路上駐車:合法
簡単に言うと壊し過ぎた。
ケイジはガララが仕掛けたリムペット地雷が悪いと思って居る。
ガララはケイジが制御ユニットに銃撃をかましたのが悪いと思って居る。
まぁ、結論から言えば両方やり過ぎだ。
そんな訳で折角鹵獲した装甲車は自走は不可能。そもそも運転席も取り付けられていない。
だから怪我人のケイジと足の遅いアンナ、リコを装甲車に残し、ガララ、ロイ、レサトがフェーブに牽引車を呼びに行くこととなった。
左肩に麻酔薬を刺され麻痺した左腕をアンナがほじくり返して弾丸を抜く様子をぼんやり眺めながら、立ち去る三つの尻尾をケイジは見送った。
腕の治療の為に刺した麻酔薬だが、しっかりと頭にも作用しているようで酷くぼんやりする。欠伸が止らない。
「ケイジくん眠いの?」
「あー……うん」
「反応が鈍いね」
うりゃー、とリコが頬を突いてけらけら笑うが、ケイジはされるがままだ。頬も触られているか、いないのかが分かり難い。取り敢えず「やめろ」と抗議をしてみた。
「……何か幼くなってない、アンタ?」
そんなに眠いの? 寝たら? とアンナ。
「……なってねぇよ。なるわけねぇよ。俺はもう十七だぜ?」
「あたし、十八。はい、お姉さん」
「じゅうはち?」
ケイジがアンナを上から下まで見て――鼻で笑った。
「眠いのね? 眠らせてあげるわ」
「……優しくしてくれや、お姉ちゃん」
「知らないの? 姉は妹と弟には何をしても許されるのよ?」
「――」
そら怖い。そんなセリフが欠伸に呑まれて消えた。
「見張り、わたしがやるからケイジくん寝てて良いよ?」
「流石にアンタ、短期間で怪我し過ぎ。大分細胞弱くなってるわよ? 本当に寝た方が良いわ」
「……」
何やら女性陣が優しい。もしかしてコレがモテ期と言う奴だろうか? 働かない頭でそんなことを考えながら横になると、アンナがハンカチを目に掛けてくれた。何かいい匂いがする。ケイジの鼻がヒクヒクと動いた。
「あ、気付いた? 良い匂いでしょ? それ、魔女の香水よ。リラックス効果があ――」
傷ついた身体は休みを欲しがっていたのだろう。声が遠くに聞こえ、意識が沈んで言った。
――そう言えば。
ガララが去り際に「両手に花だね」と言って居たな。そんなことを思い出した。
ケイジは特に花を愛でることなく、硬い装甲車の天井で眠りに落ちた。
制御ユニットはやはり新しい型だったらしく高値で売れた。
それでも修理代に改造代の方が圧倒的に高くつく。
仕方がないので無事だった主砲を売り飛ばすことにした。元より後部キャビンは住居スペースの様にするつもりだったので、これはまぁ良い。スペースが広くなって良かったぜ! 位の強がりを言うことが出来る。
問題はそれでもお金が足りないと言うことだ。とてもでは無いが、内装をどうにかする余裕はない。仕方がないので運転席と前部キャビンに開いた孔を塞ぐ序に機銃を取り付けなおしただけで改造を終わらせた。それでも、ケイジとガララは兵舎に逆戻りしそうな勢いだ。
救いが有ったのは、ナックルズ直営の工場で改造を頼んだ結果、ケイジの試合を見ていた工場長が助手席をサービスしてくれたことだろう。本当にありがたかった。
そんな訳で左右の銃眼の散弾機構も取り払われ『戦った強敵が仲間になると弱くなる』と言うお約束の様な展開が発生したが、ケイジ達はどうにか車を手に入れることに成功した。
それでも車は高級品だ。
金になる。金になるのなら狙われる。それが未だ一人前に成りたての開拓者なら猶更だ。
「……」
すぅーー、とガララが吐いた長く細い息が夜闇に溶けた。
月と星の明かりしかない大街道の片隅で動く人影を見つけたガララは、息を深く、深く切り替えていく。この時間の見張りの担当者はガララとアンナ、それと寝ないで済むレサトだ。
ケイジ、リコと言う攻撃力が高い二人は装甲車の後部で金属剥き出しの床に臭い大ネズミの毛皮を敷いた寝床で丸くなっている。
装甲車の天井で機銃を担当しているアンナは未だ周囲の異変には気が付いていないのだろう。サイリウムが投げ込まれる様子は無い。
賊と思われるモノの数は三人。一パーティと考えればあともう三人何処かに居るのかもしれない。ならば早めにこの三人を片付けてしまった方が良いだろう。ガララはそう判断した。判断をしたのなら行動をするべきだ。
――
口内で溶ける
音が遠くなる。ガララの気配が周囲に溶ける。それだけだ。だが、十分なアシストを得た。ここから先はガララ次第だ。
一歩、二歩、三歩――四歩目で獲物に手が届いた。嫌と言うほどやらされた訓練のお陰で右手と左手が蛇の様に音もなく、滑らかに動く。
左手の針が口内に、右手で握った針が相手の耳の孔に差し込まれる。
盗賊技能のソレは呪印のガードが薄くなる身体の内側へ音なく一撃を加える技だ。喉を突き破り、声を殺す。鼓膜を容赦なく穿ち、内耳を突き破り三半規管を掻き混ぜる。自身の音は勿論、相手の声すら殺す無音の殺人行為。ソレを為したガララは刺した針はそのままに声と平衡感覚を奪った獲物を、そっ、と下ろす。
芸術の様な一撃だ。数日前まで見習いの開拓者が出きて良い動きではない。
それでも残りの獲物二人は気が付いてしまう。
元より闇に紛れての襲撃だ。
だからガララは追撃する。
振り向き、まだ状況が確認で来ていない一人に逆手に握った針を突き刺す。
狙ったのはやはり呪印の防壁が少ない両目。
逆手で差し込み、掌に鉄板を忍ばせたグローブで針の尻を奥に差し込む。「ぎゃぁあぁっ!」。叫びが上がる。異変が周囲に伝わる。「畜生ッ!」残った一人がイラついた様に叫ぶ。ガララは素早くサイリウムを腿に叩きつけて圧し折るとソイツに向けて投げて素早く後方の闇に溶けた。ガララを狙っての銃撃がくる。AKかSMGだろう。連続した銃撃音は暗闇に潜んだ獲物を燻り出すには良いチョイスだ。彼はその判断を間違えて居なかった。
ただ、どうしてガララがサイリウムを投げて退いたかを考えるべきだった。
連続する銃撃音。
それは上から降って来た。
『今ので最後?』
装甲車に取り付けられた機銃で光の中に浮かんだ人影を掃射したアンナからの
「解らない。ガララは二人殺したよ」
それに軽く応じると、少し離れた場所で人が動く気配がした。同じ様に路駐をしている連中だろう。縄張りの中からこちらを伺い、懐中電灯を向けている。車泥棒と間違われても面白く無いのでガララわざとその明かりに入り、軽く手を挙げてみせた。
顔の認識が出来る時間帯の間に両隣に挨拶は済ませてある。ガララはしっかりと自分達の陣地に居たことも有り、特に揉め事は起こらなかった。
『そ。未だ三人位なら居る可能性有るわね、レサトに行って貰うわ』
「そうして貰えると助かる」
それだけ言うとガララはバンド等に金属部品が使われていない盗賊時計を見た。時刻は午前三時。あと一時間ほどでケイジと交代だ。それまで頑張るとしよう。軽く伸びをしながら三つの死体の周りにサイリウムを転がし、『やれる』と言うことをアピールしておいた。
「ねー、ケイジくん。早めに駐車場使える様になろうよ」
「そうだな。マジで疲れ取れねぇわ」
空がうっすらと明るくなる中、ケイジとリコは装甲車の天井でコーヒーを啜りながらそんな会話をしていた。午前四時からの見張りの間は特に異変は無かったが、その前の担当者が造った三つの死体が路上駐車の危険性を示していた。
「……」
車泥棒が居るから路上駐車の際には見張りが必須だ。
そんな噂を聞いていたが、本当に来るとは思って居なかった。
幸いにも対処が出来たが、盗賊だけで構成された専門家などに目を付けられたら寝ている間にあの世でしたと言うことも有り得る。
雑魚しか来ない。
そんな希望を持てる程ケイジは楽観的ではない。
「金がなぁ……」
「ないからねぇー」
車は高級品だ。その辺に無人で停めて置いたら盗まれる。安い駐車場だと、そこのオーナーがグルと言うパターンすらある。そんな中、ヴァッヘンで最も信頼が出来るのが
何と言っても盗難に遭った場合、その盗難に関わった人数分の焼肉を用意してくれるのが素晴らしい。特にタイヤネックレスを嵌められた犯人の叫びを聞きながら目の前で焼いてくれるサービスが大人気だ。
そんな素敵な駐車場を使うには月に金貨一枚が必要だ。今のケイジ達には別に用意出来ないことは無い金額だ。それでも月の稼ぎの半分ほどが飛んで行く。そこから弾丸代に銃やレサトのメンテナンス代を足すとトントンと言った具合になってしまう。
生きては行けるだろうが、強くは鳴れない。つまりは呪印を彫り進めることが出来ずに緩慢に死んでいくだけだ。流石にソレは選べない。
だからこうして装甲車を仮住まいに路上生活者と成ったのだが――
「――」
ケイジが背伸びを一発。パきパ期と骨が、肉が鳴く。硬くて冷たい床に大ネズミの皮を敷いても金属の冷たさは、硬さは大して緩和出来ない。見張りもやっていたので思いっ切り寝不足だ。これは辛い。
「……車も手に入ってパーティ登録も済んだ」
「と、言うことは?」
「ヤァ。さっさと次の稼ぎ場に移ろうぜ?」
あとがき
『しぼうかくにん』
がらら と ろい といっしょに、
くるまをひっぱるくるまをとりにいった。
かえってきたら、ハンカチをかおにかけた けいじ がねていた。
がらら が けいじ のてをにぎってあわてていた。
しぼうかくにん。
……しろーとが、てくびで、みゃくをとるのはオススメしません。
そろそろ一部が終わるので終わったらこんな感じの誰かの日記でもおまけにしようと思う。
思うが、ひらがなばっかだとどうだろう?
どうですか?
読みにくいようだったらカタカナも増やして漢字も入れますがー。
そんな軽いあんけーと
こたえてくれるとうれしいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます