしいなぁ」

まだまだ色気より食い気のリーフ、美味しそうにパクパク食べる。

そんなリーフを面白そうに眺めるクルト。


「なんだかね、リーフって何かを食べさせたくなる顔してるんだよなぁ」ははは、と笑う。

「えっ?そんな・・・もうっ、ジャックさんみたいなこと言うなぁ。」

リーフのことを育てた黒ヒヨコに似ていると言った怪鳥ジャック。

「ジャックさん?」

「あ、うん、知り合い・・・。さあ、馬のブラッシングしようクルト!」


エリー姫は仔馬のクロちゃんも見たいと言ったらしく、念入りに磨き上げる。

クロちゃんはいつもより早く起こされて迷惑そうだが。


エリー姫の黄金の馬サンダー、ブルー王の白い愛馬オリオン、仔馬のクロちゃん、その他のお付きの者が乗るための10頭の馬の準備ができた。


並べてみると、サンダーとオリオンの神々しさは格別である。


「クロちゃんはオリオンが父親なんだよ。きっとこの二頭に負けないぐらい美しい馬になるよ。」

クルトが嬉しいことを言ってくれた。


お城のほうがガヤガヤ騒がしくなったかと思うと、十数人の家来とともにエリー姫とブルー王が出てくる。


(ブルーさん、久しぶりだなぁ。)

数日会っていないだけなのに長い間に感じる。


馬小屋の前で立つリーフに気付いたはずなのに、ブルー王は全く無視した。それどころか反対の方を見るようにしている。

(あれ?まあ・・・、エリー姫がいるから仕方ないか。)

意外と寂しく感じる。



「まあ、かわいい!」

エリー姫はクロちゃんに感激していた。クロちゃんを触る瞬間の彼女は、普通の22歳の女性に見える。


「ほんとに愛らしいこと!クルト、わたくしこの子も遠出に連れて行きたいわ。」

「しかし姫様、クロは、今のところこの者にしかなついておらず、言うことを聞かないのです。」


クルトはリーフを指さした。

「それでは、その者も一緒に連れて行けば良いでしょう。早く支度なさい。」


待たせると機嫌が悪くなるので、クルトは急いでリーフに用意させる。これはエリー姫に近づくチャンスかもしれない。緊張するリーフ。

「大丈夫だよ、リーフ。こうなったらボクもついていくから。君はぼくの馬に一緒に乗ればいいからね。」



それからすぐに遠出の一行は城を出た。リーフはクルトの前に乗せてもらって、クロちゃんはトコトコついてきている。仔馬がいるのでリーフたちはほとんど最後尾、先頭付近のエリー姫とブルー王は小さくしか見えない。


(きのせいかな、ブルーの背中が怒っているみたいに感じる・・・)

果たして、リーフの予想は当たっていた。

ブルーは昨夜、エリーからリーフとクルトのキスのことを聞いて以来、逃れようのない嫉妬の感情に苦しんでいた。心臓が煮えたぎるようで、まともにリーフの顔を見られなかった。

今でも自分の後ろで、リーフが他の男と一緒に馬に乗り、その髪や体が触れていると思うと気が狂いそうになる。


今すぐ、リーフを腕の中に掴んで、誰もいない森の奥まで馬を走らせ、乱暴に抱くことを想像する。

リーフが泣いて許しを乞うても、決して止めないだろう。軽蔑されたとしても、それ以上の愛を思い知らせてやるのだ。


(この感情は、本当に赤のドラゴンのせいだけだろうか)苦悩するブルー。



一時間ほど一行はゆっくり進み、森の中ほどにある美しい湖に着いた。

「ここで休憩いたしましょう。」


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