ヤジロー
ヴァッヘン中央区は開拓者達の為の区画だ。
ブラック・バック・ストリートが存在する東区にあるのが
人は多い。店も多い。でも土地はそれ程広くはない。だが『雑多』ではない。
活気がある。そう言うべきだ。
そう。明るく、綺麗で、人々が笑い合う中央区は活気があった。
それは露店一つ取ってみてもそうだ。
売られているのは空が飛べたり、脳内で世界の平和を守ったりするクスリや盗品ではなく、見習いを脱した職人系の連中が造った装備や、開拓者の胃袋を狙った軽食などだ。
白い煙を吐き出しながらケタケタ笑う
「ソイツは特注品になるな、兄ちゃん」
「……マジかぁー」
でも別に立ち入りを禁止されているわけではないので、そんな空間に
ケイジよりも少し年上位だろう。タオルを頭に巻いた髭面ドワーフの
問題点の解消の為――ではなく、どちらかと言うと上手く行った部分、ケイジにとってしっくりと来た部分を補強する為だ。
反省の多かった初めての戦闘から一週間、ケイジとガララは一日おきにゴブリン狩りに出かけていた。その間、ケイジを助けていたのは一つの技能だ。
馴染んでいるのならば、それを強化するのだって火力の強化に繋がるはずだ。
ショットガンを買うよりも拳銃を買う方が安いだろう。
そんな気持ちでゴブルガンに代わるモノを探していたのだが……
「そもそもリボルバーってだけであんまり需要無い所に大口径で、更にグリップでの殴打を見越したモノだろ? そりゃ特注品か兄ちゃんと同じ趣味の奴が死んで中古で流れてくるのを待つ位しか無いよ」
結果は余り芳しくない。
朝食を摂ってからブラブラと店を冷かしていたのだが、目的に合ったモノは見つからなかった。いい加減に歩くのもだるくなって来たので、休憩も兼ねて露店を開いているドワーフに思い切って聞いてみた所、返って来たのが先程の『それは特注品になるな』だった。
商品が売れなくて暇をしていたのか、話好きな性格なのか、ドワーフが「まぁ座れよ」と小さな椅子を寄越してきたので、言葉に甘えてケイジは腰を下ろした。
「大口径のオートマチックなら未だ需要もあるけど……グリップで殴るんだろ?」
「あぁ殴る」
「だったら確かにリボルバーの方が良いな」
「つーかよ、そんなに需要ねぇのか?
「銃持ってる相手に近接挑む馬鹿は少ないからな」
「客に向かって馬鹿はねーだろ、馬鹿は」
「失敬。お馬鹿」
「……」
『お』を付けて丁寧に言えば良い訳ではない。舐めんな。そんな気持ちで中指おったてるケイジ。
「今まではどうしてたんだ?」
が、ドワーフはそんなモノ気にしない。ケイジの指を折り畳み、何でも無いように訊いてくる。大人なその対応に毒気を抜かれ、ケイジは溜息一つ吐き出した。
「ゴブルガン使ってた」
後ろ腰のガンホルダーから見すぼらしい単発拳銃を取り出し「ほらよ、コイツだ」と手渡す。
「あぁ、成程。ゴブルガンかぁ、当たり引くと結構頑丈だもんなー」
「? 当たり外れが有んのか?」
「ゴブリンは量産体制造れないからな、正真正銘で職人の手によるワンオフだ。そんな訳で、ゴブリン王国近辺のゴブリンが持ってる奴だと下手にオレとかが造った奴よりも良いのが有ったりする」
「……へぇ。アイツら結構すげぇんだな」
「凄く無ければとっくに滅ぼしてるよ」
ドワーフの笑いながらの言葉に、ケイジは認識を改める。そうか。俺、ゴブリン舐めてたかもしれねぇな。油断は無かった。そう言い切れない程に狩り慣れて来た感覚があった。引締めよう。ガララにも教えてやろう。
「それで、どうしてゴブルガンから変えようと思ったんだ?」
「あぁ、それがな。……弾がなぁ――」
「あー……成程、成程」
言い淀んだケイジの言葉に、ドワーフが、うんうんと頷き、さっきとは違うニュアンスで「ゴブリンは量産体制造れないからな」と呟いた。
そう。
そうなのだ。
ゴブルガンの弾は当然、ゴブリンが持って居るモノを奪って使っていた。だが、その弾のバラつきが大きいのだ。そして造りが雑なせいか、結構な量の不発弾も混じっているのだ。ゴブの顔面ぼこぼこに腫らしてやってから地面に叩きつけ、止めに耳の穴の開通式を開催しようとしたら弾が出ず、反撃で頭突きを喰らって鼻血が吹き出た時、ケイジは悟った。
良い銃の最低条件は、撃てる銃だ、と。
ゴブリンは余り手先が器用ではない。そして、それに輪を掛けて性格が雑だ。
そんな彼等が大量生産の真似事をすると、粗悪品の率がハンパ無い。もしかしたら王国近辺だとそれも解消されているのかもしれないが、ヴルツェ街道辺りだと粗悪品率が高い。
相手がゴブリンだからケイジは未だ生きているが、それ以外だったらその不発弾一発で終わっていたかもしれない。そんな訳でもう少し信頼できるものに変えようと思ったのだ。
「単発のままで良いんなら、ゴブルガン改造した方が安く済むぞ?」
「へぇ、どんなもんだよ?」
「改造内容によるな、どれ位の口径が良いんだ?」
「……ライフル用の五十口径とか、かっけーよな」
「あぁ、うん。かっけーな。ただしソレ撃つ拳銃となると特注品になるな」
後、重くなりすぎるから今のお前だと想定した使い方無理だぞ、とドワーフ。
「んじゃ拳銃用の五十口径だと?」
「オートマチック用の奴な。それならあんまり弄んなくて済むから――」
立てられた指は人差し指と中指の二本。
「銀貨な」
「……」
さっきのお返しと言う訳では無いが、今度はケイジがドワーフの中指を畳んでみた。立っている指は一本減って一本になった。
「……銀貨一、銅貨五十。代わりにちょっとグリップで遊ばせろ。試してみたいことがある」
「オーケイ。素敵だぜ、マエストロ。俺が女なら惚れてたよ」
「気持ち悪いことを言うな。後、変なお世辞も止めろ。親方に聞かれたら笑われちまう」
「安心しな。俺は男だから惚れずに感謝だけするさ。あー……ミスター?」
「ヤジロー。シュタル工房で駆け出しやってる」
「ケイジ、
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