憎たらしいほど好きな夏

 僕にとって、夏休みの最後と言えば、大学四回生の夏休みでなく、高校二年の夏休みだ。


 それは、僕の従姉である彼女が過ごした最後の夏休みでもあった。


「夏って、いいよね」


 連日で真夏日が続いた夏の昼下がり、終末期療養として実家であるうちの一部屋に、彼女は居た。


「こんなに熱いのに?」


 彼女の部屋はクーラーが効いていて、僕はその熱気から逃げるように彼女の部屋に来ていた。


「うん、葉っぱは青々しくて、食べるもの全部みずみずしく命にあふれて、ほんと、憎たらしいほどうらやましくなる季節だね」


 そう言って彼女は窓の外を見る。頭全体を覆うニット帽を被った彼女は、いたずら顔で笑っていた。


「……なかなか返事に困るんだけど」


「ああ、ごめんね。いやー、想ったこと言っておかないと、もったいないかなって」


「まあ、リア充を見てると、憎たらしくなるってのは分かる」


「でっしょー」


 ふふん、と不敵な笑み。あいかわらず、彼女の笑顔はバリエーションが多くて飽きないな。


「でもまあ、もうおしまいなんだよね」


 でも、その合間に見える、笑顔が消えた時の何もない表情だけは、見たくなかった。


 見なければいけない、覚えてなければいけない。


 自分にうそを吐いていた。逃げるためでなく、彼女のために、僕はここに居た。


「夏はいいよね。私、死ぬなら夏がいいな」


 僕はその言葉に何も答えず……、


 彼女を抱いた。


 僕の夏休みはそこで終わった。


 彼女が愛した夏休みと一緒に。

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