絶対幸運と鍛錬者

「やぁや、キミは幸運だね。ラッキーボーイだね」


 少年の前に現れた安全帽を被った女の子は、暢気な声で話しかける。


「ボクが来たからには、もう安心だよ!」


 燃えさかる建物の中、悠然と歩きながら。


「なんたって、ボクは最強に運がいいからね!」


 よっこらせ、と女の子は少年を担ぎ上げる。


 眼がぱちくりとする少年。いままで煙で呼吸困難となっていたのに、なぜか彼女の近くだと、息ができる。


「やっぱり小学生にもなると重いなー。まあ、ゆっくり進もっか!」


 一歩ずつ、ゆっくりと女の子は進む。


 そのとき、燃えさかる二階の床板が二人の真上に落ちてきた。


 少年は察知するも、恐怖で声が出なかった。


 しかし、その床板は彼らに直撃せず、風にあおられた別の床板に当たって、別の所に落ちた。


「ね、だいじょーぶだいじょーぶ」


 にこり、と笑う女の子。安全第一と書かれたヘルメットの下には、不敵な笑みが見えた。


 しばらく歩くと、その先には扉があった。


 もちろん、燃えさかっている。むしろ、玄関ごと崩れていると言った方がいい惨状だ。


「さてっと、ユーマー、男の子救助完了ー、玄関が崩れてるから壊してー」


 少女が叫ぶと、次の瞬間、玄関が横に吹っ飛んだ。


 目の前の燃えさかる下駄箱や、崩れ落ちた壁材も、一緒くたに、風速百メートル越えの竜巻に飲まれたように。


「ったく、まーたへんなことに突っ込みやがって」


 その先には、真っ赤なレザーボディスーツと真っ赤なフルフェイスヘルメットを被った筋肉だるまが一人。


「ごめんごめん、でもミッションコンプリートだよ」


 女の子は、少年を彼の両親の前に届けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る