不安定な神さま力
「一つ疑問があるんじゃが」
「何だ?」
目の前にいる白い髪の少女――もゆらが神妙な顔で俺に聞いてきた。
授業が終わった後は、深夜にワラワラ動画で消費した時間を取り戻すかのように研究室で寝るもゆらが真剣な顔でずっと考えているのはめずらしかった。
だけど、逆に面倒が起きるということも俺は予想していた。
「ふぉとを見ていて思ったのだが、何故ふぉとのその、神力はあんなに高いのじゃ?」
もゆらがソファで寝ている女性――ふぉとを見つつ、そんな質問を俺にぶつける。
「ああ、そのことか。そりゃあ、ふぉとは人工型だからな」
「人工型とな?」
「人が作ったモノに関する概念を固定化したものが人工型の神さまと言われるんだ」
「付喪神とは違うのかえ?」
「あれは年経たモノに霊気が宿るっていう超自然型の神さまだろ。例えば、ロボットアニメの金字塔、ガントムと言ったら大体の人は分かるだろ?」
「おお、あれな。この前全話見たぞ」
ちなみに俺は全話は見ていない。時間だけはあるなこいつは。
「そんな、制作物、人工物に対する共通認識、概念を抽出して創りだした神さまっていうのが人工型なんだ。つまり、今の人だったら大体知ってる、イメージできる概念を元にしてる。神力がもゆらよりも高いのは、単純に知ってる人が多いってことだろうな」
まあ俺には神力の多さは分からないが、多分大体あってるだろう。
ふむ、ともゆらは再び考えこむ。少し説明が難しかっただろうか?
「では、もう一つ聞くが、神力の大きさと胸の大きさは関係あるのかの?」
……どうしよう。俺は固まった。
というか、その事については俺も聞きたい。
出会ったころ、つまり山姥の時のもゆらはそりゃあもうぼんきゅっぼんで、胸もばーんだった。ばーん、だ。アメリカのプレイボーイの表紙も取れるくらいのばーん! だった。
なのに、今じゃ小学3年生の表紙ぐらいしか飾れないすとん、な体型になっている。
これは、神力というか概念を固定する力の問題なんだろうか?
「山姥のころは力があり余っておったからの。肉体の方も形成できたんじゃが、神化してからはこのとおり、力が足りんから体も変えれない」
ああ、やっぱり力で変えていたのか。まあ神さまって自分で姿を変えれるモノらしいし、それは納得だ。
「でも、ふぉとはそんな器用な事はできないぞ?」
ふぉとは生まれたばかりの神さまであり、そんな力を操作する方法は知らないはずだ。つまり、それは、彼女は素であんなパーフェクトスタイルだということだ。
「うぬぬ、しかし、それを認めると、我の素の姿がこれ、ということになる……」
というかその通りだろう。
とは口が裂けても言えない。
「もゆらの場合、神格を忘れているからじゃないのか?」
「かもしれんのう」
神格というのは神核であり、つまり概念の芯となるものだ。
神格を忘れた山姥が神に還ろうとすると、いままであった山姥という共通認識を失い、代わりに力の寄る辺のない存在だけが残った。
「あー。そのなんだ、すまない」
「いいのじゃ。我も我を忘れたままは良くなかっただろうしな」
「記憶喪失みたいなもんだもんなぁ」
「じゃから、はよう我を調べて思い出させておくれよ、ぬし様?」
「わかったよ」
白い歯を出していたずらめいた笑みを浮かべる元山姥に、俺は苦笑しつつ頷いた。
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