第22話カワイイ俺のカワイイ接客⑥

「そーいえば、さっき来てくれたあのツインテちゃんも可愛いねー。ユウちゃんの後輩?」

「ええ、あいらは後輩で、ウチの人気ナンバーツーですよ」

「はぁ~どうりで!」


 納得したように手を打った拓さんの前に、完成したプレートを置き直す。

 拓さんは「わーそうそうコレコレ! かわいい! あ、写真撮ろ!」と興奮気味に取り出したスマフォでパシャリと撮影してから、「いただきます」と手を合わせた。

 スプーンを手にして、オムライスをひとすくい。


「ん、美味しいね! こーゆーお店って味は二の次だったりするけど、ココはちゃんとしてるんだ?」

「"サービス料"が上乗せされてる分やっぱり割高にはなっちゃいますけど、『これなら妥当だ』って思ってもらえるようにしたいんですよ。なので結構、メニューにも口出ししちゃってて」

「なるほどねぇ、納得。ユウちゃん監修なら、間違いないね」手放しの称賛に、


「店長が僕のワガママを許してくれる人で良かったです」照れを含みながら告げると、拓さんは笑みを携えたまま、


「んー、その店長さんが今後もこの店を維持したいって先を見据えているなら、ユウちゃんの意見はもっともだろうからね。迷惑どころか、むしろありがたいんじゃないかな」

「……だといいんですけど」


(なんか、意外)


 もっと茶化してくるかと思いきや、案外真面目に返されてしまった。それも、どことなく経営者目線の意見だ。


 失礼ながら『ちゃんと考えてるんだ……』と思ってしまったのは、俺の知る拓さんがあの店での軽薄なイメージしかないからだ。


 拓さんはオムライスをもう一口と添えてあるサラダを咀嚼し、俺に視線を移すと、「それにしても」といたずらっぽく口端をつり上げる。


「"あーゆーサービス"のウケがいいのは、やっぱり何処も一緒だね」

「!」


 目を見開いた俺に、拓さんはクツクツと笑い、


「そんなに驚かなくても。この界隈にいればそりゃ知識として身につくし、"対象"になれば尚更でしょ?」


 言外に『お仲間だ』と告げられる。


「……そうですね。あの時の"取り合い"も、手慣れてましたもん」

「いーや? 一応、"そーゆー嗜好を好む子"の前ではやったりはするけど、ユウちゃんはそーゆーワケじゃなさそうだったからね。ユウちゃんの前では、常に"いつも通り"だよ」

「いつも通り……」


 訝しげに眉を寄せた俺に、拓さんは「そ。アレはオレとカイの、いつも通り」と笑顔で繰り返した。


 だとしたら。その言葉を信じるのなら、あの時に発せられたカイさんの『俺を取られたくない』宣言は、"演技"ではなく"本心"だったと考えてもいいのだろうか。


(いや、だからそれも、"客"を取られたくないだけだろ)


 浮んだ都合の良い解釈を、そうではないと打ち消す。

 瞬間。はたと気がついた。


(――"都合の良い"?)


 それは、誰に。(俺に?)

 どう、"都合"が、いいって――?


 チリンチリン。


「!」


出来上がりを告げるベルが耳に届き、沈み込んだ思考が遮断される。


「っ、スミマセン、料理が出来たみたいなんで、失礼します」

「はいはーい」


 笑顔のままヒラリと手を上げた拓さんに会釈して、早足でパントリーへ向かう。

 時成もベルの音に反応していたが、『俺が行く』と目で合図した。時成は軽く頷き、お客様との会話を続ける。


 危ない。最近どうもおかしい。

 顕著なのは前回のエスコートからだ。カイさんの言葉が、表情が、いちいち気になる。


(ったく、ミイラ取りがミイラになってどーすんだ)


 出来たてのパンケーキプレートをお盆に乗せながら、ギリリと奥歯を噛む。

 カイさんに、俺を印象付けたいのに、これでは全くの真逆だ。


 なんだか最近、思考のコントロールが上手くいかない。『計算高く思慮深い』が、俺のモットーだった筈なのに。


 何はともあれ、今は仕事中だ。反省は後にしないと。

 目を閉じ首を回して、苛立ちを吐き出すように息をつく。


(……よし)


 戻ってきた"ユウ"の感覚に心を落ち着かせ、ナイフとフォークをお盆に乗せる。

 伝票をポケットに差し込んで、向かったのは"有望な人材くん"の元だ。

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