第83話 エリーとの対面

「えっ・・・」


リーフにキスしたカナシャの亡霊は寂し気に微笑んだ。

彼女の瞳は何か言いたそうに見えたが、まるで時間が切れたように消えてしまった。


「な、なんだったんだ、今の・・・」

茫然と立ちすくむリーフ。唇にはキスの感触がまだ残っている。

「ボク、幽霊とキスしたの?」


その時、リーフは体に異変を感じた。



「お待ちください、エリー姫!」

ブルーは速足で歩くエリーを止めようとしている。

エリーは数人の侍女と兵士を連れて、リーフのいる離れの塔に向かっていた。

「何を待つことがあるのです?わざわざこの私が、料理人に会うために出向いているのです。

それとも・・・私に合わせてはまずいわけでもおありですか?」


ブルーは返答できずにいた。リーフが今、エリーに見つかってしまえば、いかなる理由をつけてでもリーフを殺そうとするだろう。ましてや、自分が妻と望んだともなれば、この姫はどれほど怒り狂うか。


ブルーが人質になっていたツバサの国から、このヒョウガの国に帰る時も、残されたエリー姫は決してあきらめぬと叫んでいた。


リーフのことを、どれほどごまかせるものか・・・。ブルー王が考える間もなく、エリー姫は塔の入口に来てしまった。


「ここを開けなさい!」

扉を守っていたヒョウガの国の兵士に命令する。

「たかが料理人に、随分な待遇ですこと。」

姫はブルー王に冷たく言った。


扉が開かれる。


ろうそくが消え、暗くなった部屋には一つの小さな影があった。


侍女がその影に言った。


「こちらにいらっしゃるのはエリー姫です。早く来て、ご挨拶なさいませ!」



その影はワタワタしていたが、おずおずと近づいてきた。


「あの・・・ボク・・・こんな格好で・・・スミマセン・・・」


「!!!」驚くブルー王。


そこにいたのは、裸で、


男の子に戻ったリーフだった。


「これは・・・!」

思わず目を背けるエリー姫と侍女たち。「姫様の前で無礼であろう!」


「だってあの・・・ごめんなさい、いきなりだったし・・・」

困りきるリーフ。ベッドのシーツを剥ぎ取って体を隠そうとしたのだが、随分きっちりとマット部分に入れ込んであったので取れず、かろうじて枕で肝心な部分だけ隠すしかなかったのだ。


「これは一体なんなのです?!」

戸惑いを隠せないエリー姫。

ブルー王にとってもそれは予想外だった。


「わたしの奴隷です」

後ろに立っていたのはベイドだった。


「わたしは女よりも男に欲情するタイプでございまして・・・。そのように珍しい黒髪と黒い瞳に興味を持ち、西の奴隷市場より買ってまいりました。

しかも珍しいお菓子を作れる特技を持っておりましてな。良い買い物でした。」


ベイドはなるべく、下品に不快に話していた。


舌打ちするエリー姫。

「ベイドか。おぬしはかつて、ヒョウガの国の剣鬼と呼ばれた男であったろう。最近山籠もりをしたと噂になっていたのは、このようなことにうつつを抜かすためか。」

「左様で。」ニッと笑う。


「先ほどまで情事に励んでおりました・・・。」

グッとリーフを引き寄せる。


「ふん、もうよいわ。見苦しい・・・!」

エリー姫は足早に去っていった。

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