第24話カワイイ俺のカワイイ接客⑧
「さっきの彼、呼び方は"コウ"でよろしく」
囁いた俺に時成は笑みを作ると、真似するように、俺の耳元へと顔を寄せ、掌で口元を隠す。
「コウさんですねー。了解しましたー」
それから二人で視線を合わせ、微笑み合って完了だ。
周囲のお客様達の反応は上々。満足しながら時成と持ち場を入れ替わり、別のお客様の席へ。
すると早速、
「あいらちゃんと何話してたの?」
俺はふふっ、と肩をすくめて、口元に人差し指を立てる。
「残念ながらご主人様にもナイショです。言ったらきっと、あいらが拗ねちゃう」
「えー? あっやしいなー」
楽しそうに笑うお客様。多少仕草を変え言葉を変え、似たやり取りを続けるのは、アチラ側の時成も一緒だろう。
その後もオーダーを受けたり運んだり、時に会計に入ったりと本来の飲食店としての仕事をこなしつつ、ホール内を動き回る。
少し水でも飲むか。
さり気なくパントリーに入ると、先客がいた。チーズケーキを皿に乗せていた時成が、「あー先輩いいところにー」と手招く。
「これ、拓さんのオーダーですー」
「? お前、行かないのか?」
「先輩のお客様ですからねー。流石にそこまでがめつくないですー」
そうか?
俺の疑問が声になる前に、「というワケでコレ、よろしくお願いしますー」と小皿を押し付けられた。
まあ、時成がいいのなら……。
チェックの入った追加伝票を掴み、俺は拓さんの席へと向かう。通りざまに横目で確認したコウくんのパンケーキは、残りあと少しといった所だ。
注文した品を手に向かってくる俺に気づいたのだろう。ジュースを片手に店内を眺めていた拓さんは、ニッと笑んでグラスを置いた。
ここは海外カフェのテラス席か。
「拓さん、チーズケーキです」
「ありがと。やっぱ食後のデザートは外せないよね!」
「特に女性は"別腹"って言いますもんね」
「へ? あ、うん」
拓さんはキョトンと目を丸くして、それから「そうだね」と珍しく苦笑を浮かべた。
何か妙な事を言っただろうか。小首を傾げた俺は、数秒後に気付いた。
もしかして拓さんは、"女性"として扱われたくないタイプだったのかもしれない。
「あ、スミマセン。失言でした」
急いで謝罪を口にした俺に、拓さんは「あーイヤイヤ、大丈夫だって」と否定するように手を振って、
「オレはコレでも"女"だって胸張ってるタイプ。だから、へーき」
デザートフォークでチーズケーキの先端を切り分けて口に運び、「ん、おいし」と頬を緩めた拓さんは、「たださ」と言葉を続ける。
「店のキャストとか、友達以外でさ。そこまで自然とオレを"女"扱いする人って中々いないから、ちょっとビックリしただけ。この感じだと、ユウちゃんにとってはカイも"女"かな?」
「カッコ良くエスコートして貰ってばっかりで特に女性扱いしているワケではないですけど、認識としては女性ですね」
「そっかぁ」
「あ、もしかしてカイさんって、そう思われたくないタイプでしたか?」
「ん? いや、ヘーキヘーキ。カワイイ"女の子"だよ、カイは」
心配ないと微笑まれ、胸を撫で下ろす。確かに、今まで考えた事もなかったが、"その可能性"もあったワケだ。
完全な考慮不足だ。拓さんには申し訳ないが、カイさんに直接示す前に知れて良かった。
フォークを置いた拓さんが、「オレはさ」と呟いた。
「"拓"の時も"そうじゃない"時も、殆ど差はないからワリと気楽なんだけど、カイはどっちかって言うと上手く"演じてる"ってタイプでさ。とはいえ"カイ"がまるっと嘘ってワケじゃなくて、自分の"もう一つの人格"として楽しんでるっぽいんだよね」
「もう一つの人格……」
「そ。だからきっと、"カイ"として得た感情は勿論あの子自身の感情なんだけど、それを"そう"受け取るか"カイ"としての感情だと割りきるかは、蓋を開けてみないとわかんなくって。オレも結構信頼されてるほうだけど、その辺は未だに判断付きにくいんだんよねー」
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