神さま日和 上

 神様は、また召喚された。

 科学技術の発達というヤツで、神様たちにとっては不本意な形での召喚だった。

 ご隠居のおじいさんに鞭打って現場を任せるようなものとは、一番初めに召喚された神様の談だが、正しくそのとおりだと思う。

 しかし、神様は人の文化と科学が発達したことを知った。


「ねー、ビールは、ビールぅ」


 そんな召喚された神様への『お願い』は、世界経済やら、環境問題やら、世界全体の問題を解決していった。

 流石に戦争は無くならないが、それも縮小しつつはある。

 だが、その『お願い』をするには代償が必要だ。無から有は都合よく生まれない。


「あのなぁ……ただでさえ家計がキツイってのにこれ以上飲まれてたまるか」

「ええー、そんな、ひどいよ、お願い叶えたのにー! 神権侵害だー契約反故だー!」

「うるせぇ……一本だけだぞ」

「わーい、ヨリタカ愛してるぅ!」


 『お願い』の代償、それは——『楽しませること』。


 つまり、神様はエンターテイメントなる物を欲している。

 ここからヨリタカこと俺が語るのは、そんな娯楽を欲する神様と暮らす際に注意する五ケ条である。



第一条 財布を持たせないこと。


 神様は基本的に浪費家だ。正しく言えば、エンターテイメントなるものはお金がかかる。

 そのエンターテイメントにかかるお金のコストを極力減らすためには、大きなお金を持たせないことが一番有効だ。

 また、単純に財布を持たせないことも重要だ。

 神様が商売繁盛、豊穣、お金の神様なら神力による運命強制により、お金を自力で集めることさえ出来る。

 しかし、貯める概念を持つ財布を渡さなければ、概念固定体である神様は「貯めることができない」。

 概念に縛られてお金を貯めることが出来ないというわけだ。


「……しんじゃんる?」

「美味い、生、そう書いてあるだろ」

「ビールって書いてない……」

「神様神様、最近はビールよりも美味しいお酒があるのですよ」

「値段も安い……」

「それだけお得ってことだ。ビールよりも多く飲めて神様もハッピーヨリタカもハッピー。それに、お風呂にはいった後に飲むと気持ちいいだろうなぁ」

「……ごく」




第二条 一緒に行動すること。


 神様は縦横無尽に移動する。

 どれくらい縦横無尽かと言えば、テレビで見たというだけで、沖縄に居た神様が仙台の七夕祭りまで一瞬で行ったというものもある。

 そのテレポーテーションまがいの移動に対する対策は、基本、一緒にいることだ。

 願い人の意識という概念の檻がある限り、神様はめちゃくちゃな移動を使うことができない。


「コンビニ行ってくるー」

「ちょっと待て、俺も行く」

「えー、ヨリタカも?」

「なんだ、行ったらいけない理由とかあるのか?」

「そ、そんなことないよ」

「そうか。じゃあハードディスクに録画されてた【盛岡冷麺祭り大特集! あなたは本当の冷麺を知らない!】は関係ないんだな」

「いっしょに行こう、盛岡へ!」

「断る」

「のう」

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