船上戦・デッキ

 通路から船尾を覗く様にしながら射撃をする。相手もカバーを使って居るので、思う様に行かない。呪印が無いから楽に殺せるが、その分、数が多い。胎生では無く卵生の利点だろう。文化的な生活を送り、死亡率の下がった卵生生物と言うか、多産の生物はそれだけで立派な脅威だ。

 そもそも銃も弾も現地調達なので心許ない。


「壁になって」


 だからその為に強奪魔ロバーが居る。

 棍と言うには幾分か細く短い円柱形の木の棒をロブが取り出した。ドラムスティックよりは太いが、それでも戦場で取り出すには随分と頼りない。何する気だ? ケイジがそんな目で見ていると、ロブがニヤリと笑った。その眼は焦れてこちらに突撃して来るフロッグマンを捉えていた。一番近い所のカバーから出て来た奴だ。


「あそこ取ろう。突貫して?」

「ヤァ、随分と軽く言うじゃねぇか?」

「簡単でしょ? ……あ、来るのはわしがどうにかするから」

「だってさ、行こうケイジ」

「そうだ、行けケイジ」


 ぱぁん、とケイジの尻をロブがぶっ叩く。


「……ヘェィ? 今、揉んだよな? ぜってぇ揉んだよな?」


 テメェからぶち殺すぞ? と威嚇するケイジ。そんなケイジの肩を「諦めて。ガララはもう諦めた」とガララが叩いた。セクハラの被害者は最低でも二人いるらしい。

 銃撃が来る。犯人だけを狙撃してくれれば良いものを、ケイジ達にも当たりそうなのでやってられない。さっさと安全を確保して私刑を行う為にケイジは制圧を進めることにした。

 突撃して来るフロッグマン目掛けて走り出す。多くの銃口から隠れる代わりに、たった一つの銃口に身を晒す。突撃フロッグマンが引き金を引く。SGだ。無数の殺意が吐き出される。至近距離でモロにケイジは喰らった。「……ハッ!」だが抜けない。呪印を抜けない。呪印を持たないフロッグマンの撃った弾丸だ。至近距離のSGの一撃でも一発では喰らった所でどうと言うことはない。

 壁にしていた突撃フロッグマンと擦れ違う瞬間、ケイジとガララはスライディングで抜けた。盗賊シーフとして成長しているガララの隠密は見事なモノだ。ケイジの後ろにガララが居たことに驚いて突撃フロッグマンが止った。そこにロブが襲い掛かる。

 木の棒で鍔迫り合いの形を造る。ギリ、と一瞬の均衡。空いていたロブの左腕がブレる。パキッ、と乾いた音。一瞬でフロッグマンの指の形が変わる。四本の指の内の三本が反らされていた。右手と左手。二点で受けていたのに、一点が使えなくなったのなら後は簡単だ。くるん、とロブの操る木の棒が下から潜って突撃フロッグマンの持つSGを跳ね上げる。それが飛ぶ先は――


「お触り代」

「……」


 そう言うことなら、ケイジは受け取りたくない。受け取ったら触られたことを受け入れる羽目になる。だから受け取りたくないのだが、とてもいいタイミングで欲しかった物が飛んできてしまった。


「……クソが」


 悪態を吐き出す。手に持って居たARを後ろのガララに投げてケイジは落ちて来たSGを手に取る。足の先がフロッグマン達の隠れるカバー、ウォールで造られた壁に触れる。止まらない。膝が曲がる。勢いをそのままに身体を起こし、カバーの内側を覗く。驚いた様に口を開けるフロッグマン達を上から撃ち抜く。クリア。「ケイジ」ガララがそいつ等が持って居た長方形の防弾シールドを投げて寄越し「行って」と顎をしゃくった。


「あいよ」


 言いながらSGをカバーに放り投げる。追い付いて来た後続部隊の為だ。少し確認してみたら、水辺でみたダイバースーツに押し込まれた我儘なおっぱいが見えた。どうやら戦乙女ワルキューレのお嬢さん達は同じ船に乗り込んでいたようだ。

 良いものが見れたので、少しだけやる気が出たケイジは盾を構えてデッキの中心目掛けて走り出す。


 ――挑発プロヴォーク


「ロブ、何でも良いから二つくれや」


 叫ぶケイジの言葉の裏で呪文スペルが意味を成す。不快な魔力波を叩きつけられたフロッグマン達の視線が切り込む様にデッキ中央に走るケイジに向かう。当然、銃撃もだ。顔は守った。腕も盾の中だ。だから守り切れない足を動かしてケイジはデッキを駆け抜け、船室への階段に飛び込んだ。盾で中に居たモノをぶん殴り、階段の下へと叩き込む。


「……」

「……」


 階段の下に転がった三匹のフロッグマンと目が合った。合ったので、ケイジは笑ってみせた。


「ヤァ? 何、かくれんぼ? わりぃな、俺が鬼だ。つーわけで……みーぃーつけたぁー・・・・・・・・!」


 言いながら、肩の横で両手の掌を上に向ける。まるで『やれやれ』とでも言いたげな仕草。特に意味はなさない。「追加料金」。だが、その言葉と共に自動拳銃が二つ置かれた瞬間に意味を持つ。二丁拳銃トゥーハンド。雑ながら殺意に溢れた攻撃だ。


「ガララ、状況」


 ぽい、とケイジが撃ち尽くした自動拳銃を放り投げる。拳銃は一度、音を立てて階段に当たった後、フロッグマンだったモノの白くて柔らかい腹に音も無く落ちた。それを見ながらケイジも階段を降りる。


『良い囮だったよケイジ。三方向は潰した。後は時間で押し切れる』

「ケー……あ、ケツ気を付けろよ。フロッグマンの手は船体位昇れるぜ?」

『そうだね。後方も気を付けることにするよ。……それで?』

「そのままデッキの占拠続けてくれや。俺は――このまま中に行くわ」


 階段の上からザジを連れたロブがひょっこりと顔を出し、ケイジにSGとその弾薬が詰まったベストを投げて渡してきた。箱型弾倉ではないので、装弾が手間だが、贅沢は言って居られない。


「これメーカーどこだよ?」


 ベストを身に付けながら、降りて来たロブにケイジ。ロブは、とん、と銃身に彫られたエンブレムを叩く。見て、ケイジは露骨に嫌そうな顔をした。


「不満?」

リーフ・ウィング葉っぱって……軽くて、脆くて、直ぐジャムるでお馴染みの糞メーカーじゃねぇか」


 競技用だぜ? 戦場で使うもんじゃねぇよ、とケイジが言うと、


「造ってる本人達にその気は無いんだがね……」


 そのメーカーの主要社員と同じ種族のザジが良く分からないフォローをした。

 強い反論が来ない時点で、彼がどう思って居るかもお察しだ。







 時折、遠くから聞こえる連続した重い発射音は、船室への入り口に隠れたまま魔法を撃ちまくっているザジの仕業だろう。

 固定砲台。

 防御力はその名に明らかに負けるが、攻撃力はそれに恥じない魔術師ウィザードに詠唱時間を与えて穴倉に籠られた結果なぞは考える迄も無い。ケイジですら軽くフロッグマンに同情してやっても良いと言う気分になる程だ。

 直ぐにデッキを確保したら次は他の船への攻撃、或いは水中戦の援護にでも入るのだろう。頼もしいことだ。

 そんなことを考えながらべりっ、と床に張り付いたブーツを剥がす。赤い足跡が綺麗に残っているのが少し面白い。

 足跡は二種類だ。一つはケイジ。もう一つはロブ――ではない。強奪魔ロバーさんはデッキを走り回ってフロッグマンの装備を引っぺがして味方に供給するのに忙しいのだ。


「……前方に二部屋ありますわ」

「ケー。嬢ちゃんが右、俺は左。何かあったら死ぬ前に異変だけでも伝えてくれや」


 合流した黒髪の我儘ボディの戦乙女ワルキューレはケイジ同様にフロッグマンから奪ったベストを着てしまっていた。そこは残念だ。だが、有り難いことに彼女は動けたので、遠慮なく使うことにした。

 特にお互いに気にすることも無く、左右の部屋を覗き込む。寝室だろうか? 二段ベットが両側に備え付けられていた。「……」。布団に変なふくらみは無し。後は……下。ケイジはそう判断してベットのしたを覗く。「!」。ぞわり。悪寒。後頭部に殺気を感じ、覗き込む姿勢のまま、前方に転がる。さっきまでケイジが居た場所にフロッグマン。手に持ったナイフが深く床に突き刺さっていた。


「……」


 手を見る。水掻きがある。四本の指がある。四本の指の先は丸く、柔らかそうだ。思わず笑う。ガララに警告したのに、自分がやられたら世話が無い。フロッグマンは、ぐぅー、と一度鳴くと新しいナイフを抜いて構えた。近接戦闘インファイトがお望みの様だ。付き合う義理も無いので、ケイジはSGをぶっ放した。跳ねて、避けられた。三角跳び。床を蹴って、ベットを蹴って、ケイジに飛び掛かる。忍者かよ。そう思った。だが読んでいた。近接戦闘インファイトに付き合う義理は無くとも、別にやらないとは言って居ない。踏み込み、カウンター気味に拳を叩きつける。軌跡は振り下ろし。床に叩きつけた忍者フロッグマンが起き上がる前に止め。引き金を引く。


「……」


 腕にナイフが刺さっていた。貫通している。多産の生物はコレが怖い。数の中に生まれる質。忍者フロッグマンは天才と呼ばれる種類のモノだったのだろう。


「あら? 何かあったのなら死ぬ前に伝えて下さらない?」

「……そいつぁ気が利かなくて悪かったな」


 廊下に出て直ぐに仲間が暖かい言葉を掛けてくれたので、ケイジは涙が出そうになった。ベストを切って丸めて咥える。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 そうして歯を砕かない様にした後、壁に押し付ける様にしてナイフを抜いた。本気で痛かった。「あー……」特に意味も無い言葉も零れると言うものだ。


「回復、要りますか?」

「……わりぃ。頼む」


 祈りべーテン。勇士の為の乙女の祈りが傷を癒す。「……」。ぐっ、と握って、ぱっ、と開く。ケイジは三回それをやった。


「毒が塗られていた場合の解毒は出来ませんわ。……いけますか?」

「ヤァ。今更引き返すのもさみぃだろ? 行けるぜ」


 メインディッシュだ。

 そう言って笑うケイジ達の目の前には、廊下の突き当り。如何にも『重要人物在住』とも言いたげな重厚な扉があった。





あとがき

予約投稿してないので、


残業が多いと投稿が遅れます

外食の場合も投稿が遅れます

残業多くて更に外食するとすごく投稿が遅れます

そして残業が多くて、それでもカレーの気分だったので頑張って作ったらご飯炊くの忘れてて「はぁ? もう十時回ってんぞ! 田舎のラストオーダーの早さ舐めんなよ! ラーメン屋くらいしか開いとらんわ! でもラーメンって気分じゃないわ!」となった挙句に漫画喫茶に行くとこうなります。


……年一くらいでご飯炊き忘れるんですけど!!

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