緑髪

 敵陣にある扉を警戒無しに開けてはいけない。

 それが重要区画の扉であるのならば猶更だ。

 更には廊下の端に位置して廊下全てを射程に捕らえている場合など猶更だ。


力よクラフト


 戦乙女ワルキューレの見えざる手が扉を押す。熟練の戦乙女ワルキューレであれば、この魔法で敵の足を掴んで引き倒したりできるそうだが、我儘戦乙女ワルキューレに出来るのは押すだけらしいが、今はそれで十分だ。

 扉が開くのを合図に、青い閃光が廊下を奔る。

 雷球サンダーボールに『形状変化』『分裂』『威力増加』辺りを付与したのだろう。幾重にも枝分かれした雷槍は薄暗い廊下を照らして焼いた。

 触れれば死んで、その後に炭になる。そうする為に編まれた殺意の形だ。

 へっ、とケイジの口から笑いが零れる。馬鹿正直に自分で扉を開けていたらどうなっていたかを考えるのは止めておいた方が良いだろう。


「――やったかっ!」


 一方、ソレをやってくれた方は随分と楽しそうだ。フロッグマン側に立って居ながらゲコゲコ鳴かずに随分と流暢に言葉を操っていらっしゃる。隣の部屋に同じように隠れた戦乙女ワルキューレから何かが投げ渡される。受けて追ってみれば、小さな鏡だった。「?」疑問符を浮かべるケイジに身振り手振りで彼女が『見ろ』と言って来た。素直に従う。

 尖った耳で。

 子供の様な体躯の。

 緑色の髪をした奴が見えた。


「……ファック」


 マジでついてねぇ。言いながら煙幕スモークを込めたシェルを撃ち込む。「わ!」と高い声。その声と直前まで見ていた景色から大体の位置を予想してケイジは蹴りを叩き込んだ。「――」。ごぷ、とか、げぷ、と言うフロッグマンに近い声が聞こえた。蹴ったので位置が解る。位置が解るので追撃をした。壊れやすいリーフ・ウィング社のSGだが、素手よりはマシだ。マウントを取り、振りかぶる。

 この距離なら煙幕スモークを焚いていても相手の顔が見えた。

 予想通り大人の顔立ちをしていた。髭が生えていた。ノームだった。


「やっ、やめ――」

ノーだ・・・


 ノームを喋らせてはいけない。賢者ワイズマン。ノームしか彫れないその呪印は不明点が多く、厄介だ。ソレに言葉一つで敵の砦に放り込まれた経験を持つケイジは容赦がない。顔面を臼に、SGを杵に、月のウサギを見習って餅つきだ。歯を砕き、鼻を潰し、下顎を砕いて、ぐにゃぐにゃ柔らかく成るまで殴り続けた。


「……」


 意識を失ったノームはそれでも生存をアピールする様にぴくぴくしていた。「……」そこで漸くケイジは馬乗りを止めて立ち上がる。衝撃で随分と仕掛けが緩くなってしまったSGにもう一度銃としての働きを求める気は無いので、シェルを抜いて捨てる様に放り投げた。


「室内、クリアですわ。他が居たらどうするつもりでしたの?」

「……君を信じていたのさ、ベイビィ」

「……」


 汚物を見る様な目で見られた。受けなかったらしい。残念だ。


「待ち伏せを予想したのは貴方でしたが……これも予想通りですの?」

「まさか。精々カエルの群れが机をバリケードに撃ち込んでくる――くれぇの予想だよ」

「つまり?」

「完全に予想外。さっさと上の指示を仰いどこうぜ」


 下っ端の手にゃ余るぜ、と言いながら、通信コール。ジュリオとルイへの回線を開いた。






 ――知ってるから心配するな。


 ルイからそんな雑な答えが返って来て、ジュリオからは終わったのなら上陸部隊の援護に行けと言う次のお仕事が与えられてしまった。「……」下っ端とは言え、この扱いは中々に酷いのでは無いだろうか? ケイジはそう思う。


「……っーわけで俺は船尾に行くけどよ。嬢ちゃん、テメェはどうする?」

「コレはどうしますの?」

「後続が来るってよ。そいつ等に引き渡した後は――まぁ、果汁百パーセントって感じじゃね?」

「雑巾の方がしっくりくるのではなくて?」

「違いねぇ」ケイジがくっ、と笑う。「それで?」

「そうですわね……ご一緒いたしますわ。私、まだ暴れたりないですから」


 にっこり笑顔。


「……ヤァ、素敵だぜ? 一歩間違えりゃ惚れちまいそうだ」

「あら光栄」


 そんな適当な会話をしながら、環境へ向かう。途中、船尾の階段でロブと擦れ違う。「弾、まだある?」どうやらジュリオ経由で連絡が言って、ケイジ達へ武器の供給をしてくれるらしい。お嬢さんが弾薬の補給で済ませるのに対し、ケイジは銃を寄越せと餌をねだる小鳥の様に手をくいくいと動かした。


「やっぱり壊れた?」

「あぁ、残念だぜ。普段使ってるのと同じ様にした・・だけなんだがな」

「普段はどこのメーカー?」

「Bラック」

「……あー……無い。これで我慢して」


 どうやらカエル共に鉄の芸術品であるBラック社の仕事は理解できなかったらしい。いや、所詮は鹵獲品だ。つまりBラック社のSGを使う奴はここ程度では死なないと言うことだろう。そんな結論に達し、少しケイジは笑った。贔屓のメーカーの『良かった探し』は楽しいものだ。そんなケイジに『代わりに』と、ロブが木目調のSGを渡してきた。


「……どこの?」

六六六ミロク

「ヘェ? カエル共にしちゃ良い趣味だな」

「持ち帰って売る気だったのに……」

「ヘイヘイヘイ、小遣い稼ぎにはまだ早くねぇかぃ強奪魔ロバー? 罰としてコイツは没収だ。テメェにゃ返さねぇ」

「別に良いよ。次の仕事頑張ってね」


 あっさりと高価なSGを譲り、激励も忘れない。なんとも立派な同僚の様に思える。


「……」


 が、また尻を触られたのでそろそろどうにかした方が良いかもしれない。





あとがき

言い訳:昨日読んだ漫画の続きが気に成ったので、今日も漫画喫茶に行ったので遅れた。かもめチャンス。

次は自転車とかレースものでも書くかな……(書けるとは言っていない)

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