第23話 恐怖の夜

 

さて、リーフは一生懸命逃げる方法を探していた。


紫の壺から出るのはお菓子の材料ばかりで、落ち着くけど役には立たない。



「あのおっさんめ~。今度会ったらおぼえてやがれ~」

すでに神様という認識はなくなっている。



この部屋の窓は高い所に、小さいものが一つしかなく、しかも鉄格子がはめてある。


どうにかそこから出られたとしても、向こう側は海だろう。

崖に打ち付ける波の音からして、随分荒波のようだ。


最終的にリーフは隠れることにした。すぐ見つかりそうだが、ベッドの下に、である。

やらないよりマシだと思ったから。


ゴソゴソと鉄のベッドの下に潜り込む。鉄のさびた匂いと、かび臭い匂いがした。


数分後。




ガコン



部屋の鍵が開けられる。



「こちらでございます。」  スカーレットの声。

足音は二つ。もう一つはマーリン王子。


「あっ」  リーフがいない、そして隠れていることに気付くスカーレット。


「申し訳ありません、すぐ・・・」


「よい。お前はさがっていろ」


それはマーリンの声だが、リーフを馬に乗せて「あったかいね」と言った時とは別人のように冷たい感じがした。



ガチャン


カツカツ・・・・・



スカーレットが去っていく。


リーフの心臓は張り裂けそうだった。張り裂けて心臓が口から出そうだ。

でも、もしかしたら見つからないかも、見つかってもそんなにひどいことはされないかも、という望みが捨てきれていなかった。



ベッドの下から見える王子の足は、部屋をぐるりと一周して、リーフが潜り込んでいる辺りでピタリと止まった。


「出てこい」


冷ややかな声。


恐ろしくて返事ができないリーフ。


ジリッ・・・っと少し後ろに下がる。すると、何かが手に当たった。見ると・・・それは・・・




切り落とされた人間の指だった。




「うわあああああーーーーー!!」


リーフは思わずベッドの下から這いだした。


目の前にはマーリン王子がいた、と思った次の瞬間、リーフは部屋の隅に吹き飛ばされた。


バンッ  体全体が壁に激突する。


何が起こったのか理解できなかったが、口に広がってきた血の味と激しい痛みで分かってきた。


リーフはマーリン王子にイキナリ殴り飛ばされたのだ。



銀髪の王子は冷たく美しい微笑みをリーフに向けた。



リーフが何とか立ち上がり、よろけながらも逃げようとしているところを、王子は髪を掴んでベッドに叩き付けた。


細い棒のようなもので2度3度リーフを殴りつける。


ピッと皮膚が切れて、王子の顔にリーフの血が飛んだ。


「やめてください、ボクの話を聞てください・・・!」


シャレにならない恐怖と闘いながら、やっとのことでリーフがしゃべる。




「もうなにもしゃべらなくていい・・・真実なぞ無用だ」



王子は無表情のまま馬乗りになり、リーフの首を絞めた。「えっ」


どんどん手に込めた力が強くなる。



「今夜はお前の命を楽しむことに決めた。」



(ボク、殺されるの?!)意識が遠くなりかけたとき、首の手が離された。


ゲホッゲホッ  せき込むリーフ。




王子はリーフの腕の傷を見つけた。治りかけの生々しい傷を、思い切り掴む。


「いたいっ・・やめて・・・」また傷口が破れ、血が流れる。



血だらけになった王子の手のひらは、そのままリーフの胸を掴んだ。

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