第29話 寧ろ発狂しない方がオカシイ




「それで?高らかに宣言するのは別段にどうでも良いのですが……、一体全体どうするつもりですか?」


「決まっているわよ!滅茶苦茶にこのサンクチュアリを破壊するの!ついでにバフォメットの奴を全力で狩るわ!」


「いや、綾乃ちゃん!そこまでは皆も分かっているから!」


「オイッ!」とすかさずツッコミを入れる桜さん。

 対し、綾乃さんは喜劇でも観ているかのように口角を歪めた。


「よくぞ、訊いてくれた!我が半身!

 まず、この霧の元凶から見つけるわ!何かの装置とかで、この霧を作りだしているはずよ!」


「クックク……」と笑う綾乃さん。

 その一対の瞳には唐紅からくれないの炎が釜のようにグツグツ。と煮えたぎっていた。

 あぁ……、君は最早、度し難いほどの狂人なのだね?


「発想が豊かで何よりです」


 が、僕の心はどこまでも冷え切っていた。

 だって、悪魔だとか、神秘だとか、未だ実感が足りないし。


 その言葉が癇に障ったのか、綾乃さんは唐紅の髪をゆらり。と熱のようにたぎらせた。


「じゃあ、イツカ?――あんたはこの霧の元凶を何だと考えているの?」


「分からないから――謎なのでしょう?」


「だ・か・ら!その謎の元凶は何だと、考えているのよ!?」


「さぁ……?」


「さぁ……?って……」


 綾乃さんはゲンナリと両肩を落とした。


「でも、あくまでも憶測ですが、呪いの類ではないでしょうか?」


 綾乃さんの唐紅の眼がピカリ。と輝きを増す。


「その憶測に至った経緯を教えて頂戴」


「綾乃さんは『呪詛』という言葉をお知りですか?

 言葉はそのままの通り、『呪われた』等を指し示すのですが……。

 英語ではAccursedと呼ぶ忌み語です」


「まさか――ッ!」


「そのまさかだと僕は考えています」


 綾乃さんは思考にふけるように顎に手を添えると、ウンウン。と頷いた。


「なるほど、そう考えれば都合が行くわね?

 佐々木さんを攻撃できたのも……、この霧を操れることも納得ができるわ」


 呪詛とは実に都合が良い呪文である。

 相手を視えぬ内に攻撃できるのだから……。

 が、人を呪えば穴二つ。

 相手も何らかのダメージを受けているはずだ。

 まぁ、あくまでも僕の考えを骨子にするのであればの話しだけどさ?


「まさかだと想いますが、僕の憶測が採用されるわけじゃ、ありませんよね?」


「そのまさかだと想うよ?イツカ君?

 少なくとも、相手は超能力PSIの類や呪いを糧にしている。

 だって、邪神教を名乗るくらいだし、その程度のことは相手も認知しているはずだよ?

 それに敵の大将はバフォメット。

 魔法だって使えるかも知れない」


 桜さんは鷹のように眼を細めた。


「しかし、そう都合よく憶測が当たりますかね?」


「何事にも憶測は付き物だ。イツカ」


 佐々木さんがどこからともなくショットガンを取り出した。


「さ、佐々木さん!そのショットガンはどこから?」


「ん?どこからって言われてもなぁ……普通に取り出した、だけど?

 あぁ、ゴム弾だから安心しろ」


「そういう問題では!?」


 そんな僕を無視して彼女らは支度の準備を始めた。


「あぁ!イツカ、ほらサバイバルナイフ」


 サバイバルナイフが孤を描き僕へと飛来する。

 それを掠め取るように僕はサバイバルナイフを受け取った。


「ちゅーか?本当に行くつもりなの?撤退しない?」


「今更、何、怖気ついているのよ?」


「いや、怖気づくというか、何というか、この霧の深さじゃ、何も視えないし……」


「普通だったら撤退しているわよ?」


「ですよねー。って何故、撤退しない!」


「何故って言われても、この霧の深さじゃ救援ヘリがやって来られないでしょう?

 自力で乗り越えるしかないのよ」


「あ、そうでした」


 すると、綾乃さんは無線をした耳へと手を掛けた。


「あーこちら、神成綾乃。指示を求める」


 何やら無線の奥の人と会話しているようだ。


「了解。オペレーション・アタランテを開始する」


 綾乃さんは頷くと、全員を見渡した。


「ミッションが始まるよ?イツカ君。遅れは取らないでね!」


「イツカ。ここから先は戦場だ。気を付けろよ?」


「……はい」


「さて、全員の指揮も高まったみたいだし、霧の奥へと進みましょうか?」


 僕たちは霧の中を歩き出した。


 ねぇ?これが――普通なのかな?



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