唐獅子牡丹
――まぁ、ヤれるな。
現場を見てケイジはそう判断する。救援対象の唐獅子牡丹の一団と争って居る連中はケイジよりも格上だ。だが、唐獅子牡丹の一団もケイジよりも、いや襲撃者よりも格上だ。
唐獅子牡丹の一団は貴人でも守っているのか、装甲車を守りながら戦って居る。だから押されているのだ。見た感じだと数も、練度も、襲撃者の上を行っている。
そして襲撃者の方は護衛対象である装甲車を使って戦場を上手くコントロールしていた。
その要となって居るのは、
ぎりぎりざりざりと削る様な戦い方だ。
装甲車を狙った攻撃を受けさせて、ぎりぎり削る。
攻めに転じる姿勢を見せれば、盾で防いでいる間に兵力と装甲車をざりざりと削る。
足手纏い一つでなされる
人と人の争いだ。片方が明らかな野盗でも無い限り、首を突っ込んでくる物好きは居ない。仮に居たとしてもヴルツェ街道に居る様な新人連中が助けに入った程度ならどうにかできる。そう言う布陣だ。
巧い手だ。
きっと一生懸命作戦を考えて、頑張って誘導して、緊張しながら実行に移したのだろう。
感動すらしそうな気すらする。
だが残念。物好きで、そこそこ腕に覚えのある
「……」
ケイジが無言でタクティカルベストからアンプルを取り出す。入っているのは血の様に赤い液体だ。今日はコレを試す気で居たんだがなぁーと、溜息一つ。
跳ね上げた身体能力に恃む様に、だん、と強く踏み込み、戦略の要である
「ぁぁああああああああああああ!」
不意打ちで片目を潰され、吹き飛んで行った
慌てて振り返ってしまった。
盾も構えていない。だから適当な一人の顔面にSGを撃ち込んだ。
だが、そこまでだ。
相手が動き出したので、ケイジは落とし物の盾を拾い、後ろに取んだ。デカい。重い。長方形のカイトシールドがサブマシンガンの銃撃に甲高い悲鳴を上げた。いや、悲鳴を上げたいのは俺の筋肉だ。重い。それがケイジの感想。
コレはケイジの戦い方に合っていない。そう思う。一瞬、盾から顔を出す。コッチに来ているのは……二人。
「……」
他は来ていない。唐獅子の連中が持って行った。さっさと片付けて援護に入って欲しいと言うのがケイジの本音だが、残念なことにケイジは所詮不審人物Aだ。急いでくれる可能性は殆ど無いだろう。
ちっ、と盾の陰で舌打ちを一つ。
つまりはあの二人を一人でどうにかしなければならないということだ。どうするかな? と思考。どうしようもねぇな、と思考放棄。待ちしか取れる戦略は無い。下がりながら盾が抜かれない様に祈って耐える。それしか――
『カウントスリーで合わせられるよ。
『……ヤァ。最高だぜ、テメェ。惚れそうだよ、ガララ』
『……やっぱり助けるの、止めてもよろしい?』
『よろしくねぇですよー』
赤い線が残像の様に残っていた。それは獣の様に
補強されたケイジのSGのバックストックがマスクのゴーグルを叩き割る。追撃が来る。
だからケイジは行かない。
勢い殆ど殺さずに為される九十度方向を変えての跳躍。
それは耳を守っていたマスクが無くなり、呪印の加護が無い耳の孔が晒されたと言うことで、つまりはケイジから少しだけズレていた影の前に弱点を晒してしまったと言うことだ。
注意も逸れている。弱点も剥き出しだ。ここまでお膳だてされたら失敗する方が難しいね。影が笑う。
だからこそ、実に自然に行われる
ガララの針が
これで残りは一。それはケイジの担当だ。
不意を突かれた
戦闘職とは言え、
ヘルムを揺らし、頭をヘルムに叩きつける。無理矢理引きはがし、見えた歯をグリップで砕く。横なぎの手刀で喉を潰す。髪を掴み思い切り引き倒して、砕けた口を更に膝で砕いた。かひゅ、と空気が抜けて
だから撃った。
それだけだ。
背後で何かが動く音がした。
見れば
「……」
ケイジはソレをぼーっ、と眺めていた。
駄目だ。RMDと
だが定まらない意識でもアレを放置するのは拙いと言う結論に達することは出来た。
厄介事に首を突っ込んだのだ。人と人の争いである以上、後ろに組織なり群れがある可能性があるのだ。肩入れしなかった方には全滅して貰う必要がある。
――ころさなきゃ。
ゆらりと歩く。歩こうとする。無理だった。ガララが支えてくれた、ついでに鼻に丸めたティッシュを詰め込んでくれた。「――」鼻呼吸が出来なくなったので、ぱっかりと口が開いてケイジは間抜け面になってしまった。
「ガララ」
「何?」
「俺、もう良いからよ。止め頼んで良いか?」
「大丈夫だよ、ケイジ。ガララがここに居るということは――」
ほら、と指刺してみれば、木の上から落下してきたレサトが
「……これ
レサトが居ると言うことはその護衛対象のアンナも居ると言うことだ。白いローブが血で汚れるのを嫌がって死体をよけながらやって来た彼女はヒールを掛けながらケイジにそう言った。
「あたし、次は
「あー……」涙では無く鼻血が零れない様に上を向きながら「その辺はテメェの好きにしてくれや」大して働かない頭でケイジは適当な返事をした。
だが、何時までもそうしては居られない。唐獅子牡丹の一団がこちらに近づいてきているのが見えた。敵意は――なさそうではあるが、怪訝そうだ。
「……」
無理もねぇ。そう思う。
このご時世、無償の人助け程、疑わしい物は無い。ソレが出来るのはアンナの様なある意味で頭のネジが外れている様な連中だけなのだから。
アンナのお陰でケイジに思考が返って来た。考えられる様になったのなら、早急に対応しなければならない。取り敢えず――
『アイツ等――唐獅子牡丹の連中の前で俺をケイジって呼ぶのは止めてくれ』
『何、やっぱりアンタの知り合いなの?』
と、アンナが不審そうに言えば、
『いや、初対面だ。運が良けりゃ……っーか殆どの確立で呼んでも問題はねぇよ? ただ、最悪の場合だと――』
『詳細は良いよ。取り敢えずガララは呼ばない様にしてあげる。それで? 何て呼べば良い?』
久しぶりにバンデットマンでもやる? とガララが覆面を取り出しながら言って来た。
『……いや、あからさまな偽名もさみぃからな。シチマルで頼むわ』
『わかったわ、シチマル』『変な名前だけど了解したよ、シチマル』『あ! あたしも普通に変だと思ってるわよ、シチマル?』
「……」
レサトが憮然としたケイジのブーツを、げんきだせー、と叩いて来た。
「……」
この野郎&ガール&無機物め。ファック。内心で毒づく。それで少しだけ腹の中を綺麗にしたことにする。俯く。息を吐き出す。顔を上げる。
野戦服に唐獅子牡丹の腕章を付けた盾持ちの
ケイジは彼に向き直る。
「
「いや、こちらこそ助かった。……その、貴殿はもしや……?」
「はっ。恥ずかしながら仄火の民です。国落ちの際に父と母が野に下りました。ですが唐獅子牡丹の紋に関しては聞かされておりましたので……既に国は無くとも血を同じとする同胞。恥ずかしながらそう考えまして余計なことを――」
「いやいや! 若いながらも見事であった。……御父上の名を訊いても?」
「力なく逃げた男です。どうか、ご容赦を……」
そうしてやたらと礼儀正しく会話をしだした。
『……ケイジ。ガララは怒らないから正直に言って。何を拾って食べたの?』
「……」
――へーい、そこのガララさん? うるせぇですよ?
動揺したガララが大変失礼なことを言って来たので、そんな言葉を睨みつけることで伝えてみた。
あとがき
風呂敷は広げたけど、ここから国家を巻き込む痛快爽快ヒストリィィイィ! テ〇スの王子様、この後すぐ!
「まだまだだね」(どっちやねん)
と、言う展開には成らない。伝説にもならないし、世界も救わないお話だから仕方がないね。
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