2部
第8話 浮上する意識
目が覚めると、校舎裏にいた。
「――ほえ?」
どうやら、僕はまた例の夢とやらと
どうして、僕はいつも“彼女”と出会うのだろうか?
てんで意味が分からない。
その
「――起きたか」
ふと、隣から声が掛かる。
僕はそんな声色に導かれるがまま、その視線の先を持ち上げた。
そこには何と、いじめっ子グループのリーダー格である浦松君が
僕は途端に跳ね起きると、彼から距離を取った。
「――どうして、君が……!何があった!」
「――安心しろ。俺たちは手を出しちゃいない」
「そんな言葉を信用できるとでも!?」
彼は
その制服はズタボロ。
おまけに傷だらけ。
喧嘩でも勃発したのだろうか?
「――信用するも何も……、俺たちはお前にやられた」
「――ほえ?」
「周りを見てみろ」
僕は意識を研ぎ澄ませると、辺りを鷹のように見渡した。
所々に
そして――何よりも、その足元には堤下君と中山君がぐったり。と伸びていた。
「――少しは信じるつもりになったか?」
「――ぼ、僕がこれ、を……?」
「覚えていないのか?」
「お、覚えていな……、い」
「変わった奴だな?まぁ、良い。だったら、俺たちにも好都合だ」
「――どこが!?君の身体もボロボロ。じゃないか!?
すぐに、保健室に行かなきゃ!?」
「構わない。俺は独りで行く」
「つ、付き添うよ!」
「要らない」
「怪我人を放っておく程、僕は人間を止めたつもりじゃないよ!」
「要らない」
彼はあくまでも
「どのみち、誰かに視られたりしたら、俺たちは停学か、退学処分だったからな。
お前が視てないなら、証拠は
だったら、俺は独りで保健室に行く」
「た、高野さんはどうしたの!?」
「愛梨か?アイツは
それに、アイツもアイツなりにお前に責任を感じているはずだ。
そうやすやすと口は割らないだろう」
「で、でも!僕がボコしたという証拠が残るかも知れないじゃないか!」
「それは、日々の日常ということで打ち消しにしてくれ。
俺たちはこれ以上、お前に手出しすることはない。
もう、『喧嘩番長』の称号もいらないな」
浦松君はクスッ。と口角を歪めると、背中を向けた。
「――ちょ、ちょっと待ってよ!全然、意味が分からないから!」
浦松君は伸びた二人を置いて、孤独に毒を吐くように去って行った。
残された僕たちは夏蝉の残響を噛み締めていた。
◆◇◆◇◆
あの後、気絶した堤下君と中山君を抱えて、僕は保健室へと駆け込んだ。
「――先生!大変なんです!」
どうやら、二人とも軽傷で済んだらしい。
僕の怪我も大したことはなかった。
「――よ、よかった~」
これで、一息吐ける。
あぁ……、因みに、いじめはなかったことにされた。
友人同士の喧嘩の範疇で丸く収められた。
何か、納得がいかないや。
友人でもないのに……。
この機会を使って、今までの悪事をさらけ出してやろうとも考えた。
しかし、『報復』が怖かった。
相手は、暴力団の跡取り、“
抜け抜けと安心することはできない。
だから、悔しくてもこの案件は飲み込む他なかった。
家族まで、巻き込めば――僕は死にたくなる。
「――さてと、自宅へと戻りますかね?」
僕は始末書をまとめると、それを担任へと提出した。
全く、今日は授業、所ではなかったよ。
一日中、別室で始末書を書かされていたからね。
いやはや、大変だった。
「――とは、言っても、また独りか……」
僕は『
誰一人としていないのだ。
究極のボッチ、ここに完全に極まり。
自宅に戻っても――やることは決まっている。
――ゲームだ。
後はそうだね?
独り暮らしが故に、料理を作ることかな?
「あぁ……!そうだった……!
買い物をしなくちゃ……!」
僕は下校帰り、最寄りのスーパー・マーケットへと立ち寄った。
「流石に、この時間帯となると、仕事終わりの人が多いな」
くたびれたスーツを纏ったサラリーマン、頑固そうな主婦、それに、店内をウキウキ。と走り回る子供たち。
咽返るような熱気の中、僕はうんざりとしていた。
夏だから、当然暑いし、何よりもこの人混み。
――だから、人間は嫌いだ。
人は勝手に傷つけ合い、その
これ以上の人口は必要ない。
そう想うのは、僕だけだろうか?
この世に生を受けてからというもの、人の悪意に晒され続けた“僕”という独りの人間。
容姿が悪いから、他人よりもずっとオカシイから、という理由だけで苦痛を与えられ続けた。
――生まれるべきではなかった。
そうだ。
生まれるべきではなかったのだ。
そりゃ、小さい頃は幸せだったよ?
だって、家族という
しかし、外界というものは最悪だ。
そんな理想まで、呆気なく打ち壊してしまうだから……。
人間は生まれた瞬間から――孤独だ。
誰も助けてはくれない。
救ってはくれない。
とどのつまり、他人を理解しても時間の無駄だ。
――“彼女”は言った。
『イツカ?無駄なことなどこの世にはない。
必ず、生物には運命というモノが与えられているはずだ』
当然、受け入れることはできなかった。
僕は身を以てして、その運命の理不尽さを体験してきたからだ。
『――師匠?では、
『運命――とは、一言で『神の見えざる手』だ。
我々はその掌の中を操り人形のように動かされているに過ぎん』
『僕たちはそれを乗り越えることはできないのですか?』
『少しでも、運命に抗いたかったら、行動するしかない。
私もかつては小さな農村で生まれ育った農民に過ぎなかった。
しかし、魔王が誕生し、私は初めて運命に抗ったのだ。
当時の私がいなければ、現在の私は存在しないだろう』
その行動一つで世界は変わる。
だったら、今日の僕は一つの目的を達成したのではないだろうか?
『いじめ』という一つの物事に蹴りを付けてきたのではないだろうか?
少なくとも、一つ。
僕は
「えぇ~と……、とりあえず、お肉が食べたいな……」
僕は想い出したかのように精肉売場へと向かった。
そして、爛れるような挽き肉を手に伸ばしたはずだった。
「「――ほえ?」」
誰かの手と重なってしまったようだ。
僕は
すると、そこには――頬を恥ずかし気に朱に染める美少女さんがぽつり。
栗色のショートヘアに、少女漫画のように愛らしい顔立ち。
まるで絵本の中から飛び出してきそうな美少女さんが――立ちぼうけを食らっていた。
「――す、すいましぇん!」
僕はとっさに頭をさげた。
対し、彼女も急いで頭をさげる。
「――こ、こちらこそ!すいません!」
しばしの
僕は
「――あ、あのぅ……!先、どうぞ……?」
美少女さんは咲いたヒマワリのような笑みを浮かべると、もう一度一礼した。
「――あ、ありがとうございます……!」
そう言い残し、二度頭をさげ、去って行った。
「――と、とりあえず、任務完了……!」
僕は一通りの食材をかき集めると、「――うん!」と頷いた。
しっかし、さっきの美少女さんは何者だったのだろうか?
あんなにも可愛らしい顔立ちだ。
もしかしすると、モデルさんだったのかも知れない。
「まぁ、いっか……?」
僕は溢れるようなカゴをレジへと置いた。
「――いらっしゃいませ~。
袋はお入れしますか?」
「えぇ……と、お願いします……!」
「有料ですが、宜しいですか?」
「はい……!」
「お会計が、2842円になります」
「3000円からお願いします……!」
「かしこまりました。では、丁度3000円、お預かりします」
店員さんは慣れた手付きで精算を開始する。
「158円のお返しです」
「ありがとう、ございます……!」
「ありがとう、ございました~」
僕の日常は過ぎていく。
しかし、もう二度とは戻れない。
ある意味でそれは、
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