オーク領
旧時代から存在しているであろう割れたアスファルトは、それでも補修が為されていた。
暴走機械の巣である廃都市群はかっては工業都市であり、様々な材料が今も海の向こうから運び込まれて
そんな廃都市群に近いことから材料を奪い、ついでで補修をしてみせたのだろう。
醜いとされる種、オーク。 老若男女を問わずに恵まれた体格を持ち、緑色の肌と、牙を持った戦闘種族、オーク。彼等は優秀な戦士であるとともに、優秀な技術者としての側面も持って居た。
ペーハーの偏りがイカレタ生態系を生み出し、人の形を真似た様な水棲昆虫が闊歩する川は暴走機械ですら渡ることを嫌がることから、ソレを堀の代わりにすることで成り立った城塞都市。補強されたビルの群を眺めると、どうにも溜息が出てくるのを止められない。
足元にSGを、ゴブルバーを下ろし、タクティカルベストも脱いで、手を空に向ける。
元気を分けて欲しいわけでは無い。撃たないで欲しい。それだけだ。
だが、そんなささやかなケイジの願いは叶えられることなく、一歩先の地面が爆ぜた。
かって人がその頑強な体を奴隷として使っていた歴史から敵対関係となって居る以上、のこのことやって来た人――人間であるケイジに差し出されるのはウエルカムの花束では無く、オーク・スナイパーの研ぎ澄まされた一撃がお似合いだ。
――嫌になんな。
肩を竦めるケイジ。だが、まぁ、威嚇の狙撃だ。当てるつもりなら当てられる。でもそうしなかった。だから取り敢えず直ぐに殺されることはねぇな。ぼんやりとそんなことを考えた。
それを裏付ける様に橋の先の門が開き、三匹のオークが出てくる。三匹ともAK。見覚えは――ありそうでない。鹵獲品のコピーからのオリジナル。既に人の文化ではなく、オークの文化で造られたモノだろう。
一匹の腰には剣がある。使うのかどうかは分からないが、ソイツが中心に立っていることからもお偉いさんだろう。そんな当たりを付ける。
「……」
眉間がヒリヒリする。スナイパーの殺気だ。ソレを感じられる様になったと言うのはせいちょうだ。恐らく今のケイジならスナイパーの一撃を躱せる。そして躱した瞬間に三匹のオークさんにAKでハチの巣にされるのだ。
世知辛い。
思わず、へ、と笑った。
「何故笑う?」
そんなケイジへのオークからの問い掛け。どうやらリーダーさんはこちらの言葉が話せるらしい。他がふぎぷぎ言ってる中、下手をすればガララよりも流暢だった。
「何でもねぇよ、ミスター。取り敢えずアレかい? 話は聞いてくれるつー流れでケー?」
「……けー?」
「……オーケー?」
「あぁ、なるほど……そうだ。オーケーだ」
そらありがとどーも。
言ってケイジが手を下ろそうとすると――下がっていた銃口がちゃっ、と上がった。
「……ヘィ?」
「話は聞く。手は下ろすな」
「そうかい。上げっぱで腕がつれぇ所だがこれから仲間になる相手だと思うと頼もしさにどうにかなっちまいそうだぜ、
「……仲間?」
何を言っているんだ? と小首を傾げるリーダーオーク。こちらの会話が理解できていない取り巻きオーク二匹はそのリーダーの動作に過敏に反応している。「……」。ケイジは無言で半笑いを浮かべた。ビビって誤射とか勘弁して欲しい。
一息。
それでその焦りと背中の冷たい汗を引っ込める。余裕を見せる。
「オルドムング教団の雇われだ。お姫様一丁、届けに来たぜ?」
受領印とか貰いたいんだけど? と笑ってみせた。
橋の所まで装甲車を引っ張って来た。
運転手であるカワセミを残し、リコを横に立たせて確認できるようにする。狙撃が怖い。だがリコの呪印ならあがりを迎えた狙撃手のモノでも一発程度ならどうにか耐えられるだろう。一発。そう、一発だ。
「ま、ソイツは無理だな」
「ケイジ?」
「何でもねぇ」
気にすんな、とガララに言いながら、武装解除状態のケイジが前に出る。向こう側にはさきほどのリーダーオークに加え、オルドムング教団の教団員と思われるダークエルフが居る。
こちらを――と、言うかリコを双眼鏡で確認したあと、リーダーオークに何かを言っているのが見えた。「……」。軽く、唇を湿らせる。あの教団員が反戦派でリコを偽聖女とでも言えば開戦だ。既に仄火皇国のキツネと言う前例がある以上、教団=味方と思えるような幸せな考えが出来るあったかめの脳ミソをケイジは持って居ない。
恐らく、十秒にも満たない。
そんな短いやり取りだったが、やたらと長く感じられてしまった。緊張からだろう。それでも向けられた銃口は仕事をせず、リコも狙撃されることは無かった。
「確認が取れた」
リコを出迎える準備を進める教団員たちに先駆けてリーダーオークがケイジ達に話しかけて来た。後ろの部下の手には先程拾い上げたケイジの武装がある。もう身に付けても良い。それ位の信頼は確保できたらしい。「どーも」と軽く言いながら、ガンベルト、タクティカルベストを身に付け、SGに弾倉を叩き込む。ガララとヒスイも同じように足元に落としておいた武装を装備して行く。それが終わるのを待ってリーダーオークは部下に「おい」と声を掛けた。
一歩、一人の部下が前に出る。
先程橋の警備に付いていた奴とは別オークだろう。ケイジは耳飾りを見て、そう判断した。体格も良い。それと腰に斧を付けている。細工はされていない。実戦用の、血を吸ったモノだ。
「通訳と案内を付ける、クルイだ」
「……」
ぬっ、と紹介を受けたオークがケイジの前に来た。「よろし――」「よろしく」。ケイジの挨拶に合わせての挨拶。身長差から叩きつけられるヘッドバット。不意打ちにケイジが踏鞴を踏み、想像以上の硬さにクルイがくわん、と頭を揺らす。
「……おい、コラ。今のは何だ? 答えな、ディッキー。今のは
「私は挨拶をしただけだ、人間。
「……別に。それよかふらついてんな」
挨拶した位でふらつくとか病弱か? とケイジ。
「……そちらこそ下がっているようだが、どうした? 私に恐怖したのか?」
それならすまないとクルイ。
まぁ、開拓者らしい挨拶と言えば、挨拶だ。
だが、ひ弱な人を笑ってやろうとしたオーク側だったが、思ったよりもケイジが丈夫だったので少し拙い流れになって来ている。下だと思って居た相手に噛み付かれるとムキになる奴も居る。クルイはそのタイプらしい。
そしてケイジも引く気は無い。
「……」
仕方がないので、ガララが動いた。一歩。緩やかに。一歩。柔らかく。一歩。蛇の様に音も無く手が動く。
雑なケイジは気が付かない。頭に血が昇っているクルイも、闘争の気配にわくわくしている他の同僚オークもだ。ただ、ガララと同業のヒスイと、遠くから見ていたリーダーオークは気が付き、ほぅ、と溜息を吐いた。
ブレるガララの右手。一瞬の後、そこにはクルイが腰に下げていた斧があった。そこでギャラリーの何人かが気が付き、ふごふごと肘で突きあっていた。
「失礼をする。この斧は貴方のモノ?」
――オウコラどこ中だテメェ? 年下だったら許さねぇぞ?
そんなテンションで睨み合うケイジとクルイの間に言葉を投げるガララ。
「? !」
その言葉を受けたクルイが腰を確認する。そして何かを言うよりも早く「返すね」とガララが地面に斧を投げた。慌てて拾おうとするクルイ。そこに――
「初めまして」
出迎える様にガララのヘッドバット。潰れた様な鼻を更に潰し、クルイが下がる。ざわっ、と殺気立つギャラリー、目を丸くするケイジ。そんな中、ガララは尻餅を付いたクルイに向かい――
「挨拶だよ」
言いながらコイコイ、と手を動かして見せた。
「――上等だ」
起き上がり、殴りかかるクルイ。それに合わせられるカウンターが顎を打ち抜く。脱ぎ捨てられるタクティカルベストに、捨てられる武器。クルイが野戦服を破り、その鍛えられた肉体を日の下に晒せば、ぴゅー、と指笛の賞賛が浴びせられた。
ボクシングと言うにはあまりに野蛮な殴り合い。それが始まった。見れば都市側から何人かのオークが出て来ていた。楽しそうだ。
「我らは強者を好む」
何時の間にか、横に立っていたリーダーオークの言葉に、ケイジは軽く、肩を落とす。
「挨拶は仕込みか?」
「ソレもあるが、まぁ、他種族相手の一般的なものだ――お前が出ると思って居た」
「病弱でね」
心配性の相棒が出てくれて楽が出来るぜ、とケイジ。
「彼の名前は?」
「ガララ」
「そうか。――ガララぁ!」
リーダーが叫ぶ。讃える様に、行けと言う様に、叫ぶ。
「ガルぁ?」「ふんぐ。ガラァラァー」「ガラァラァ?」「ガラァラァ!」
それが自分達の代表と殴り合っているリザードマンの名前だと伝わったのだろう。少し変な発音で沸き起こるガラァラァコールの中、ガララの変則ジャンピングソバットがクルイを吹き飛ばしていた。
あとがき
今年もツ○ヤのPS4福袋を買ったらディビジョン2が入ってました。
もう持ってる!!
まぁ、ビルダーズ2が入ってたから良しとします。
そんな訳で、あけました。
今年もよろしくお願いします。
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