ゴブルバー

 ヤジローが独立して悪路場に工房を開くらしい。

 ラスターに近いことから、それなり程度の暴力が使えないとやっていけない場所だが大丈夫だろうか?

 そんな疑問が浮かんだので、ジャック名義で花でも贈っておこう。ケイジはそんなことを考えた。


「でもガララ達が花を贈ったら逆に恨みを買ってる奴等に襲われない?」

「あー……」


 祝いの場と言うことでスーツで正装しているガララの言葉に、同じ様にスーツを着たケイジが口を開けたアホ面で応じる。立ち止まった二人にレサトが、はやくいこう! 急かすように鋏を振った。


 ――それはあるかもしれねぇな。


 そう思う。

 後ろ盾が無い――わけでは無い。ケイジとガララは蛮賊バンデットギルドと盗賊シーフギルドのギルドマスターが助言者メンターを務める言わばギルドの秘蔵っ子だ。それに相応しい利益をギルドにもたらしているし、腕の方も立つ。加えて騎士ナイトギルドの幹部のカイトともつながりを持って居る。

 だが組織には属していない。いないのに、結構恨みを買う様なこともやっている。

 アンナもリコもロイも居ないのだ。

 ケイジは意図的にブレーキを踏まないことが増えたし、ガララもソレを見て溜息を吐いても、止めはしない。表立っての賞金首バウンティにはなって居ないが、裏で『ぶっ殺したら金貨三枚』とかやられて居てもおかしくない。


「……」


 仕方がないので、花束のメッセージカードを引っぺがしてポケットに捻じ込み、何となくサングラスを掛ける。


「うし、行くか」

「ショバ代の回収に?」


 まるでヤクザみたいだね、目を細めるリザードマンの笑顔を浮かべながらガララもサングラスを掛ける。武闘派ヤクザ二人組が出来上がった。

 ヤジローの店は国の、この場所が国だったころの匂いが染みついた木製の家屋だった。レトロ趣味、そう言う奴だろうか? ケイジにはイマイチ良く分からないが、嫌いでは無い。防御力も無い。そんな店だった。ガラスの引き戸に手を掛ける。「……」。建付けが悪いのか、少し隙間が開いた所でレジスタンス活動を開始した。靴の先を捻じ込んで、足と手で力任せに開ける。


「いらっしゃ――丁寧に開けろよ」


 カウンターの奥は作業場の様だ。かちかちと何かを弄っていたヤジローが扉が開く音に慌てて振り返り、相手がケイジ達だと分かると迷惑そうな、それでいて嬉しそうな声をだした。


「ヤジロー、開店オメデトウ」

「このガラス、防弾? 防弾だとしても木の枠とかそこから割れね?」


 ガララが一応祝福する中、ケイジは裏拳でガラス戸をこんこん叩いた。


「ガードを置いてる」


 そこだ、とヤジローが指を指す先には戦闘用機械人形バトル・オートマタが展示品を磨いていた。ケイジ達に気が付き、お辞儀をする。蛮賊バンデットギルドのポンコツよりも物が良さそうだ。戦闘だけでなく、接客もさせるつもりだから人型を選んだのだろう。レサトが近づいて行った。機械同士、何か感じ入る者があったのだろう。


「世代は第五?」

「店の防衛にしか使わんからな、第二だ」

「……何、テメェ、第二教?」


 自律機械はレサトの様な生体脳と機械脳の複合型である第五世代が最後だ。そこに至るまでに積み上げられた世代は使われていない。問題が色々あったからだ。

 ただし第二世代は除く。

 有線遠隔式。

 有線接続により感染を避けることにした第二世代は一定の利用者や信者が居て、今も時々使われている。過激派になると『第五世代とかクソ。第二世代こそ真の最新型にして完成系』とか言い出す。それを総じて第二教と呼ぶ。


「おう! 良いだろ、第二世代。有線接続のあの微妙な不自由さとか、最高だ」


 お前には分からんか? とヤジロー。


「あぁ、人型だとコードが絡まらない様にテメェの手で調整すんの良いよな」


 いや分かるぜ? とケイジ。


「……」

「……」


 がしっ、とケイジとヤジローが硬い握手をかわす。「……」。あまり興味のないガララはどうでも良いと思ったが、口に出すと多分二人から責められるので黙っていることにし、自分をディスられたレサトは不機嫌そうに鋏と尻尾を持ち上げた。


「思わぬところに同士が居るもんだな」


 ほらよ、開店祝い、とケイジが花束を押し付ける。


「花か……有り難いが、花瓶なんて洒落たモンは無いぞ?」

「壁にかかってる奴の銃口にでも突っ込んどけよ」

「なるほど」


 お前、天才か? とヤジロー。感心されてしまった。いや、すんなや。


「……ケイジの冗談だからヤメテね?」


 花瓶はコッチで用意したよ、とガララは傍らに抱えた包みを解く。陶器製の花瓶が出て来た。


「客の入りはどうだい、マエストロ? やってけそうかよ?」

「マエストロは止めろと……」

「ヤァ。工房を持ったんだろ? 良いじゃねぇか、気取ろうぜ? 使い方間違えるとクソ見てぇなモンだが、誇りプライドってのは結構大事だ」

「――」


 無言で、黙る。肩を竦めたりしない辺り、それなりに響くモノがあったらしい。


「SG専門店なの?」


 壁に掛かっている売り物を見ながら、ガララ。言われてケイジも見まわしてみれば、成程。SGが多い。Bラック社が多い。ここの店主、分かって居るじゃないか。うんうんと満足気に頷いてみた。


「いや、勿論、他のも見るさ。ただ、オレの名を売ってくれたのが――」

「そうだった。SGを使う蛮賊バンデットだったね」

「お陰でSGのカスタム依頼が一番多い。だが、SMGも揃えてあるぞ。どうだ?」

「ガララはアルベと契約しているから無理だよ」

「そうか。調整位ならやってやるから持って来いよ」

「あぁ、そういや――」


 忘れてた。売り物を手に取り、構えて遊んでいたケイジがのっこのことカウンターに戻ってくる。用事を思い出したのだ。別に花を届けに来ただけではない。ついでの用事もある。


「カスタムを頼みてぇ」

「スプリンター50Mのか? 何処を弄る? あ、それともセミオートに手を出す気になったのか? 最近のは良いぞー。ちょっと待ってろよ。Bラック社も最近、手を出してきたが、やっぱりここは素直にミロクを――」

「ちげぇ。鈍器としての使用が多いからセミオートは良いって言ってんだろ? 頼みたいのは――」


 これだ。レサトに背負わせていたバックから紙に包んでいた拳銃を取り出す。ゴブリンジェネラルが持っていたモノだ。ゴブルガンではない。六発装弾可能な回転弾倉を持ったゴブリン・リボルバー。つまりはゴブルバーだ。


「……」


 新しい玩具の登場に、ヤジローが黙る。少し待って居ろ、そう言う様に、店の隅のテーブルと椅子を指差された。ケイジとガララが軽く肩を竦める。職人と言う人種はコレだから良くない。接客要員のバイト雇った方が良いんじゃねぇか? そんなことを思いながら椅子に座ると、自動人形オートマタが無言でコーヒーを持って来た。「……」。気が利くとか言うレベルで処理して良いのか少し困った。


「ケイジ、賭ける?」


 銀貨五枚ね、とガララが机に銀貨を積む。


「……一時間」


 言いながらケイジも銀貨を五枚積んだ。


「お客をそんなに待たせないでしょ? まだ改造内容も伝えて居ないよ?」

「そんじゃテメェは短く賭けろよ」

「三十分」

「……それでも内容聞かずに弄るにゃなげぇけどな」

「うん。まぁ、そうだよね」


 ケイジとガララは敢えてヤジローが飽きる迄声を掛けないでおくことにした。手土産に用意したはずの菓子が開けられ、ケイジ達の胃に収まる。コーヒーのお代わりが二回来た。扉の外が暗くなり、自動人形オートマタがシャッターを閉めた。飽きたレサトがトランプを取り出し、ケイジがイカサマをして、ガララが見破り、レサトが激怒した。そうして暇を潰し続けて数時間。ガララがアイマスクを付けて眠り、ケイジがトランプタワーにチャレンジしたら何故か上手く行き、うっかり結構な高さになったころ――


「いやぁ、言い仕事だ。こりゃ、ゴブリンの職人の中でもコレは良い奴が造ってる。アイツ等は部品も全部手作りだから工場ラインで組み上がる奇跡の一品みたいなのは無いんだが――コレを造った奴は手作業で機械並の精密作業をして――」

「ヘィ、テンションを落とせや、今、こっちはそのゴブ並の精密作業を――」


 タワーが崩れた。「あぁ……」とケイジが項垂れ、レサトが絶望に鋏を振り下ろす。「……」。アイマスクを少しだけずらしたガララが、時計を確認することもなく積まれた銀貨をケイジに押し付けた。


「どうせ五十口径へのカスタムだろ? やっといた。銀貨十枚な」

「……あぁ、そう。気が利いて良いと思うぜ?」


 力なくそう言ってケイジが積んだ銀貨と回収した銀貨をそのまま横に流す。

 店の奥に待機場所があるのだろう。そこから出て来た自動人形オートマタがシャッターを上げる。

 朝日が眩しかった。







あとがき

新しいポケモンにはコーギーがいるらしい

しかも、でんき属性らしい

欲しい


けどハード増やしたくなぁぁぁぃ!

PS4で出ない?

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