V.Sタカハシ 前
ガトリング持ちが来た。
重装甲の
ソレは
徹底的に上げた呪印の強度と、鎧への
「……」
つまり、言ってしまえば――ケイジには無理だ。
呪印深度は同等、若しくはあちらが上。やべぇな。こん、と何時もの調子で銃口で額を軽く小突く。冷静になる為のルーチンだ。額当てが無かったので、直で頭だった。いてぇ。そんな泣き言が漏れる。いや、やっている場合ではない。鋼鉄の右で屋台側面をぶち破り、空いた穴をタックルで破って転がる。
弾雨が屋台をジャンクに変えたのは次の瞬間だった。
屋台の店主がハチの巣になる。弾丸が当たった場所が爆ぜる様にして散って行く。人の原型は数秒で無くなった。
――ひゅう。
と、吹けない口笛を一つ。飛び出す様にして屋台から飛び出たケイジは
「……」
呪印深度と戦闘技能が噛み合ってねぇ。そんな感想。
――彫っただけの雑魚が。
悪態。吐き出したい。我慢。呼吸を乱してまで叩きつけなければいけない悪態ではない。
目を付けていたカバーに飛び込む。ダークエルフが出迎えてくれた。
ただし、死体で。
「!」
カバーの内側に潜り込んだ“蛇”の毒にやられたのだ。ケイジはそう“理解”した。した瞬間、咄嗟に顎を引いて首を守った。そこに腕が来た。良かった。内心での安堵。針か、締め技か。その二択だった。死体の状況から咄嗟、締め技と判断したが――確信と言えるものは無かった。つまりは運が良かっただけだ。
ガララも使う
肘鉄/同時/裏拳
二連撃を隙間なく繋げて一撃へ。出来た空間と意識の隙間にケイジの右が奔る。崩された
その匂い鼻からたっぷりと吸い込んだ。
――肺が膨らむ。
足が力強く地面を掴む。
――力みに血管が張る。
不安定な体制からケイジは無理矢理、背負い投げの要領で右手の先に突き刺さった死体を前方に放り投げた。
強化された身体能力はガララの、否。ガララでも不可能な芸当をケイジに許した。死体が高く飛ぶ。杭を頭から生やした死体が飛ぶ。跳ぶ先には
避ける必要な無い。
避けてはいけない。
ただの肉の塊だ。重さはある。速度は無い。両足で踏ん張って衝撃を堪え、継続しての銃撃が彼のやることだった。やらなかった。避けた。銃撃が途絶えた。強みのはずだった重い装甲が単なる重りに成り下がる。構え直す時間。数秒。
それはケイジが勝つには十分な時間だった。
と、軽い音。
ずっ、とその音からは想像もつかない重さ。
ガトリングの凶悪で、強大な銃口を踏みつけてケイジが立っていた。
「あ?」
思考の停止。間の抜けた声。そんなモノを出した時点で勝負はついて居る。手刀。ヘルムのスリットに叩き込む。そこには呪印の防御が薄い目が有った。知らんとばかりにそのまま突き刺し、機械の馬力で無理矢理指を閉じる。手刀から拳へ。変化した形がスリットを広げる。痛みで手放されたガトリングに乗っていたケイジが落ちて、手が抜けて、一瞬、目を貫かれた無残な顔が見えた。『あ』と口が開いている。殴る様にしてソコにゴブルバーを突っ込む。
「
「
引き金を引く。脳に穴が開いた。崩れる
「――平和な屋台村への襲撃とか許せねぇな」
周囲の視線をたっぷり集めて――
「っーわけで、正義の味方、バンデットマンの登場だ。間抜けを晒す悪い子は
嗤ってみせた。
注目を集めた。
それから数秒後に何人かのポケットが爆発するのだからガララは最高だ。ケイジへの怒りと、ガララからのプレゼントで一気に混乱しだすブラーゼン協同組合・
「……」
コレで良い。ある程度頭が回る奴がいりゃ、立て直せんだろ。そう思う。
戦いは数だと言う。
この状況、冷静になって動けば、その数も稼げる。突然襲撃して来たのはブラーゼン協同組合なのだ。上手く思考を誘導すれば、この場にいる客全員がブラーゼン協同組合と敵対する。言葉ではない。理でもない。大事なのは恐怖だ。付く方を間違えると『どうなるか』。ソレをシンプルに見せてやれば良い。だから――
「毎度毎度、はしゃぎ方が雑過ぎやしねぇか。なぁ、おい。どうなんだよ? ブラーゼン協同組合の皆様方?」
煽る様に。奔らせる為に。嗤いながら血濡れの右手と、銃を見せてやれば盤面は一気に黒駒優勢に早変わりだ。
目立った脅威だった
沈めた
巻き込まれない様にしている者は何もしない。
銃を握ることにした連中は強い方に付いた。
それだけだ。
「――先に、手を出したのは
あぁ、いやだいやだ。
身体全体でそんなことを言いながら、ケイジと面識のあるタカハシが気怠そうに前に出た。咥え煙草に火を点け、吸い込み、吐き出す。
「つまり、
「ヤァ。前にも言ったがよ、ソイツは
「それなら人生の先輩として俺が教えよう。組織同士のことだ、口を出すのは良くないぜ?」
「ヘイ、もしかして今のは笑うとこか? だったら編集ん時にソレ用のSEでも当てといてくれ。笑えねぇよ、ディックフェイス。組織同士の問題? はしゃいで、巻き込んどいて、ソレは無しだ」
「飛び込んで来たのは兄さんだ」
「テメェらんとこの下手糞が俺の晩飯の焼き鳥を吹き飛ばしたのがわりぃ」
「弁償をしよう」
「安心しな。
「……引く気は?」
「この登場でそのオチはねぇよ」
へ、と吐き捨てる様な笑いを零すケイジ。「……そうか」。と、心底嫌そうに言ってタカハシが煙草を落とし、ブーツの先でぐりぐりと踏み消す。
「それじゃ、仕方ない」
言って、タカハシが取るのは半身。心臓を隠す変則ファストドロウの構え。攻防一体バーンズ・スタイル。ふぅ、と肺に残った煙を絞る様に吐き出し、顔を上げる。テンガロンハットの下には中年の覇気の無い気怠い濁った瞳の代わりに、猛禽の眼。射抜く様にケイジを見た。
「やろうか、兄さん」
「
「良いや。ダメだ。付き合って貰う」
一息。タカハシが吸い込んだ息を腹で止めた。
「『偉大なる父祖に勝利を誓う』」
「――!」
芝居がかったセリフ。
聞いて、ぞわっ、と首に冷たさが奔った。
タカハシが何かを言っている。誰かに何かを言っている。それはケイジに向けられて居ない。誰かに向けられている。それが分かった。それが誰なのかが分からない。
「『勝利はここに、この胸に』」
それでも直観する。
言わせてはいけないと直感する。ゴブルバーの引き金を引く。六発。距離がある。当たらない。当たってもタフな男が考案した
「『勝利はここに、この指先に』」
舌打ち。走り出す。距離がある。間に合わない。それでも――
「『銃士の《ガンナー》タカハシが
同じ様に何かを感じていたガララが五日の様に背後からの一撃を加えていた。
うねる双頭の蛇をソコに見た。
蛇の牙は鼻と耳からタカハシに入って行く。
――入った。
『ケイジ、駄目だ。効いて居ない』
そして、ガララからの
鼻と耳に針を突っ込まれたタカハシが歩きだす。針が零れる様に落ちた。ノーダメージ。一瞬、ナナカマドが過る。だが直ぐに過去の二回の勝利が塗りつぶした。タカハシはただのエルフだ。血を流し、倒れて、死にかける。そう言う普通のエルフだ。ならば、それならば――
――これは何だ?
ガララの
味方に引き込んだ連中の銃撃がただ歩くタカハシに当り、ぽこぽこと軽い音を立てて落ちて行く。
何だ?/思考する
何なんだ?/思考をする
無敵。そんな言葉が過った。ソレは無理だ。有り得ない。そんなモノがあるなら全員、
「……」
まさか。
そう思って、カバーから立ち上がる。ブラーゼン協同組合の連中からの銃撃も来た。
ぽこぽこ落ちる。直ぐに何かを察した連中がケイジから狙いを外す。ケイジにとっては異常事態だが、連中にとってはそうでも無いらしい。つまり――
「……
ケイジは他の職業の全
だから声を張った。周囲を、仮の味方連中を見渡す。さっき撃った奴も見る。笑顔を贈る。泣きそうな顔を返された。
「居るぞ。んで、心配するな。相手から説明がある。コレはそう言う種類の
そしてケイジの問い掛けに答が返された。中立なのだろう。腕の立ちそうなドワーフ達が『我関せず』と言った具合に、騒ぎで持ち主が曖昧になった酒を回収して酒盛りをしていた。その中の一人、
「エンチャント:スェアー。『命を賭けた三回目の決闘であること』『前二回は敗北していること』『目玉焼きは黄身から食べること』。やたら厳しい縛りがあるが――
「……ヤァ。ほぼ不可能じゃねぇか。二回負けたら死んでるぜ?」
そして条件の割には勝率が微妙だ。そしてタカハシとの決闘は三回目と言えなくもないが、一回目とか普通に反則負けだと思う。判定が相手によるとかクソだな。そう思った。
「全くだ。二回も自分を殺そうとした相手を生かしておくのは――馬鹿か聖人だ」
うけけと笑って、気分はどうだ馬鹿? とドワーフ。
「決まってんだろ? ファックだ」
そこは聖人にしといてくれや、言いながら肩を竦めてケイジが答えた。
あとがき
その場で抜き撃ちが最速である限り呪印が無視できるけど、そうじゃなければ何の意味も無い(と、言うかデバフがのる)エンチャント:プライドと言い、今回の強制決闘と言い、ガンナーさんはとってもピーキー。
格上にあっさり勝つことも有れば、あがりが新人二人にボコられることもあるのです。
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