散文


 ベキオス国のアクレムの子、フェトレスが立つ。


 トラヴァルス山の上、蒼月レミラの下、パタルカの時の中に。


 アクレムの子は叫ぶ。


 己の罪の重さを、己の驕りを、己の無知の怒りを。


 トラヴァス山の主、赤王護、炎岩竜のトローガ、その叫びを聴き、目覚める。


 そして、フェトレスに問う。


「雄叫びの者よ、深罪の者よ、無知なる者よ。何故トラヴァルスに来た。ここは赤王の護、炎岩のトローガが神山である。俗人が来る所ではない」


 フェトレスは答える。


「我、断罪を求める者。恋しき者を殺した罪を断罪することを欲する」


 赤王護はまた問う。


「俗世の罪は俗世にて洗え。アナ・トラヴァルスは始まりの赤を護る場所。罪どころか魂までも無に帰す場所。俗人の来る所ではない。もう一度問う。何故此処に来た」


 アクレムの子は言う。


「生前の青、生後の黄、待生の白、終わりの黒を巡り、我、此処に来たり。色伍王を回り、最後にて始まりの王に訪ねたり」


 炎岩竜、その頑強なる岩皮を揺らし、大いに笑う。


「嘘を言うではない、深罪の者よ。色伍王に会うこと叶うは灰王の血族、リオ・レギオのみ。彼の族、灰の眼を持ち、灰の髪を持つと聞く。その族、はるか昔に滅びたとまた聞く。お前の眼を見よ、髪を見よ。黒き終わりしか宿しておらぬ」


 その言葉を聞き、フェレトスは大声で笑う。


「赤王護、炎岩竜のトローガであろうものが山に縛られ地底に堕ちたか! 真逆外面で我が血脈を見ようとは! ならば見せよう。我が深罪の技を、恋しき者を殺した憎き血脈の技を!」


 フェトレスに集まるは色。火持つ山は熱を失い、蒼き月レミラは蒼光を失い、パタルカの時は沈黙す。


「色死を司る技、アヴノス・レギオをその身に受けたくなければ、我が断罪の願いの為に、赤王への道を開け」


 フェトレスの剣に集まりし光灰の力を見、トローガはひれ伏す。


「失礼致した、色伍王を束ねた王、灰王の血を引く者。我が無礼を許してくださるならば、我にその尊き名を教え給え」


「我はベキオス国の勇士アクレムの子、深罪負いしフェトレス」


 トローガにより、赤王への道、開いたり。

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