かぼちゃ

今日は二話同時更新(2/2)





 覚醒は浮上すると言うよりもピントが合う様にして行われた。

 ぼんやりと見ていた世界の輪郭がはっきりとしていくにつれてケイジの意識もはっきりとしてきた。「……」。それでもまだぼんやりとした頭で色々と確認をする。上着が脱がされ、Tシャツが変えられている。そうして装甲車の後部にて毛布の山に転がされているという現状を自覚すれば自ずと何があったのか分かると言うものだ。

 振動は無い。窓から覗く空の色は薄墨を溶かしたように茜色と黒が混じってぼんやりしていた。夜では無い。夕方でもない。その境目だ。黄昏時。日が沈み、茜色の残滓が夜を照らす視界の悪い時間帯だ。

 運転手のカワセミはその視界の悪さを嫌って思い切って休憩に踏み切ったのだろう。美味そうな匂いがケイジの鼻孔をくすぐった。

 こん、と音。食事を摂る必要が無いから見張りに付いていたのだろう。見れば窓の向こうで逆さまになったレサトが鋏をくぃ、っとやっていた。よ! と言う感じだ。ケイジも人差し指と中指を揃えてこめかみに当て、ぴっ、と振って返事をしてやった。

 相手にして貰えたから満足したのか、左程ケイジと遊ぶ気が無かったのか、レサトはそれであっさりと天井に戻って行った。


「……起きるかな」


 腹を撫でながらケイジ。空腹と言うのもあるが、血を流し過ぎた。食わねばならぬ。ならぬのだ! ……まぁ、単純に外から良い匂いがするからと言うのも無いではない。

 起き上がり、ベルトを締めなおす。SGを……持って行くのは面倒だったので、ゴブルバーをガンホルダーに納めるだけで済ましておいた。

 装甲車から降りると、火を囲んでいたジェィド兄妹とガララ、リコが見えた。ドアが開く音で察していたのだろう。ガララが椅子を開けて席を作ってくれていた。


「まだ食ってるみてぇなのに、わりぃね」

「それは構わない。それより……」


 身体で隠しながら、ガララの拳がケイジの胸を叩く。大丈夫なの? そう言うことだろう。クスリを使っての覚醒後、血を吐いたのは今回が初めてだ。事情を知らないジェィドや、ここの所一緒に居なかったリコ相手ならば切り札を切った反動だ、で誤魔化せるがガララは無理だ。切り札が負担にはなっても、血を吐くことが無いことを知っている。


「……」


 それでも数秒、ケイジは誤魔化す為の言葉を探した。「ケイジ」。レッドアイズ氏族。その証であるガララの赤い目が鈍く光っていた。無理か。まぁ、無理だな。肩を竦める。


「ヤァ。お察しの通りだ、少しまじぃ。思ったよりもボロボロだ」

「目的地がオーク領って言うのは良かったのかもしれないね」

「全くだ」

「それじゃぁ辿り着く為の交渉をよろしく」

「あン?」


 どう言うこった? とケイジ。それに「病み上がりで申し訳ないのだけど、ガララは口が余り回らないから」と前置きして、く、と顎でガララが指し示す先には――


「ヨォ、調子が良さそうで何よりだ」


 ドレッドヘアのダークエルフが居た。






「ケイジくん血、足りないよね?」


 とリコが用意してくれたのはレバニラのニラ抜きだった。つまりはレバーオンリーだ。昨日仕留めたミノさん達のモノだろう。ケイジは、レバーのことは嫌いでは無いけど、オンリーでコレだけ量があるとなるとシンプルに辛い。それでも血を作るのには肉だ。盛られた肉を掻き込むにして食べて、水分補給の為のトマトを齧って一息つく。それで一応、腹の虫は満足してくれた。さて――


「予想は付いちゃいるがよ、誤解があると良くねぇ。……今後の予定を教えちゃくれねぇか、ドライバー?」


 空になった皿をリコに手渡し、トマトの汁でべちょべちょになった右手をTシャツで拭う。黒いTシャツなので左程目立たないのが救いではあるが、行儀は良くない。


「……」


 そんなケイジをちらりと見て、カワセミは煙草を吹かす。たっぷりと吸い込んだ煙を、ゆっくりと美味そうに吐き出してから――


「安心しな、近くの街まで送るさ」


 言葉を吐き出した。「……」。それに言い返す為の言葉を探す様にケイジが頭を掻く。出てこない。まぁ、そうだよな。そんな納得が先に出て来た。当初の輸送ポイントまで荷物は運んだ。先方の身内トラブルで荷物の受け取りを拒否された以上、再配送サービスの対象外と言う奴なのだろう。


「……逃がし屋が荷物を捨てるのは無し・・だろ?」

「料金分の仕事・・はした。お前と神父がしていた話と同じさ、ジャック。仕事の話・・・・だ」

「オーケイ。そんなら話が楽だ。俺のポケットマネーくれぇ崩してやるよ」

「返事はこうだ。受けない。リスクが高すぎるからな」

「へーぃ、そいつぁ……弱音かい?」


 テメェが食ってんのはビーフだぜ、カワセミさんよ、とケイジ。


「そうさ、弱音さ。悪いか?」

「悪かねぇがリアクションには困んな。そう言うのはベッドの中まで取っとくもんだぜ? それともアレか? 俺に優しくして欲しいっーアピールか? だったらわりぃな。鍛えてるから胸囲はあるが、カップはねぇ」


 悲しいことに貧乳さ、とケイジ。


「女に甘えるのに使う為に……ってか? 生憎と母性があるタイプは好みじゃなくてな」

「ヤァ。女の趣味が合わなくて残念だ。そんでも女の趣味が合わねぇってことは仲良く出来るってことだ。そうは思わねぇか、カワセミ?」

「なるほど。兄弟・・になる心配もねぇしな」


 くくく、と笑うカワセミ。


「だがノーだ」


 そして表情を瞬時に切り替える。


「オーク領に行くか? 行ってどうする? 向こうでも揉めてないなんて保証はない。今回はまだ一応、人間側だから逃げられた。だがオークの土地から逃げられるか? 答えは分かるだろ? 王子様プリンス?」

「ヤァ。ソレだ。まさにソレだよ、ロリコン野郎。アイツ等が襲い掛かって来たのは俺が皇子サマだからだ。担いでる神輿が変わるのを嫌った。そうして自ら汚名を被った忠臣連中さ。素敵だとは思わねぇか?」

「クソ喰らえさ」

「悲しいね。ヤクザムービーとか見ないタイプかぃ?」

「義理も人情も飯には成らんよ、ジャック」

「それには同意するぜ。世知辛いが、金に成るのは――」


 ――失態だ。


 低く、ケイジは言って、にやにやと笑う。笑って折り畳み椅子の金属部分をコンコンと叩く。音で神経を削る。音で耳を集める。思考を誘導する。


「……」


 ケイジが何を言いたいかを理解したカワセミは嫌そうに黙った。指で挟んだ煙草が短くなり、長くなった灰が重さに負けて落ちる。それで漸く意識を戻したカワセミは煙草を捨てて、爪先で踏み潰した。


「テメェも開拓者だろ? 弱みを見せた獣をどう・・するかなんざ基本中の基本だ。分かんだろ? なぁ、おい、分かんだろ・・・・・?」

「手負いの獣に下手に手を出せば噛まれるぞ?」

「殺して奪うには良い理由じゃねぇか。失態を演じた馬鹿をタネに金を、そして土地をだ、ダークエルフ、穴倉の住人さんよ。素敵な話じゃねぇかよ、えぇ?」

「……悪魔の囁きにしか聞こえないよ、ジャック」


 苦笑いを浮かべるカワセミ。


「ヤァ。お褒めに授かり光栄だ。嘘を吐くのは天使で、本当のことを言うのが悪魔だってのが常識だからな」


 だからケイジは笑った。悪魔の様に笑った。火を点けた欲に酸素を送り込む為に笑った。


「……ジャック・オ・ランタンを気取るか」

「そんな所さ。上手く騙して使いな、ミスター。そうすりゃ俺等はかぼちゃのランタンで道は照らすし、敵は焼く。テメェの仕事はかぼちゃの馬車でそんな照らされた道を渡ることさ」


 どうする? とケイジが手を差し出す。


「……」


 無言でその手が叩かれる。手の平にしびれるような痛み。ソレに肩を竦めるケイジが見たのは――


「お前らには分からんだろうがな、日の当たる土地と言うのは俺達ダークエルフにとっては宝なんだよ」

「そうかい。そんじゃ教団にも吹っ掛けて日当たりの良い一等地でも貰うと良い」

「あぁ、あぁ、そうするさ。BBQパーティには招待させて貰うぜ、ジャック」

「良いね。そんときゃ二足歩行じゃねぇ牛を持ってお邪魔させて貰うさ、ジェィド」







あとがき

仕事が落ちついた(諦めたともいう。つまりは年明けが、ががががが)


今年もクリスマス男子シングルでのメダルを目指してローストビーフ丼作成にチャレンジしました。

テストで作成した時、包丁の切れ味、料理の腕、根気、これらが足りなかったのでカツオのたたきみたいになりました。噛み切れねぇ!

仕方が無いのでステーキ丼にします。昨日からおろした玉ねぎに付け込んで柔らかくして置いたのさ!!


まぁ、それは置いといてあとがきでクリスマスネタをやってると言うことは、気が付けばこの作品も一周年過ぎているということです。

おかしいな? 一年で終わらせるつもりだったのにまだ連載してるぞ?

も、もうしばらくお付き合い下さいませー。

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