ラウンズ

 五パーティ、三十匹。ジムニーが三台と、その随伴騎兵として大ネズミが六匹。

 主な構成員はSMGを主武器にタクティカルベストを着込んだゴブリンソルジャー。中隊のまとめ役としてソルジャーの上位種であるジェネラルが一匹、回復役としてプリーストが三匹、五匹明らかに体格が違うのはホブゴブリンだろう。そして荷運び件騎獣用の大ネズミを御する為のテイマーが二匹。

 強襲中隊。それも襟元を見るに王国正規軍と言った所だろう。

 新人共グリーンハンズがパイセンゴブの指示の下、道に地雷を仕掛けていた。額に汗しながらスコップを振るう新人ゴブは見ていると応援したくなるような爽やかさがある。あるが、その道を通る為に動いているケイジにしてみれば正直、勘弁してほしいと言うのが本音だ。


「ケイジ、彼等の狙いは何?」

「ヤァ。そら勿論、防衛塔の都市軍――って言いてぇ所だが……」

「お客サマの商隊?」

「このルート使うのは五回目って言ってたからなぁ……」


 先に見に来といて正解だったぜ。

 言いながらケイジは双眼鏡をワンショルダーバッグに戻した。

 色々と気に成ることが出来てしまった。

 それは主にリコの失踪だったりだ。

 だが、ケイジには特に何も出来ない。出来ないのなら、やらない。やることがあるのだ。先に進む必要があるのだ。だったら進まなければならない。

 だからラスターに戻って来た。

 オークの軍とやり合う為に廃都市を通過する商隊の護衛に付いてみた所、出会ったのは――


「――ゴブかぁ」


 ハズレだ。


「……大ネズミすら鎧を付けているね」

「そういや、あの大ネズミとヴェルツェ街道のゴブが一対一やるとな、大ネズミが勝つらしいぜ?」

「ヴェルツェ街道のゴブが弱いの? あの大ネズミが強いの?」

「どうせタダなんだからよ、前者であることを祈っとこうぜぇー」

「……祈らなきゃいけない時点でソレが答えだよね?」

「……」


 ケイジは返事をする代わりに肩を竦めておいた。どうだろうな? そんな態度だが――まぁ、その通りだ。

 そう言う意味でも王国軍ラウンズの相手はハズレだ。シンドイ。


「それで、どうするの?」

「偉い人は言いました。先手必勝」

「やるの?」

「そして企業戦士は言いました。持ち帰って検討させて貰います」

「……」

「俺等は偵察だ、偵察。ボスにぶん投げて判断を仰ごうぜ?」







 多脚戦車は運搬にはあまり向かない。

 悪路走破性能は高いのだが、車輪や履帯の方が量を運ぶのには適している。

 そう言う理由から装甲を張り、武装を施した大型トレーラーを愛用する商人は多い。今回の依頼人もそうだ。

 一番奥に刺さった街であるラスターと、最後の集積点と言われる悪路場あくろばを往復して物資を運んで売るリップ商店は使っていた道での行方不明が多発したことを受け、この度ラスターにて新規新鋭の期待のパーティ、ジャックを護衛に付けることにしたらしい。

 まいどあり。

 そんな気分だ。払いも悪くない。商店の自前の護衛もいるので、オーク軍とやり合う場合も頼りに出来る。悪くない仕事ではあった。


「相手は五パーティ、三十人。んで、こっちは二パーティで、ウチが三人だから九人。俺としちゃ迂回を進めさせて貰うぜ、ボス」


 トレーラーにもたれたケイジは電子タバコを吸いながら偵察をした感想を商店の護衛部隊の隊長である魔女種の銃士ガンナーに言った。トンガリ帽子は魔女らしい。だが、マントの下の赤い革製のボンテージ衣裳はエロい、Sっぽい。ただ、見ていて楽しいが本当に防具なのか、戦場で使うモノなのかが不安にはなる。


「……」


 まぁ、銃士ガンナー魔銃使いバッドガンナーは伊達男と伊達女が多い。テンションを上げる為、良く分からない拘り、そんなんだろう。そう結論付けてケイジは気にしないことにした。「……」。取り敢えず揉めて殺し合いになったらヴルムで太股切ろう。何となく殺す算段を立ててみた。特に意味はない。


「ボウヤ、こう言う時の為に高い金を払ってアンタ達を雇ってるんだ。さっさと退かしてきな」

「ヘィ、ミセス? 難度がパネェよ。追加料金を頂きてぇ」

「……キサマこそ良く聞け、私は『ミス』だ。次間違えたら二つ目のケツの穴をクソの詰まった頭にも開けてやる」

「ヤァ。身体は兎も角、心は乙女ってわけだ。良いね、カワイ子ちゃん。夢はお嫁さんってわけかぃ?」

「――ケイジ」


 何故、貴方は直ぐに喧嘩を売るの? と、ガララがケイジの頭を叩いて黙らせた。まだ何か言いそうだったので、電子タバコをってその口に突っ込んで黙らせた。「……」。大人しく煙を吐き出しだすケイジを見てガララは溜息を吐いた。


「好きな女の子が失踪して気が立って居るんだ。許してあげて」

「違うし。別にリコのことなんて好きじゃないし」

「……そう言う遊びは仕事が終わってからにしな。それで?」

「ケイジはあぁ言ったけど、料金内の仕事だとガララは思って居るよ。ヤルならヤル。迂回するならそのルートの斥候に出る。どうする?」

「……料金内なのか?」

「うん、残念だけどね」


 はふん、と鼻息を吹き出し、肩を竦めるガララ。

 貰って居る料金が料金だ。これ位はこなさないと次の仕事に繋がらない。「……」。確認する様にS魔女サマがケイジを見る。嫌そうに、それでもケイジも頷いた。

 ゴブリンの王国軍ゴブリンズ・ラウンズの相手はハズレだ。シンドイ。だが待ち伏せを先に見つけた今の状況なら――まぁ、どうにか出来るだろう。多分。


お気に召すままにアズ・ユー・ライクで御座いますよ、ボス。俺等はテメェ等のオーダーに従うぜ?」


 ケイジの言葉にガララが頷き、レサトが鋏を掲げた。それを見て、S魔女サマは運転席を見上げる。商店のお偉いサマは、強く頷いた。決断が下された。






 レサトが三つのトランクから三つの追加武装を取り出した。

 一つは背負った。

 鋏がぽろりと落ちて、その代わりに二つの武装が両手に付けられた。


「金ってのは有る所には有るらしいな……全弾向こうさん持ちだそうだ、景気よく全弾発射フルバーストと洒落込もうぜ、レサト?」


 肥大化した鋏は気軽に持ち上がらないのだろう。その代わりに尻尾がくるん、と回った。準備はオーケイ。そう言うことだろう。


『ガララ』

『ある程度、近づけたよ。ジェネラル、本当に任せても良いの?』


 初撃で“頭”を狩って置いた方が良くない? と、ガララ。


『いんや、速度で勝ちてぇ。持久戦の方がきちぃからプリーストから頼む』


 ゴブリンシャーマンの亜種。回復に特化したゴブリンプリーストはレアだ。レアだが、多産であることが武器であるゴブリンだとそれを平気で超えてくる。

 変人オークに酒の席で聞いた話だと、ゴブリンプリーストを産むと一族が王国に招かれるらしい。つまりは産まれながらの勝ち組と言う訳だ。良い思いをしてきたのだろう。だからまぁ、その分、真っ先に逝って貰おう。


『レサトの初撃が終わり次第、突入エンター。ガララ、テメェの優先順位はプリースト、テイマー、その他だ。んで、レサト。テメェは換装が終わったら追って来い。ガララのフォロー。俺はジェネラル引っ張りながら掻き回す』


 ――何か質問は?


 返されるのは『ヤ』と言う短い返事と回る尻尾。くるくるくるん。戦闘を前に上がるレサトのテンションに、ふっ、と軽い笑い。


『オーケイ、野郎共。一人十匹がノルマだ。サボるんじゃねぇぞ?』


 返事の代わりにレサトがミサイルを撃ち出した。片手で六発、両手で十二発、背中のボックスからも八発が撃ち出され、計二十発が空で割れて、無数へと変わる。

 クラスター弾。

 見た目の凶悪さは兎も角、弾が分かれるので、余り力は乗らない。当たり所が良くないとここのゴブは死んでくれないだろう。

 だが数は力だ。

 弾雨と称するに相応し着弾音。奇襲に浮足立つ王国軍ラウンズ。だが野良とは違う正規軍だ。立ち直りが早い。土壁アースウォールのポーションが叩きつけられ、ホブとソルジャーが盾を空に向けて陣形を造る。


「ヤァ、対応が遅いぜ? 天気予報はちゃんと見たのか?」


 多分、大半に言葉は通じていない。知っている。それでもケイジは嗤いながら、大楯を片手に大声を上げながら崖を駆けおり、跳んだ。

 グレネードを投げる。それを拾って投げ返そうとするソルジャーの頭を踏みつけ、見えた首の後ろに大楯を振り下ろして地面に突き刺す。防御態勢。造りながらグレネードを更に奥に蹴り飛ばす。防御陣形を造っていたゴブ達が慌てる。一匹がグレネードの上に伏せた。爆音。死んだ。それだけだ。銃撃が来る。大楯に孔が開く。「――っ」。本職ではない。騎士ナイトではない。だからケイジには盾の強化は出来ない。だから仕方ない。いや、仕方ないで済むかよ。もうちょい頑張ってくれ。

 だが、まぁ、言っても仕方ない。大楯から飛び出し、カバーに飛び込む。転がりながらSGの射撃。迫っていたホブの足を吹き飛ばして転ばせる。

 レサトの初撃は十分に仕事を果たし、呪印のガードを削っていた。

 だが、今の一撃でゴブリンプリーストが仕事をしていないことがバレた。呪印ガードの回復。それが為されていない。その異変の原因をいち早く理解したジェネラルが、ぎゃぃ! とゴブ語で何かを言った。テイマーが大ネズミを操る。じゅぃ! と六匹が一斉に飛び掛かる先に――ガララが居た。


『バレた。引くね』


 何でだ? 疑問。あぁ、匂いか。即座に結論。

 汗腺の少ないリザードマンで相手でも訓練された大ネズミは見逃さないらしい。厄介なことだ。グレネードが三個、投げ込まれた。二つ投げ返し、一つにはカバーに突進してきたホブの腹に右を打ち込み、杭を撃ち込んで、転ばして被せておいた。軽く浮き上がるホブ。それでも死なないホブ。足を掴まれた。チャンスだと言わんばかりにSMGの射撃が来た。倒れる様に躱す。そのケイジに縋る様にしてホブが昇って来た。

 ケイジが美少女ならR18案件だ。

 マウントを取られた――と言うよりは、痛みで丸まったホブの背中からするとヤられている様にしか見えない。正常位だ。

 だが残念。ケイジは美少女では無く、美少年だった。肘を思い切り頭に打ち込む。その形にホブの頭が凹んだ。泡を吹いている。膝で持ち上げ、足を入れて、蹴り飛ばす。追撃に来ていたソルジャー二匹を巻き込んでホブの死体がひっくり返る。重さは凶器だ。一匹、逃げ遅れたソルジャーが重さでもがいて、ぎゃぃぎゃぃ、言っている。ソレを助けようと手を伸ばしたソルジャーの手をレサトが切り捨てた。みぎぃ! と言いながら無くなった左手を掲げるソルジャー。ソイツに下がりながらレサトがSMGを食わせ、カバーに入って来た。


「……」


 数瞬、思考。『ガララ』。呼びかけ。『ネズミは仕留めた、戻るよ』。回答。受けて、SGに煙幕スモークを装填。引き金を引く。「レサト、下がれ」。フォアエンドを煽り、次弾を装填。立ったまま、と、と、と、と軽く跳ねる様に下がりながら引き金を引いて、装弾して、引き金を引く。煙幕スモークで悪くなった視界の中、ゴブリン達がケイジとレサトの射撃に釣られる様に走り込む。戦線が伸びた。その横っ面をガララが喰らう。探査エコー。視界を使わない盗賊シーフの眼は浮足立つソルジャー達を落ち着かせようと叫ぶジェネラルを捉えた。


『七秒よろしく』


 無音殺人術サイレントキリングからの絞殺術スネークキリング

 音なく背後を取ったガララがジェネラルの首を絞め上げる。苦悶の声すら出すことを許さない。無くなった視界の中、上司の声が聞こえなくなったことに気が付いたゴブリンが居たことが災いした。不審に止まる。更に戦線がばらける。

 頭の悪いホブ三匹は止まらなかった奴の筆頭だ。歩幅の差もあり、ソルジャーよりも先に飛び出してきた。合わせる。強襲アングリフ。跳んだ。顔面を殴りつけながら、杭を撃ち込む。吹き飛ぶ頭。飛び散る目玉。中身の少ないおミソが飛び散って後続のソルジャー達の戦意を汚す。側面、斧を振りかぶるホブ。SGで受ける。みしっ、金属が軋む音。だが蛮賊バンデットの荒い扱いに耐える為に補強されたSGは耐えた。力を抜く。受けた斧を流す。合わせる様にホブの足をレサトの尾が払う。転ぶホブ。迎え入れるケイジの肘。鼻を潰す、苦悶の声を上げさせる。倒れて、武器を手放し、鼻を抑えるホブ。その頭に散弾。

 箱型弾倉。

 大食いのお嬢さんはこういう乱戦の時、装弾の隙が少なくて有難い。マガジンを外す。マガジンを投げる。煙から抜き出たばかりのラストホブがグレネードと勘違いして大袈裟に避ける。装弾完了。引き金を引き。膝を吹き飛ばす。引き金を引く。頭を吹き飛ばす。


『ホブクリア』

『ジェネラル、テイマー一匹、完了』

『ケー。残りはテイマー一匹にソルジャーって訳だ。――配置』

『殆どソッチに行ってる。カバーを造って引っ張って』


 ――後は煙の中でガララがやるよ。


 そんな頼もしい言葉が聞こえて来た。







あとがき

フルバーストレサト(一回出動で金貨1.5枚)。

おたかい。

だから基本、弾代がお客様持ちじゃないと出動しないよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る