テーブルの記憶
「君は家族を繋ぐ絆だ。私は君をそう作った」
「君はいつか壊れる運命だ。私は君をそう作った」
「それが私の、あの子に対する答えだ」
「あら、大きくて、丸くて、いいテーブルね。ねぇ、あなた?」
「ああ。いいテーブルだ」
「これなら、これから生まれるこの子と一緒に食事ができるわ。すみません、これくださいな」
「おかーさーん、ごはんごはん!」
「はいはい、ちょっと待ってね。こら、テーブルを叩かないの!」
「あいつはまだ帰っていないのか?」
「ええ……」
「こんにちは。お義母さん、初めまして」
「えぇ、はじめまして……」
「……何で泣いてるんだよ、母さん」
「このテーブルも、古いなぁ。俺が生まれた頃からあるし」
「このテーブルはね、母さんの嫁入り道具なのよ」
「じゃあ、このテーブルはあなたをずっと見てきたのね」
「そういうことになるなあ」
「ママー、おなかすいたよぉ」
「はいはい、後もう少しよ」
「こら、テーブルを叩くんじゃない。壊れるだろ?」
「大学はどうだ?」
「うん、おもしろいよ」
「そうか……お前と酒が飲めるなんてな」
「何で泣いてるんだよ、父さん」
「……お前の祖父ちゃんの、夢だったらしい。このテーブルで、親子一緒に酒を飲むことが」
「……そっか」
「このテーブル、俺の親父よりも年が長いんだってさ」
「だから、こんなに傷だらけなのねぇ」
「半分は親父、半分は俺がつけたらしいぜ」
「親子でやんちゃなのねぇ、ふふ」
「ははは、かもな」
「おかあさん、おにいちゃんがエビフライ取ったー!」
「へへへーん、どこにしょうこがあるってんだよー」
「しょうがないわね、私のをあげるから静かにしなさいな」
「もうこのテーブルもダメなのかしら……」
「壊れたのか?」
「ちょっとガタガタする程度だからまだ使えるとは思うけど」
「そういえば、これってどれくらい前からあるの?」
「お前たちのひい祖母ちゃんの嫁入り道具だかな、父さんの二倍位の年齢だな」
「へぇ……」
「もうだめだ、このテーブル」
「よく持ったほうだよね」
「そだな。どうするかな、これ」
「捨てちゃう?」
「うーん、そうだなあ。リサイクルもできないだろ、こんだけ傷ついてたら」
「あら。もったいないわね。こんないい子を捨てるだなんて」
「こんなに君は綺麗なのに、ね」
「ん? 綺麗じゃない?」
「なに言ってるの。君に付いたこの傷は、一つ一つ、あなたが繋いできたものなの。それが綺麗じゃない訳がないでしょ?」
「君がこのまま壊れるのは、もったいないわ。私のところに来る?」
「やっぱり、君もこの子と同じであの人に作られたのね。だから、君は壊れることを許された」
「私は過ちを犯してしまったわ、この子と過ごしたいばかりに、この子に呪いを与えてしまったわ」
「だから、私は、君を、直さなかったの」
「ごめんね」
「君は、壊れるの?」
「うん、もう、壊れることが、怖くないから」
「また、会える?」
「また、いつか、きっと」
ガタン
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます