第22話 ユー・ハンテッド!
――というわけである。
めでたし、めでたし。
「――何が、めでたいのだ?」
彼女はジトーと僕の横顔を見つめた。
イヤン!そんなに見られちゃ、恥ずかしくなっちゃう!
「……ビッグフットの討伐も完了し、カムイの奴も無事で良かった。……が、イツカ?貴様の突拍子もないあの動きにはさぞ驚かされたぞ?
それに、何だ?あの品のない技は?あんな攻撃の仕方を教えた覚えはないぞ?」
「そ、それは……、ほら、ゲームとかで覚えたんですよ!」
「……げーむ?」
「……ほえ?こっちの世界にはゲームはなかったんだっけ?」
「イツカ!貴様は何を知っている!?いい加減に吐け!」
彼女は僕の両肩をガクンガクン。と揺さぶった。
それだけで揺れる僕はまるで操り人形の如し。
「……ししょう?」
「――何だ?」
「……えへへ。……何だか、眠たくなってきました」
「――ええい!そんなに柔に、貴様を育てた覚えはないぞ!
ここでまた『意識』を失えば、また、私の損ではないか!」
彼女が僕の頬を叩く。
「――ブベッ!」
「起きろ!ええい!起きんか!」
彼女は無情にも僕の頬をペチペチと叩き続けた。
そのせいか、自然と浮上する意識に、僕は逆に鮮明を覚えた。
「――起きています!起きていますって!」
「――よろしい!……それで、げーむ?とは一体、何なのだ?」
彼女には当然、伝えている。
僕はもう一つの世界の記憶を携えていること。
そして、度々、意識を失う疾患について悩まされていること。
彼女は言った。
『……ほう。貴様、随分と
『僕も好き好んで、こんな疾患に
『だが、二重に記憶を抱えているとは実に面白いではないか?そんな実例、見たことがない!』
君は咲いたように微笑んでいたね?
そんなことを今でも僕は憶えている。
「……そうですね?ゲームとは――」
「――うむ」
彼女がゴクリ。と喉を唸らす。
「――遊びの一種です」
「……あっそ」
「何か、反応が薄くない!?」
彼女の光彩から光が消えた。
それは、まるで泡沫の末に溺れていくようであった。
「当たり前だ。遊びなんぞ興味はない。あるのは、この世界の秘密――根源だ!」
僕は呆れたように口角を歪めた。
「……師匠?あんたは
「――なにおう!」
彼女は食ってかかるように僕の頬を摘んだ。
「イタタッ!」
「――イツカ!私はかつて、大いにモテたのだぞ!?それこそ、かの“アルフレッド”さえ、私に告白したものだ!」
――アルフレッド。
魔王討伐のパーティーを務めていた――勇者様のお名前だ。
ちなみに、彼の種族は人間である。
「止めて!勇者様のイメージが崩れるから!」
僕は途端に泣きたくなった。
だって、見ず知らずの場所で自身の恋愛話が暴露されているとしたら?
僕だったら――死にたくなるね。
「構うものか!奴め!私を見捨てて、“マリア”の奴と結婚しやがった!」
――マリア。
魔王討伐のパーティーに属していた聖女の名前である。
ちなみに、彼女の種族はエルフである。
「離婚してまえ!」
「師匠!惨めですよ!」
「惨めでも構わん!私は奴らを決して許しはしない!」
まこと、人の嫉妬とは醜いものである。
まぁ、勇者様とアイリスが結婚してなかったおかげで僕はここにいるのだが……。
そこは素直に感謝するとしよう。
「何故、僕と結婚してくれないのですか?こんなにもアプローチをしているのに……」
瞬間、彼女の顔が爆ぜた。
「そ、それは……、超えてはならぬ一線があるからな……」
「何故、頬を赤らめる必要がある!」
「イツカ……!よもや、私はまたも
「いや、違うから!」
夜中は湖畔のように透き通り、辺りに静寂をもたらす。
だからこそ――。
「――うるさいぞ」
突如――部屋の扉がドンドン。とノックされた。
「――何奴?」
彼女がゆらりと扉へと牙を剥く。
「――俺だ」
そこには――見上げるような鎧をまとったカムイさんが泰然と両腕を組んでいた。
「……何だ。……カムイか」
「何だとは何だ?金色の稲妻」
「こんな時間帯にどうしたんですか?カムイさん?」
「俺の部屋はお前たちの隣なんだ」
……あ!偶然ってスゲー。
「流石に目に余るから注意しにきた」
「むぅー。少しぐらい良いではないか!そうだ!カムイ、貴様も混ざれ!」
「俺に選択権は――」
「――いいか?私の命令は絶対だ!」
「酔っているのか?それともイカれているのか?金色の稲妻?」
カムイさんは呆れたように両肩を竦めた。
そんなカムイさんの手を引っ張るアイリス。
「いや、師匠は自分に酔っているだけですよ?」
「失礼な!元からだ!」
カムイさんを部屋に招き入れると彼女は満足そうに呼吸を吐いた。
「それでは、しりとりを始める!よいな!」
「えぇ……」
「やはり、金色の稲妻は噂に訊くよりも、その中身は相当イカれているらしい……」
こうして、僕たちの夜明けは過ぎていく。
まるで、奇跡のように描かれた日常は二度と戻れぬ警句のようであった。
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